大人からのバレエ推進委員会監修

高橋森彦のバレエ&ダンスの逍遥

Ballet Chambre Ouest 『Swan Lake』
バレエ シャンブルウエスト『白鳥の湖』〜地元・八王子に開館した新ホールのオープニングを鮮やかに飾る

内外で活躍するカンパニーの軌跡

八王子を拠点に活動するバレエ シャンブルウエストは、名門・牧阿佐美バレヱ団のトップ・スターとして名を轟かせた今村博明・川口ゆり子夫妻によって1989年、川口ゆり子バレエスクールを母体に設立された。 ユースバレエ・シャンブルウエストの名称での活動を経て1999年秋には、現在の名称のもと新たなスタートを切っている。古典全幕バレエだけでなく、 『天上の詩』『タチヤーナ』(ともに文化庁芸術祭大賞受賞)といった創作バレエにも意欲的で、高い評価を得てきた。 毎夏、山梨県清里高原の「萌木の村」において行われる野外ステージ「清里フィールドバレエ」の上演は、今年で22年目を迎える。 サンクトペテルブルク、モスクワ、キエフをはじめとしたロシア公演含め2度の海外公演も敢行した。

地元・八王子に新たなホール開館

内外で広く着実に活動し、先述の「清里フィールドバレエ」、それに新国立劇場はじめ東京の都心劇場での公演も定着しているが、 このカンパニーの活動を語るには、地元・八王子での活動を見落とせない。例年年末に上演している『くるみ割り人形』はじめ長年続ける公演活動によって地域に根差し、 八王子を代表する芸術文化団体として存在感を増してきた。そして、このたびJR八王子駅南口すぐの高層タワービル内に開館したオリンパスホール八王子開館記念公演として『白鳥の湖』全幕を上演する栄誉を担った。 同ホールは客席数約2,000席(立見席含む)と大きく、音響効果に優れ、ホワイエも広く開放的。八王子の芸術文化の新拠点として注目される。そのオープニングに相応しい力こもる舞台をみせた。

繊細かつ劇的に練り上げられた演出

このカンパニーにとって古典バレエの代名詞『白鳥の湖』は、 幾度となく上演を重ね、練り上げてきたレパートリーである。演出・振付の今村・川口は、牧バレエ団在籍時にマリインスキー劇場から英国を経由して導入されたテリー・ウエストモーランド版を踊っている。 正統的かつ洗練された演出で知られる名版だ。今村・川口は同版を踊った経験やさまざまな演出を基に創意も加え独自のものに仕上げた。プティパ/イワノフ原振付以来の様式美を大切にしつつマイムを繊細に用い、 登場人物たちの機微を手に取るように伝える。終幕には、バランシンの『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』のアダージオとして知られるフレーズを用い、 オディールと王子が再び邂逅し愛を確認するパ・ド・ドゥを挿入した。両者の心情がせつせつと胸に迫る名場面である。そこから、湖に身を投げたふたりの永遠の愛の力が悪魔ロットバルトの魔力を弱め、 白鳥たちが悪を打ち砕く場へとなだれ込む。劇的極まりない演出である。

松村里沙&逸見智彦、ベテラン主役の好演

メイン・キャストには、今村・川口のもとでバレエを始めた逸材が配役された。 ジークフリート王子を踊った逸見智彦は、橘秋子賞優秀賞・服部智恵子賞という権威ある舞踊賞を受けたわが国きってのダンスール・ノーブル。 オデット役には、松村里沙、オディール役には、吉本真由美という、川口・今村が丹精を込めて育てたプリマが配されていた。 残念なことに吉本が怪我のために出演できなくなり、松村がオデット/オディール両役を踊ることになったけれども、松村・逸見は破たんのない舞台運びをみせてくれた。 松村のオデットは、ラインの美しさ映え、床の押し方も雄弁。淡々と流れるような流麗な舞が儚く美しい。 打って変わってオディールでは、揺るぎないテクニックに裏打ちされた力強い踊りと、開放感溢れる生きいきとした演技で舞台を大きく支配した。 逸見は、かなりなベテランの域に入ってきたが、徹底して抑制した演技と踊りをみせた。そのなかに、えもいわれぬ気品がにじみ出る。松村とも絶妙のパートナーシップを築きあげていた。

