大人からのバレエ推進委員会監修

高橋森彦のバレエ&ダンスの逍遥

高橋森彦

舞踊専門紙誌、美術誌、芸術批評誌、バレエ公演プログラム、公演チラシ、Web媒体等に公演評・解説・紹介記事・インタビュー記事を寄稿する。

バレエ、コンテンポラリー・ダンスなど洋舞のほか演劇等も含めたパフォーミングアーツ全般に関心。

公式ブログ「ダンスの海へ」

http://d.hatena.ne.jp/dance300

ゆかりバレエ創立20周年記念公演・佐多達枝『カルミナ・ブラーナ』
〜次代に遺したい日本のバレエの貴重な財産を再演

★わが国における創作バレエの担い手として佐多達枝の右に出る存在はいまい。 1950年代から創作を始め『陽の中の対話』(1970年)『満月の夜』(1989年)『四谷スキャンダル』(1990年)『父への手紙』(1993年)『庭園』(2006年)などバレエ史に残る数々の名作を発表してきた。 発想の鋭さテーマの深さ、豊かな舞踊語彙と音楽性を兼ね備えた稀有な作品群である。

★佐多作品は“日本バレエの宝”とも評される。が、繰り返し再演されている作品となると、残念ながら数少なくなってしまう。 わが国では創作もの、ことに再演となると、客席を一杯にすることが難しい。 在野の優れた振付家の作品権利を大きなバレエ団が買って上演してくれることを期待したいけれども、そうは問屋が卸さないのが実際のところだ。

★そんななか佐多作品を取り上げてきたのが名古屋のバレエ界である。 1990年代に松岡伶子らを同人とする「センターバレエ」が『四谷スキャンダル』を上演したのをはじめ、いくつかの小品等が上演された。 そして、近年、佐多作品に挑戦しているのが「ゆかりバレエ」である。名門・佐々智恵子バレエ団出身で名古屋・東京等で幅広く活動する神原ゆかりが1990年に創設。 2000年の10周年、2005年の15周年と折々に佐多の演出・振付『カルミナ・ブラーナ』を上演している。昨秋の創立20周年記念公演でも同作を取り上げた。
★カール・オルフ(1895〜1982)作曲の世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」は、19世紀初頭ドイツの修道院で発見された中世の修道生たちの詩歌集を基に、若者の苦悩や退廃的な日々を描いた大作である。佐多は、かなり以前から同曲を用いての舞踊化を行っているが、初めて全曲を振付けたのは1995年、歌と踊りと演奏を融合させた“合唱舞踊劇”を標榜するO.F.C(オルフ祝祭合唱団)公演だった。合唱隊もコロスとして踊るのが特徴だが、「ゆかりバレエ」 が上演しているのは、全曲用いてダンサーのみが踊るバレエ版である。

Coral Reef

★有名な「おお、運命の女神よ」を冒頭と最後において、その間を、「初春に」「酒場で」「愛の誘い」という章で挟む全25曲。それをエネルギッシュに踊り次いでいく。オルフの魅惑的な音楽と佐多の雄渾の振付が相俟って生み出される高揚感は劇的極まりない。神原はじめ14人が踊る群舞「おお、運命の女神よ」に続く2番「運命の女神の傷手を」のソロは、神原の一粒種で気鋭の成長株・牧村直紀が若々しくも敬虔に踊る。このところ佐多作品の中軸となった石井竜一が溢れんばかりのパワーを漲らせて踊る4番の「太陽は万物を整えおさめる」になると、もう、完全に佐多の演出・振付の「語る力」にのせられてしまう。
★『カルミナ・ブラーナ』は、佐多作品のなかでは例外的に再演を重ねている作品である 。 一時間強の舞台の中に、さまざまの人生模様が織りなされ、観るたびに発見がある。 踊り手が変わったり、同じ踊り手であっても年輪が加わってくると、観る方の受け止め方も違ってくる。 今回も、石井と彼同様に関東から招かれた武石光嗣、後藤和雄、名古屋で活躍する幸田律、水野陽刈、梶田眞嗣、それに牧村という男性陣の力強い踊り、 神原の

Coral Reef

艶のある存在感、長谷川由衣、林茉那ら「ゆかりバレエ」の面々や賛助出演の山岸ひな多(谷桃子バレエ団研究所)らの懸命に佐多振付をこなして生んだ躍動感が交差し、熱い舞台を生んだ。
★なお『カルミナ・ブラーナ』と合わせて定期発表公演も行われ、神原と牧村が『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥで親子共演を果たした。 牧村は2008年YAGP(ユース・アメリカ・グランプリ)スカラシップを獲得し、昨夏の「全日本バレエコンクール」シニア部門男性の部においては第1位に輝いた(創作審査で佐多の『カルミナ・ブラーナ』の2番を踊った)。 跳躍・回転等に秀でた超絶技巧の持ち主だが、若々しく躍動感ある踊りが清々しい。
★「ゆかりバレエ」は、神原と牧村を中心に、佐多のほか、『リリオム』『舞姫』『レ・ミゼラブル』等で知られるベテラン・望月則彦の作品を上演するなど日本の創作バレエに力を注いでいる。 佐多の『カルミナ・ブラーナ』に関しても何度でも再演してほしい。日本のバレエの貴重な財産を次代に遺し、多くの観客にそのすばらしさを伝えていくために…。

2010年10月31日
中京大学文化市民会館オーロラホール
なお、O.F.Cによる合唱舞踊劇版『カルミナ・ブラーナ』と佐多の出世作『陽の中の対話』再演が3月29日(火)19:00〜東京文化会館にて行われる。
詳細(O.F.C.公式ホームページ)