大人からのバレエ推進委員会監修

高橋森彦のバレエ&ダンスの逍遥

高橋森彦

舞踊専門紙誌、美術誌、芸術批評誌、バレエ公演プログラム、公演チラシ、Web媒体等に公演評・解説・紹介記事・インタビュー記事を寄稿する。

バレエ、コンテンポラリー・ダンスなど洋舞のほか演劇等も含めたパフォーミングアーツ全般に関心。

公式ブログ「ダンスの海へ」

http://d.hatena.ne.jp/dance300

映画『ダンシング・チャップリン』
〜ダンスの魔術師ローラン・プティ×奇才・周防正行監督、ルイジ・ボニーノ、
草刈民代による奇跡のコラボレーション

バレエ映画の系譜

“バレエ映画”と称されるものは少なくない。古典と言われる「白鳥の死」(1937)、「赤い靴」(1948)に始まり、「愛と喝采の日々」(1977)、「ホワイトナイツ/白夜」(1987)、「リトル・ダンサー」(2000)といったバレエを題材とした劇映画はよく知られよう。 バレエ団やダンサーを追ったドキュメンタリーや伝記映画の系譜もある。そんなバレエ映画の歴史に新たな一ページを記す作品が誕生した。周防正行監督作品『ダンシング・チャップリン』だ。

周防正行×ローラン・プティ、
異色のコラボレーション

周防監督といえば「シコふんじゃった。」(1992)では学生相撲を、「Shall we dance? (1996)では社交ダンスを、「それでもボクはやってない」(2007)では冤罪裁判を題材に、ユニークな視点あふれるエンターテインメントを連打してきた。 『ダンシング・チャップリン』のテーマは、「バレエ」と「チャップリン」。バレエ・ファンおなじみの名匠ローラン・プティがユーモアとペーソスに溢れるチャールズ・チャップリンの映画にオマージュを捧げたバレエ 「ダンシング・チャップリン」(1991)は、プティの愛弟子ルイジ・ボニーノがチャップリン役を踊り、7年間で154回上演されるという大ヒットを記録した。
還暦を迎えたボニーノの肉体的な限界が来る前に、その舞台を後世に遺したいと周防監督は考えたという。

女優バレリーナ
草刈民代をフィルムに焼き付ける

また、周防監督が映画化を企画したのは、妻で先年バレリーナを引退した草刈民代の踊る姿を遺したいからでもあったようだ。 プティ作品を踊る草刈はときに神懸るような演技をみせた。抜群の美貌と華やかさ。近寄りがたいまでの圧倒的な存在感。 ことに『若者と死』死神役は畢生の当たり役だと思う。冷ややかで醒めた美しさをもってして若き芸術家を破滅へと追い込んでいく。 ファムファタールの極北を余すことなく演じ尽くし、あまりに真に迫った舞台に慄然とさせられた。プティが手放しで絶賛したのも頷ける。 草刈の"女優バレリーナ"ぶりをフィルムに焼き付けたい--。周防監督、執念の一作なのだ。

Coral Reef

異色の構成が
映画を面白くする

冒頭から驚かされる。周防監督がプティのバレエをボニーノと草刈を使って撮影したものが上映される、そう思って座席に身をうずめると戸惑うかもしれない。 本作はなんと二幕構成で、第一幕と第二幕に分かれているのだ。異色の構成である。第一幕では、映画化されるまでの60日間の軌跡を振り返る。 打ち合わせの席で、周防監督とプティが演出の構想をめぐって決裂寸前に至る。喜劇王の息子ユージン・チャップリンへのインタビューではチャップリンという人の人柄を伝える。ボニーノや草刈が見せる、 華やかなステージの裏側に隠された厳しい表情も印象に残る。芸術家たちがひとつの作品を生み出していく協同作業における虚々実々のやり取りをも描き出して興味深い。
そして、第二幕のバレエ編へと移るわけだが、 ここで素敵なマジックともいえる演出がある。種明かしは控えるけれども、それによって、心弾む気持ちでエスプリに富むプティ・バレエの世界へ入っていける。

おかしくも哀しく、
愛おしい人間模様

バレエ編は全二幕20場のなかから13場に絞って再構成された。「黄金狂時代」「キッド」「街の灯」などチャップリンの名作群から想を得た佳品ばかりだ。 おかしくもあり哀しくもあり、限りなく愛おしい人物たちが織りなす悲喜こもごもの人間模様。ボニーノ、草刈含めた7人のダンサーたちが一人何役もこなしていく。 ボニーノはチャップリンのモノマネ演技をするのではなく、コミカルでいきいきした演技、そして道化としての哀れ深さをも

Coral Reef

滋味深く表現する。草刈は全7役をこなす。
見せ場にこと欠かないが、一場面挙げるとすれば、やはり「街の灯」になるだろう。ボニーノ扮するチャップリンと草刈演じる盲目の花売り娘の交流を描くが、互いの眼差しから発せられる無言の語らいが哀切極まりない。 ボニーノや草刈を捉える周防監督の目=カメラも温かい。全体に「引き」の構図を効果的に使いつつ踊り手の息づかいを巧みにフィルムに定着させる。 プティの振付を尊重しつつも、単なる「劇場中継」にはしたくないという周防監督ならではの、こだわりが感じられた。

バレエ映画の枠で
語りえぬ達成

フィナーレには、これまた種明かしを控えるが、チャップリン映画を知るものならば感銘を受けざるを得ない演出が施されている。 そう、映画『ダンシング・チャップリン』はバレエを扱った映画であるけれどもチャップリンへの、映画へのオマージュが全編に貫かれてもいるのだ。 バレエになじみのない映画ファンの心にも響くに違いない。バレエと映画両方とも大好きな人間にはこれ以上ない贈り物といえる。 数ある“バレエ映画”のなかでも類のない達成であると同時に、その枠を超えた新しい“映画”として記憶されるだろう。 さあ、劇場へ。ロードショーで接することのできる喜びを噛みしめたい。

『ダンシング・チャップリン』
2011年4月16日(土)より、銀座テアトルシネマ他全国ロードショー

■チャップリンの誕生日に公開!!

【配給】アルタミラピクチャーズ/東京テアトル
【公式ホームページ】 http://www.dancing-chaplin.jp/"
【予告編】http://www.youtube.com/watch?v=M0gxpTVqXNI