卓越したアンサンブルが舞台に生気を吹き込む

このカンパニーが比較的短期間で高い水準の公演活動を行えるまでに躍進した原動力は、アンサンブル重視の姿勢にあるかと思う。 「アンサンブルの精緻さこそが舞台の密度を高める」 ということを百戦錬磨の今村・川口は誰よりも知悉していたのだ。パ・ド・トロワの山田美友&楠田智沙&土方一生や道化の染谷野委ら若いソリストたちの、のびのびとした踊り。 第2幕の白鳥たちの統率とれた群舞。第3幕ディヴェルティスマンにおけるチャルダッシュやマズルカのきびきびと小気味よい踊り。 回を重ねるごとにアンサンブルのまとまりがよくなり、踊り手個々の力量も増してきているのが感じられる。そして、ロットバルトの佐藤崇有貴や家庭教師ヴォルフガングの岡田幸治ら常連のベテラン客演陣が支える。 さらに、今回は、第3幕で川口がルースカヤを踊った。貫録十分ななかに一分の隙もなく音と戯れる鮮やかな舞をみせる。錬成されたアンサンブルの妙が舞台に生気を吹き込む。

バレエを通して人々に夢をあたえる

今回の公演は、地元のホール開館記念に加え東日本大震災復興チャリティ公演にもなった。 今村・川口たちは、公演終了から日をおかず岩手・宮城・福島への慰問公演へと旅立った。 「清里フィールドバレエ心の震災復興プロジェクト実行委員会」主催による「ポール・ラッシュ ドリーム プロジェクト」だ。八王子という地域に根付きつつ東京都心や清里そして海外とフットワークのよい活動を展開してきたカンパニーだからこそ可能な活動だろう。 八王子から全国へ、世界へ向けて、バレエを通して多くの人々に夢をあたえる。今村・川口たちの夢はまだまだ続く――。彼らの終わりなき夢を追う姿勢に心からエールを送りたい。
(2011年5月7日 オリンパスホール八王子) 演奏:東京ニューシティ管弦楽団 指揮:福田一雄

Yuriko Kawaguchi 川口ゆり子

橘バレエ学校卒業後、牧阿佐美バレエ団入団。橘秋子、牧阿佐美に師事。64年橘秋子振付『運命』の主役でデビュー。 69年ニューヨーク留学、イゴール・シュベッツオフに師事。帰国後、牧阿佐美バレエ団のプリマとしてすべての作品の主役を踊る。 海外のバレエ団にも客演し活躍するなど日本を代表するプリマバレリーナとして、輝かしい業績を持つ。 89年バレエシャンブルウエストを設立。古典バレエの復活上演、新作バレエの制作、海外公演の開催と意欲的な公演活動を展開している。 芸術選奨文部大臣新人賞、橘秋子賞、服部千恵子賞、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章など多数受賞。

Hiroaki Imamura 今村博明

井形久仁子バレエ研究所にてバレエを始める。'69年江川明に師事。 '74年日本バレエ協会公演「コッペリア」で主役デビュー。'76年より2年間文化庁派遣芸術家在外研修員としてロイヤルバレエスクール留学。 帰国後、牧阿佐美バレエ団入団、以来同バレエ団の男性第一舞踊手として内外で活躍する。日本を代表するプリンシパルダンサーとしての地位を築いた。 '89年バレエシャンブルウエストを設立。古典バレエの復活上演、新作バレエの制作と意欲的な公演活動を展開している。橘秋子優秀賞、橘秋子特別賞、指導者大賞など多数受賞。

バレエ シャンブルウエスト
公式ホームページ
http://www.chambreouest.com/

「清里フィールドバレエ」
公式ホームページ
http://www.chambreouest.com/