大人からのバレエ推進委員会監修

高橋森彦のバレエ&ダンスの逍遥

高橋森彦

舞踊専門紙誌、美術誌、芸術批評誌、バレエ公演プログラム、公演チラシ、Web媒体等に公演評・解説・紹介記事・インタビュー記事を寄稿する。

バレエ、コンテンポラリー・ダンスなど洋舞のほか演劇等も含めたパフォーミングアーツ全般に関心。

公式ブログ「ダンスの海へ」

http://d.hatena.ne.jp/dance300

松岡伶子バレエ団『白鳥の湖』
〜優秀な踊り手を育て質高い舞台を生む名古屋の雄、本領を発揮

★尾張・名古屋は芸どころ。バレエを習う生徒は数多く、バレエ団・スタジオが林立し、コンクールも競うように開催されている。 バレエ人口密度はわが国有数といわれる。そんな名古屋バレエ界で最大規模の陣容を誇るのが松岡伶子バレエ団だ。 東京の谷桃子バレエ団創立初期に活躍した松岡伶子が1952年に研究所を創設。古典全幕バレエとともに『あゝ野麦峠』(原作:山本茂美)、『火の鳥』(ストラヴィンスキー曲)といった創作バレエも発表するなど精力的に活動を続けてきた。 来年で創立60周年を迎える名門、名古屋の雄である。

★松岡は数々の名ダンサーを育てた実績を持つが、自身の指導に加え、キーロフ・バレエ(現・マリインスキー・バレエ)の往年の名プリンシパル、 ナターリャ・ボリシャコーワ&ワジム・グリャーエフ夫妻を毎年定期的に招聘している。 昨年末の定期公演『白鳥の湖』全幕は、松岡が夫妻との協同作業を始めてから20年目となる記念すべきものとなった。

★ボリシャコーワの振付は、マリインスキー劇場のコンスタンチン・セルゲイエフ版に基づく。オールド・ファンやバレエ・フリークにはおなじみといえる古き良き味わいある伝統的なヴァージョンだ。 わが国でも新国立劇場が開場以来セルゲイエフ版を上演していた(2006年に牧阿佐美版を導入)。今回の公演プログラムに記された松岡の挨拶のなかに「手の向き、顔の向きにも、作品が創られた時の思いを指導していただきました」と書かれていたけれども、 なるほど、たおやかな腕づかいや足の付け根からきっちり上げられるアラベスク、細かな脚先の使い方に、古式ゆかしい昔風の、それでいて無駄のない優美なスタイルが示されているのが実感できる。 ボリシャコーワの狙いは、ロシア・バレエの精華を若い踊り手たちに伝え、かつ、完成度の高い舞台を志向することにあったと思う。 それは総じて高い水準で実現されていた。2日公演で主役は日替わり。初日はオデット/オディールを別ダンサーが踊った。オデットを佐々部佳代、オディールを早矢仕友香が踊る。

Coral Reef

ジュニア時代にジャクソン国際バレエコンクールに入賞するなど早熟な佐々部だが、近年は松岡の下で力をつけ、若いながら大人の雰囲気を持った踊り手として成長した。何よりも音楽性が非凡。 一音一音のニュアンスを掬いながらフレージングをしっかり踏まえて踊ることによって踊りに抑揚が生まれる。腕づかいもきれいだが、足先の使い方、床の押し方が優雅で洗練されている。 早矢仕はこれまでもソリストとして手堅く存在感を示していたが、持ち前の安定したテクニックを存分に発揮して自信たっぷりにオディールを踊り・演じた。奥村は若手ダンサーのなかで碓氷と並んで王子役が最も似合う人だ。 雰囲気よし踊りよしサポートよし。踊っていないときでも相手を想い、支えるかのようなマナーの良さは掛け値なしにすばらしく、それこそが彼の本領であろう。

★主役のみならずソリストや群舞も充実。2幕・4幕の白鳥たちのコール・ド・バレエにはジュニアの踊り手も多いが、バレエミストレスの松岡璃映が「徹底的にシゴいた」と語っていたように、 よく揃って様式美をきっちりと表現していた。1幕では、山下実可・津田知沙と青木崇(大阪バレエカンパニー)が組んだ清新なパ・ド・トロワが見ごたえ十分で、 3幕では、大脇衣里子・岡部舞・大寺資二・高宮直秀(ダンスカンパニーユニコーン)の踊ったスペイン、木村麻実&窪田弘樹のナポリターナ、松本千明&青木のチャルダッシュはじめベテラン・中堅が躍動感たっぷりに踊って場を締める。道化の中弥智博の闊達さ、

Coral Reef

ロットバルトのアンドレイ・クードリャ(田中規子バレエアカデミー)の重厚さも特筆で、終始舞台を牽引していた。とにもかくにもゲスト勢含め踊り手が抜群にいい。毎秋行われる松岡バレエの定期公演を観る大きな醍醐味といえるけれども、ことに今回は新世代が急激に台頭して一層活気に満ちていた。 ボリシャコーワもさぞや腕のふるいようがあったことだろう。

★松岡の下からは、アメリカのバレエ・インターナショナルでプリマを務めた大岩千恵子、ジャン・クリストフ=マイヨー率いるモンテカルロ・バレエで活躍し、 現在はフランスで指導者として活動する浅倉由美子、全国で広く活躍する大寺や新国立劇場に招かれ2度主役を踊った碓氷、その他にもローザンヌ国際バレエコンクールはじめとする内外のバレエコンクールの入賞者、 海外・在京バレエ団で主役級を務める人材を多数輩出している。バレエ芸術は、踊り手ありき。長い時間をかけて育まれるものだ。種をまき、じっくり水をやって丹精込めて育ててこそ花開く。 松岡バレエは地域に根差しつつ優秀な踊り手を育て、かつ質の高い公演活動を行っている。日本のバレエの底を上げる着実な成果を挙げ続けている。今回、新世代の躍進が目覚ましく、さらなる将来も約束されたといっていいだろう。 バレエ界において松岡の存在感がいよいよ増してきたのは疑いのないところだ。

演奏:中部フィルハーモニー交響楽団 指揮:竹本泰蔵
(2010年12月18日 愛知県芸術劇場大ホール)

松岡伶子バレエ団公式ホームページ