大人からのバレエ推進委員会監修

高橋森彦のバレエ&ダンスの逍遥

高橋森彦

舞踊専門紙誌、美術誌、芸術批評誌、バレエ公演プログラム、公演チラシ、Web媒体等に公演評・解説・紹介記事・インタビュー記事を寄稿する。

バレエ、コンテンポラリー・ダンスなど洋舞のほか演劇等も含めたパフォーミングアーツ全般に関心。

公式ブログ「ダンスの海へ」

http://d.hatena.ne.jp/dance300

貞松・浜田バレエ団・創立45周年記念公演回顧
〜バレエ芸術を通し人間の素晴らしさ謳いあげる

端倪すべからざる
バレエ団の軌跡

★こんなに水準が高く独創的な活動を行っているカンパニーがあるとは!神戸の貞松・浜田バレエ団の公演をみると、バレエ通であればあるほどに、驚きを覚え、舌を巻かざるを得ないのではないか。 同時に、多くの観客に訴求する舞台創りを心掛けている。日本バレエの奥深さと可能性を実感させる、端倪すべからざるバレエ団といって過言ではない。 ★同バレエ団は、神戸出身の貞松融と尼崎で活動する浜田蓉子夫妻が1965年に創立した。子息の貞松正一郎は、 ローザンヌ国際バレエコンクール入賞後に松山バレエ団に在籍し内外の檜舞台を経験した名舞踊家である。 神戸中心に古典全幕や創作作品等の公演活動を催しつつ創立初期から兵庫県内各所の小中学校や高等学校にて学校公演を行い、その数は600回を超える。県助成を受けての「県民芸術劇場」公演はじめ依頼公演も少なくない。

★近年の充実には目を瞠らされる。文化庁芸術祭大賞や橘秋子賞功労賞(貞松融・浜田蓉子)を受け、団員が相次いで有力舞踊コンクールで上位入賞を果たしている。 イリ・キリアン、オハッド・ナハリン、ユーリ・ンといった世界的振付家の現代作品を続々レパートリーに加えて話題を呼んでもいる。 昨年(2010年)は創立45周年を迎え、4月〜12月にかけて記念シリーズを展開した。幸いなことに主だった公演は大体所見できた。

森優貴『冬の旅』
世界初演の画期的成果

★なかでも話題がOBで現在、ドイツでダンサー/振付家として活動する森優貴が演出・振付した『冬の旅』全2幕だ。 シューベルトの歌曲集を現代音楽の巨匠、ハンス・ツェンダーが“創造的編曲”した版に振付けたもので、自主的・創造的・先駆的作品を上演する「創作リサイタル」 第22回での上演(10月11日 新神戸オリエンタル劇場)。森は30代前半と若いが、欧州スタイルのコンテンポラリーの技法を知悉したうえで独自の構想に基づく創作を手掛けている。 『冬の旅』では、曲想からイメージを自在に膨らませ「生と死」という主題を扱う。人生そのものが「旅」であることを、ときに厳しくときに優しく描く。

★旅に出る若者の心象風景を、川村康二、アンドリュー・エルフィンストン、 堤悠輔、武藤天華の4人が踊り継ぎ、若者の影法師・ドッペルゲンガー2人(貞松正一郎と森が扮する)を交えた6人を軸に物語を進めていく。 さまざまの人生の有り様を寓意的・象徴的に描きつつ切実なリアリティをもって観るものの感情を揺さぶる。音楽との一体感に溢れ、 自在に質感を変える振付も才気に富む。創意豊かな大作を、自力かつ高い水準で完成させることは、容易ではない。 団の底力を示す画期的成果だ。舞台美術等を含めた空間演出により密度を加え、物語の展開に一層起伏を生めば、完成度は高まろう。改訂再演に期待したい。

★森作品に関しては、現代舞踊協会「スペシャル ダンス セレクション in ひょうご」(8月21日 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール)に参加、『羽の鎖』(文化庁芸術祭新人賞受賞)を再々演した。 グレツキの交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」を女性8人が踊るもので、詩的で静謐な雰囲気のなか、そこはかとないドラマが浮かびあがる。 一音とて無駄にせず、それでいてフレージングを大切にする卓越した音楽性に改めて驚嘆させられた。

Coral Reef

「ラ・プリマヴェラ〜春」
 &中国公演

★順番が逆になったが記念シリーズの幕開けは「ラ・プリマヴェラ〜春 (4月11日明石市立市民会館 アワーズホール)だった。「バレエ作品の豊かさを紹介し、団員個々の育成をめざしたバレエ・ガラ形式」で、阪神・淡路大震災(1995年)後、2年に一度行われる。 『マダム・バタフライ』で著名な豪人振付家スタントン・ウェルチの軽快な快 作『ア・タイム・トゥ・ダンス』や『ライモンダ』第3幕よりを上演した。なお、同公演終了後中国公演へと旅立った。 北京・上海において創作『たんぼ・祭』、『白鳥の湖』2・4幕、ナハリンの『DANCE』、貞松正一郎の『セイラーズ・セイリング』等を上演して好評を得たと伝え聞く。

