Ballet Factory

高橋森彦 バレエ&ダンス逍遥

世田谷美術館INSIDE/OUT・黒沢美香ソロダンス『鳥日 once a year』
~昭和初期の風情ある邸宅で繰り広げられた、日常から異世界へ誘う不可思議なダンス

黒沢美香ソロダンス『鳥日』 撮影:森日出夫
黒沢美香ソロダンス『鳥日』 撮影:森日出夫
黒沢美香ソロダンス『鳥日』 撮影:森日出夫
黒沢美香ソロダンス『鳥日』 撮影:森日出夫

世田谷美術館が「建築と身体」をテーマに展開しているパフォーマンスシリーズINSIDE/OUT。 3回目となる今回は美術館を飛び出して世田谷区内の有形文化財「旧小坂家住宅」で催された。『鳥日once a year』と題された黒沢美香のソロダンスである。

世田谷の岡本、瀬田、上野毛と続く地域は多摩川に近い国分寺崖線沿いに位置する。都会の喧騒から離れたこの地域には、かつて華族や政財界人たちの別邸が立ち並んでいたという。 しかし、現存するのは瀬田四丁目広場の「旧小坂家住宅」のみとなってしまった。昭和12年建造のこの別邸は木造和風の平屋建て(一部2階建て)。 茅葺き風の古民家を思わせる外観が特徴である。広大な広場は緑豊かで近隣住民の憩いの場になっているという。

受付を済ませると玄関の向かいにある茶の間に案内される。30名弱の観客が壁や障子を背に所狭しと座している。 部屋の片隅には何やらブキミな物体の姿が…。黒っぽい羽の付いた衣装というかオブジェを身に付けうずくまった得体知れぬモノである。 黒沢その人だ。開演時間になると、のそのそ動き始め、観客のすぐ側まで迫り来る。閉め切っていた襖や障子を開けながら部屋や廊下を縦横無尽に練り歩き這いまわる。 最初は不思議な生き物を眺めているといった風であった観客も次第に動きに反応して追いかけたり、待ち伏せしたりする。 老獪な黒沢の術中にハマり、妙な親近感すら覚えてしまう。

黒沢美香ソロダンス『鳥日』 撮影:森日出夫
黒沢美香ソロダンス『鳥日』 撮影:森日出夫
黒沢美香ソロダンス『鳥日』 撮影:森日出夫
黒沢美香ソロダンス『鳥日』 撮影:森日出夫

その後も黒沢の先導のもと居間や茶室、書斎へと導かれていく。書斎は寄木のフローリング仕様で柱や梁は太く英国の田園住居の趣あると称される。 マントルピースの上には仏像が置かれていたという場所があり、黒沢はそこに登ってうずくまる。さながら主の居ない部屋に居つく亡霊のよう。 ここの主は何を考え、何を思い過ごしたのか――。そんな追想にふけってしまう。長い渡り廊下を案内され行きついた先は寝室だった。 天井は漆喰仕上げで照明器具の回りに中心飾り等が施されたモダンな洋室だ。足を踏み入れると、古めかしいオーディオからハバネラの名曲「ラ・パロマ」 が流れている。自由のシンボルたる鳩をモチーフにしながらも心に沁みるエレジー。名状しがたい懐かしさ哀しさが去来する。やがて黒沢は長い羽を頭に付け、オレンジ色の長靴を履いて庭に降り舞った。

黒沢美香ソロダンス『鳥日』 撮影:森日出夫
黒沢美香ソロダンス『鳥日』 撮影:森日出夫

昭和初期の残り香が点在する邸宅。女中室やその脇の呼び鈴、電話室、入側、濡れ縁など、かつて営まれていた生活の気配が随所に残っている。 さまざまな記憶を喚起する物たち。そこで黒沢に導かれるままに日常と非日常、現在と過去の境が曖昧になり不可思議な感覚にとらわれる。 ダンスを観るというよりも演者と観客が同じ空間に身を委ね、場を共にし、交感する――。近年、特定の場所で制作されるサイトスペシフィックなパフォーマンスに印象深いものが多い。 『鳥日』も一期一会の奇跡と呼びたい忘じ難い体験だった。
(2012年1月19日 瀬田四丁目広場「旧小坂家住宅」)
撮影:森日出夫

黒沢美香ソロダンス『鳥日』

  • 振付・構成・出演:黒沢美香
  • 衣裳:堂本教子
  • 構成/美術:首くくり栲象
  • 音響:サエグサユキオ
  • 日時:2012年1/18(水)・19(木)・20(金)・21(土)・22(日)
  • 開場14:45/開演15:00
  • 会場:瀬田四丁目広場 旧小坂家住宅 (〒158-0095 世田谷区瀬田4-41-21)
  • 主催:公益財団法人せたがや文化財団世田谷美術館、NPO法人Offsite Dance Project
  • 共催:世田谷区
  • 協力:財団法人世田谷トラストまちづくり

世田谷美術館リオープン記念パフォーマンス ボヴェ太郎『微か』

  • 出演:構成・振付・出演:ボヴェ太郎
  • 音楽:原摩利彦
  • 衣裳制作:砂田悠香理
  • 制作:米原晶子
  • 宣伝美術:細川浩伸
  • 日時:4月6日(金)14時 7日(土)11時/14時 8日(日)11時/14時 開場は開演の30分前 各回とも終演後にアフタートークを行います
  • 申込方法:電話予約…世田谷美術館 教育普及課 03-3415-6346(月曜休)
  • ウェブ予約…Taro BOVE Dance Performance http://tarobove.com/reservation/kasuka
  • 共催:世田谷区
  • 協力:財団法人世田谷トラストまちづくり
  • 会場:1階展示室
  • 定員:各回定員40名
  • 参加費:予約2000円/当日2500円(中学生以下無料)※未就学児童の入場はご遠慮下さい
  • その他:制作協力:Taro BOVE Dance Performance
  • 主催:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷美術館

高橋森彦

舞踊専門紙誌、日刊紙、美術誌、芸術批評誌、公演プログラム、公演チラシ、Web媒体等に公演評・解説・紹介記事・インタビュー記事を寄稿。 バレエ、コンテンポラリー・ダンスなどのほか演劇等も含めたパフォーミングアーツ全般に関心。
公式ブログ「ダンスの海へ」
http://d.hatena.ne.jp/dance300

黒沢美香 公式ウェブサイト

http://www.k5.dion.ne.jp/~kurosawa/

世田谷美術館 公式ホームページ

http://www.setagayaartmuseum.or.jp/

黒沢美香 プロモーションムービー