大人からのバレエ推進委員会監修

高橋森彦のバレエ&ダンスの逍遥

高橋森彦

舞踊専門紙誌、美術誌、芸術批評誌、バレエ公演プログラム、公演チラシ、Web媒体等に公演評・解説・紹介記事・インタビュー記事を寄稿する。

バレエ、コンテンポラリー・ダンスなど洋舞のほか演劇等も含めたパフォーミングアーツ全般に関心。

公式ブログ「ダンスの海へ」

http://d.hatena.ne.jp/dance300

スターダンサーズ・バレエ団「振付家たちの競演」
〜創造への意欲、未来へと繋ぐ

日本人振付家作品の紹介・創造

チューダー、ロビンス、バランシン、マクミランといった20世紀バレエの巨匠たち、 フォーサイス、ドゥアトら現在第一線の振付家の名作をレパートリーに誇るのがスターダンサーズ・バレエ団だ。 1965年、太刀川瑠璃子がニューヨークからチューダーを招聘して特別公演を制作したことに端を発し、世界のバレエ界の潮流を踏まえた活動を行っている。 同時に「日本独自のナショナルバレエ」を志向し、日本人振付家の創作を創造・紹介してきた。 2003年に小山久美が代表・総監督に就任し、2008年の太刀川没後も精力的に活動を続けている。このたび久々となる団員による新作集「振付家たちの競演」を催した。

美術・音楽との
刺激的なコラボレーション

幕開けは現在マルセイユ・バレエに所属する遠藤康行作品『Love Love ROBOT 幸せのジャンキー』。舞台奥には透明ビニール製?の凹凸の壁のようなオブジェが湾曲して吊り下げられている。 ロープに引かれたり、帯のようなゴムをまとったりしたソリスト(白椛祐子、福島昌美、林ゆりえ、リオネル・ハン、橋口晋策、草場有輝)と群舞が、 バレエに留まらない柔軟な動きや多彩なフォーメーションを駆使した振付を隙なく踊る。小さなロボットも登場し人間と対比される。 ジャンキーとは「麻薬中毒患者、転じて、何かに夢中になっている人」 の意だが、ここでは、幸せな思い出に浸ることでしか生きられぬ、人間の悲しい性(さが)が浮かんだ。セピア色の照明のなか甘美な追憶の情景がせつない。 舞台美術はシルヴィ・ギエム&アクラム・カーンとの協同作業も行った針生康、生演奏音楽の作曲は金森穣との仕事でも知られる平本正宏。先端を歩むもの同士のコラボレーションは刺激的だ。

新進による端正な
コンテンポラリー・バレエ

ふたつ目は新進・佐藤万里絵作品『HEAVEN SEVEN』。「美しいもの」「幻想」「空想」「想像」をテーマに、ポストモダンの現代音楽を用いて6人のダンサー(厚木彩、小池知子、渡辺恭子、橋口晋策、川島治、吉瀬智弘)に振付けた。 男女3組のパ・ド・ドゥ中心に、ユニゾンやリフトを駆使して情感豊かな世界を紡ぐ。終幕、舞台奥の幕が開き、全員が客席に背を向けてホリゾントの方へと消えていく――。

Coral Reef

美しくも、どことなく寂しさを感じさせる。欧州での留学経験が活かされているように見え、端正なコンテンポラリー・バレエに仕上がった。音楽のニュアンスを素直に汲み取る姿勢にも好感が持てる。 大舞台での振付経験ない佐藤の大抜擢だが、それを可能にする、この団の風通しのよさを印象付けた。

物語の力をダンスで雄弁に語る

最後はバレエ・マスターの鈴木稔作品『幸福の王子』。19世紀末に活躍した詩人・作家・劇作家で、耽美的・退廃的な作風で知られるオスカー・ワイルドの短編小説のバレエ化だ。 王子(大野大輔)がツバメ(福原大介)を通し人々の宝石を分け与え、やがては自らの心臓をも差し出す――。自己犠牲を描きイロニーとペーソスに富んでいることで知られる寓話には普遍性があろう。 天使(林ゆりえ、吉瀬智弘)が観客を物語世界へと誘う視点によってより身近に伝わるよう工夫された。街の人々の振付などメカニックでコンテンポラリーな動きがアクセントに。 鈴木振付ならではのテイストだ。舞台中央に金色の王子の像が配され、メルヘンチックな建物がそれを囲む(舞台美術:二村周作)。人々の衣装も色鮮やか(衣装:小山恵美)。 微細にトーンを変える照明(足立恒)、それにショパンの哀愁を帯びた曲が掛け合わさって、鈴木版「幸福の王子」を膨らませた。 鈴木といえば、『ドラゴン・クエスト』『シンデレラ』という物語バレエの秀作を発表している(両作の再演成果で橘秋子賞特別賞受賞)。 物語に沿う作品を創る際に、テンポいい展開、登場人物の性格を膨らませる点に留意するという彼らしく、ここでも物語の力をダンスで雄弁に語る手腕を存分に発揮していた。

Coral Reef

創造への意欲、芸術家の本分

グローバル化したといわれる世界のダンス・シーンにおいて何をもって「ナショナルバレエ」と定義するかは難しい。 作品スタイルやメソッドも汎世界的になっている。むしろ今回は、そこを立脚点に三者独自の色のついた作品を配し、 現代バレエの多様さを示したといえるのではないか。 海外作品の移入とともに創作バレエ創造の灯を守ってきたこの団ならではの伝統を基盤に、新たな段階へ足を踏み入れた、意欲あふれる公演だったと思う。最後に触れておかねばならないことがある。 公演前日に東北地方太平洋沖地震が発生。 小山は開演前、開催を「苦渋の選択」と述べ、安全面に細心の注意を払うこと、収益から被災地に義援金を送る旨を述べた。地震当日夕方はリハーサルのため劇場入りしており、 多くの団員が帰宅できず劇場に泊りこみ初日を迎えたという。東北出身の団員もおり、昨秋には、文化庁「子どものための優れた舞台芸術体験事業」 として宮城の仙台、石巻、南三陸といった、もっとも大きな被害を受けた地域の学校を回っている。被災地への思いは深いはずで、心身ともつらい状況にあったかと察する。 不測時の公演敢行だったが、「芸術家は芸術によって表現し、メッセージを届けるのが本分」 という信念をひしと感じた。芸術の力が人々に勇気を与え、思考や行動をも促がし、世に活力を与えるものと信じたい。

(2011年3月12日 五反田・ゆうぽうとホール)

【スターダンサーズ・バレエ団公式ホームページ】 http://www.sdballet.com/