
2004年4月、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館が、舞踊部門芸術監督に金森穣を迎え、劇場専属のダンスカンパニーとしてNoism(ノイズム)を設立した。ヨーロッパスタイルのプロフェッショナルなダンスカンパニーの誕生は、日本のダンスシーンの新たな幕開けを予感させるものだった。以後、Noismは精力的な公演活動を行い、『NINA〜物質化する生け贄』(2005年)『Nameless Hands〜人形の家』(2008年)をはじめとする金森作品は大きな反響を呼んできた。2007年以降、7か国10都市で海外公演も行っている。現在は、メインカンパニーのNoism1、研修生カンパニーのNoism2 を擁し、昨年は、両カンパニー合同による大作・劇的舞踊『ホフマン物語』を発表。新潟から劇場文化発信を担う存在として、さらなる活躍が期待されている(2013年8月までの活動延長が決定済)。
Noismでは、主に金森の振付作品を上演しているが、2007年までに「外部振付家招聘企画」を3回行っている。異なる身体性や価値観を持った振付家との協同作業を通してNoismの新たな顔が垣間見えた試みという印象だった。4年ぶりとなった今回は、アレッシオ・シルヴェストリン、稲尾芳文を招いた。彼らと金森は、若き日、モーリス・ベジャールの主宰するルードラ・ベジャール・ローザンヌで同時期に学んで切磋琢磨した盟友である。それぞれ同企画2度目の招聘だ。この4年間Noismでは、金森作品のみを上演し、“ここ1〜2年はNoismと金森作品の身体性が明確になってきた。だから、このタイミングでゲスト振付家に依頼するというのは意味があると思ったんです。彼らを招き入れるというよりは、Noismという集団で別の大地に乗り込んでいく、そういう感じがいまならある。” (公演プログラムの座談会より 金森の発言)。シルヴェストリン、稲尾とともに異なる大地(OTHERLAND)に挑む金森とNoismの挑戦はいかなるものになったのか――。
シルヴェストリンはイタリア生まれ。ルードラで学んだ後、ベジャールやウィリアム・フォーサイスのカンパニーで踊り、現在は日本を拠点に活動している。 今回Noism1とともに作り上げた新作『折目の上』は、振付のみならず音楽・衣裳・舞台美術・映像等のあらゆる舞台意匠に彼ならではの美学が貫かれていた。 日本の伝統芸能である能楽をモチーフにしたこの作品においてシルヴェストリンは、能楽の伝統を受けつつフィボナッチ数列を用いた独特な音楽を自ら作曲した。 《糸》《面影》《声の影》《蕾》《花びら》というピアノやフルートによる5曲。それにあわせ11名のダンサーが照明によって模様の変わる床面で踊る。 何かに突き動かされているかのようでもあり自在なようでもありと意想外の動きが連鎖していく。 極めて抽象的ではあるけれども、緩急自在な動きと意外性に富む音楽、多彩に変化する照明等が折り重なって、ストイックななかに魅惑的な時空間を生んだ。
鬼才オハッド・ナハリン率いるバットシェバ舞踊団(イスラエル)で長年踊ってきた稲尾は、公私のパートナー、クリスティン・ヨット・稲尾との共同演出・振付作品『Stem』を発表した。木の板に鉄の棒をくくり付けたアフリカの民族楽器ムビラを使ったリチャード・クランデルの曲にのせて紡がれるこの作品に接して、名状しがたい感覚にとらわれた。舞台上には三枚の吊るされた鏡の板。具体的な物語や関係性は感じられないが、男女3人ずつ6名の踊りからは、懐かしい思い出や人と人のつながりの愛おしさのようなものが万華鏡のごとく多彩に浮かびあがってくる。しかし、そういった、誰にとっても宝物であるような体験は、手でつかもうとしてもすり落ちていく流砂のごとくはかないもの――。そう、少なからず馬齢を重ねてきたものならば胸がうずかずにはいられないような人生の無情を痛ましくも愛おしく伝える。暗くなりすぎず、さりとて感傷に堕さないさじ加減が絶妙だ。
金森は、2009年初演『ZONE〜陽炎 稲妻 水の月』の第三部『Psychic』を再振付した『Psychic 3.11』を発表した。J.S.バッハの遺作「フーガの技法」を用い、現代社会における人と人の孤絶や距離を浮き彫りにする。 それはもう息苦しいといっていいほどに。初演時、いまを生きる身体を精神的領域で捉えた凄みある舞台は鮮烈な印象を残したが、さらなる深化をみせたように思う。 初演からの井関佐和子と宮河愛一郎のほか新たに藤井泉、中川賢が出演。そして、金森自身が板に立ったことが大きな変化だ。 金森のダンスの圧倒的な存在感はどこからくるのだろう。時代に対し一身で一心に立ち向かう彼の強靭ともいえる精神と肉体から放たれるアウラに圧倒されざるを得ない。 幕切れ、電球が静かに消えていくなか、客電がほんのりと灯されていく。初演時にはない演出である。ほのかな希望の光。 そして、舞台と客席ひいては社会は無縁ではない、地続きであるということなのか――。東日本大震災や原発事故を受けて「ダンスに何ができるか」を自問しない作り手はいないだろう。 そんななか金森は、2009年初演の同作からして明らかなように、社会に向かってダンスを発信するという問題意識を常に抱え創造活動を行ってきた芸術家だと私は考える。 今回はそのブレない姿勢と覚悟の強さをあらためてひしと伝えた舞台だったのではあるまいか。
アレッシオ・シルヴェストリン、稲尾芳文、金森穣。三者三様の舞踊哲学のこめられた作品を踊りこなした井関をはじめとしたメンバーの技量の高さ、多様なダンス・スタイルに順応する感性の豊かさに深く感じ入った。 ここ数年、金森作品中心に錬度を高めてきた基盤あって、さらにそのうえで表現の幅の広さを獲得している。金森とNoismは、この先いったいどんな地平を切り拓いていくのだろう。 なお、「OTHERLAND」上演前に、Nosim2による金森作品『火の鳥』が併演された。ストラヴィンスキーの同題曲を用い、少年と火の鳥それに群舞が登場する。 白の仮面の使い方が効果的で、寓意に満ちた物語を若い踊り手たちが力いっぱいに踊った。来シーズンからNoism1に昇格するメンバーもいる。 新潟に蒔かれたダンスの種子は、根深く育ち、ますます大きな果実を実らせようとしている。
(2011年5月27日 りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 劇場)
撮影:村井勇
Noism Web Site
http://www.noism.jp
次回公演
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合同公演・劇的舞踊『ホフマン物語』
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