瀬島五月、
圧巻の好演〜『白鳥の湖』

★古典全幕も活発に上演した。なかでも個人的に強い感銘を受けたのが『白鳥の湖』全幕(6月27日 福山市神辺文化会館)。貞松・浜田版の『白鳥の湖』では、通常オデット/オディールは 別ダンサーが踊るが、ここでは看板プリマのひとり瀬島五月が両役を踊った(王子役はアンドリュー・エルフィンストン、なお同キャストで11月に加古川でも上演)。

★瀬島はオデット役では、研ぎ澄まされた造形美、ひたと迫る豊かな情感で観るものを圧する。オディール役では、場を追うにつれ技も表現も冴える。 王子だけでなく観客もその魔力に幻惑されてしまう。表現力・演技力や音楽の解釈といった芸術性が、もう、本当にすばらしい。技量・スター性も際立っており、華と実力を備えた貴重なプリマである。

★群舞はツアー用の演出のため少人数ながら統制とれ凄絶に美しく舞って陶酔を誘う。 上村未香、正木志保、竹中優花ら日頃は主役を踊る名手が脇に回って踊るのも壮観。 オデットと王子があの世で永遠に結ばれる幕切れは、チャイコフスキーの原曲の持つ悲劇への親和性に加え「大いなる生命の讃歌」を感じさせる。 朝倉摂の重厚な舞台美術もドラマを深める。古典全幕に関しても長年研究を重ね練り上げているこのバレエ団の真骨頂だ。

廣岡奈美が健闘
〜『ドン・キホーテ』

★『ドン・キホーテ』上演も行われた。6月の姫路公演は未見だが(正木志保&武藤天華 主演)、初秋公演を観た(9月23日 尼崎アルカイックホール)。 ここの版は、ボリショイの名舞踊手として鳴らしたニコライ・フョードロフの演出・振付。

Coral Reef

ゴルスキー版に基づきドラマの整合性を重視しつつ踊りの見せ場もたっぷりにまとめる。 話題はキトリ役を踊った気鋭・廣岡奈美の本格的な全幕初主演(バジル役はアンドリュー・エルフィンストン)。テクニックに秀で、日頃の舞台から快活な性格を伝える廣岡にとって適役だ。 おきゃんな町娘、清楚なドルシネア姫、品格あるグラン・パ・ド・ドゥを、いきいきと鮮やかに踊り分けた。

冬の風物詩
『くるみ割り人形』

★記念シリーズを締めくくったのが『くるみ割り人形』全幕。貞松・浜田バレエ団は『くるみ割り人形』を2つの版で上演している。 1989年初演版と2005年初演版。前者を「お菓子の国バージョン」後者を「お伽の国バージョン」と称する。最大の相違は「お菓子の国バージョン」ではワイノーネン版と同じくクララが金平糖も踊り、 「お伽の国バージョン」ではクララと金平糖を別ダンサーが踊ること。今年は「お菓子の国バージョン」を観る(12月19日 神戸文化ホール大ホール、前日に「お伽の国バージョン」上演 クララ:安原梨乃、くるみ割りの王子:弓場亮太、お伽の国の女王:瀬島五月、お伽の国の王:アンドリュー・エルフィンストン)。 クララ役は容姿に恵まれ清楚な踊りが好ましい竹中と、王子役は現代作品でも鮮烈な印象をみせる武藤天華という公私共のカップル。グラン・パ・ド・ドゥでは、丁寧に愛の語らいを交わして微笑ましい。 雪の女王の廣岡は風格を増し、花の王子を踊った新鋭・水城卓哉は、あどけなさは残るものの女王役の重鎮・上村の指導よろしきを得て、スタイルの良さ活かし見栄えする踊りを披露した。群舞の若手の躍進も末頼もしい。

バレエ芸術への飽くなき挑戦

★『くるみ割り人形』終演後の打ち上げの席上、貞松融は、こう挨拶した。 「これまでで最高に充実した1年だった」。第二次世界大戦終戦後、戦前からのあらゆる価値観からの転換を迫られる世相のなか、 「芸術なら人間を裏切らない」と確信し、バレエ芸術に身を投じ「人間の身体の素晴らしさ」を追求してきた貞松。45周年記念シリーズでは、ベテラン・中堅・若手の団員各々の個性の豊かさ、 切磋琢磨しつつ団結するチームワークが高い芸術性を支えていることを実感できた。貞松と浜田の理想は、団員の隅々にくまなく浸透している。見事な達成だ。 が、貞松と浜田、団員・スタッフたちのバレエ芸術への献身は飽くなきもの。彼らは、こう考えているに違いない。もっと前へ!もっと高く!もっと深く!

第1回 谷桃子バレエ団『レ・ミゼラブル』

第2回 牧阿佐美バレヱ団『ラ・シルフィード』『セレナーデ』

第3回 川口節子バレエ団『BALLET SELECTIONS 2010』

第4回 ゆかりバレエ『カルミナ・ブラーナ』

第5回 ARTE Y SOLERA(アルテ イ ソレラ)『道成寺』

第6回 松岡伶子バレエ団『白鳥の湖』

第8回 日本バレエ協会・都民芸術フェスティバル参加公演『ドン・キホーテ』

第9回 CSB International『GQ〜Chocolat~ヘンゼルとグレーテルより』

第10回 映画『ダンシング・チャップリン』を読む

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