大人からのバレエ推進委員会監修

高橋森彦のバレエ&ダンスの逍遥

法村友井バレエ団『お嬢さんとならず者』『ショピニアーナ』『シェヘラザード』
〜ロシア・バレエ珠玉の名作による充実のトリプル・ビル

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わが国屈指の伝統誇る名門バレエ団

関西最大手のバレエ団であり、わが国屈指といえる伝統と実績を誇るのが大阪の法村友井バレエ団だ。1937年に故・法村康之、故・友井唯起子夫妻によって設立された。2代目団長を務めた友井の死後、法村牧緒が団長に就任し現在に至る。この団の特徴は、附属のバレエ学校から一貫してロシア・バレエのシステムによる教育・指導が行われていること。法村牧緒は、日本人としてはじめてレニングラード・バレエ学校(現在のワガノワ・バレエ・アカデミー)に留学し、ミハイル・バリシニコフの師でもある名教師アレクサンドル・プーシキンに師事した。帰国後は、わが国有数のダンスール・ノーブルとして広く活躍。現在は、ロシア・バレエ上演・指導の第一人者として他の追随を許さない。

ロシア・バレエの名作群をレパートリーに誇る

法村友井バレエ団のレパートリーには、チャイコフスキー三大バレエをはじめとする古典全幕バレエの代表的演目に加え、『エスメラルダ』『石の花』『バフチサライの泉』といったロシア色の強いもの、フランス・バレエのエスプリを感じさせるプロコフスキー振付『アンナ・カレーニナ』のような特色ある全幕ものが並ぶ。いっぽうで、一幕ものに珠玉の名作を擁していることも見逃せない。今年の初夏公演はロシア・バレエ三部作だった。上演されたのは『お嬢さんとならず者』『ショピニアーナ』『シェヘラザード』。ロシア・バレエの宝石箱とでも称したくなる、他ではなかなかお目にかかれないプログラムだ。

哀切極まりない若者の悲恋

幕開けの『お嬢さんとならず者』の舞台は、ロシア革命から間もない1920年代の、とある退廃した街。新任の若い女性教師エレーナ(法村珠里)と不良青年のゲンナジー(奥村康祐)の悲恋が描かれる。ショスタコーヴィッチの曲にボヤルスキーが振付け、1962年にレニングラード(当時)のマールイ劇場にて初演された。その後ロシア各地で愛されたが、現在ではほとんど上演されることはない。それをロシアで観て感動したという法村牧緒は、20数年前から自らの再振付によって折にふれて再演してきた。エレーナ演じた法村珠里は、不良少年を一途に愛する清楚で可憐な女教師役を美しいラインを活かし繊細に踊る。感情表現も素直で愛きょうがある。ゲンナジー扮する奥村は、切れのいい回転や力強い跳躍で内に秘めた怒りや焦燥を巧まず表現した。ふたりが次第に心を通わせていくさまが微笑ましい。それゆえ終幕に訪れる悲劇が哀切極まりなくなるのだ。音楽はジャズなどの軽音楽の味わいがあるかと思えば、不協和音も奏でられアヴァンギャルドな雰囲気も漂うというように起伏に富む。酒場で繰り広げられるショーダンスの華やかさ、ギャングのボス(井口雅之)や情婦(中内綾美)らの醸し出す暗黒街の不穏さが革命直後の混乱期のデカダンな雰囲気をいきいきと伝える。オールドファンには懐かしさいっぱいだろうが、時代の波に翻弄され散っていった若い男女の痛切な恋の物語には、時代を超えた普遍性があるように思われた。

優美で落ち着きあるスタイル際立つ「白の世界」

続いては、フォーキン原振付を法村牧緒が再振付した『ショピニアーナ』。音楽はショパンのピアノ曲。森の精たちが月明かりの下で詩人と踊り明かす。1909年にディアギレフのバレエ・リュスが『レ・シルフィード』として改訂・改題上演した舞台に基づく版が今日広く流布するが、もとは1907年にマリインスキー劇場で初演され、翌年には改版が出たもの。筋らしい筋はないが純粋にバレエの優雅さを堪能できる。法村友井版では、群舞の端々に至るまで優美で落ち着いた趣のあるワガノワ・メソッドが身についていることが見て取れる。からだの使い方も音の取り方も揃ったアンサンブルの生み出す緊密な美にあふれた「白の世界」。そこに気品十分にたたずむ詩人・今村泰典や伸びやかに大きく空間を支配し典雅に踊ったマズルカの松岡愛らのソリストがぴたりと収まって一幅の泰西名画が完成した。

真に迫った演技、重厚で隙のない配役

最後は、フォーキン原振付による近代バレエ『シェヘラザード』。「千夜一夜物語」に取材した、エキゾチシズムに満ちた世界で起こる悲劇を描く。法村友井バレエ団では、古くからこのバレエを上演しており、ゾベイダを踊った故・友井唯起子の艶やかな演技は語り草だ。その後も石川恵津子(現・惠己)、宮本東代子という歴代プリマが踊り継いできた。現在の版は、マリインスキー劇場でキャラクターダンスの名手として鳴らしたワジム・シローチンに振付を依頼して2006年に上演したものである。シローチンがシャリアール王に扮し、王の愛妾ゾベイダ役に堤本麻紀子。金の奴隷はニキータ・シェグロフ。堤本とシェグロワは5年前にも組んでいる。堤本は、長身で見目麗しい容姿を利した風格あるたたずまいから、おのずと色香をにじませる。終幕、みずから命を絶つ場の演技は真に迫ったものだった。脇を固める踊り手の層の厚さはこのバレエ団の強みといえよう。王弟ゼマンに多くの主役を務めた演技巧者の大野晃弘、オダリスクにキャラクターダンスを得意とする西尾睦生を配するなど重厚で隙のない配役によって舞台の密度が増している。数え切れぬほどの大人数による群舞も迫力十分で、悲愴美に富むドラマを壮大に壮絶に盛り上げていた。


指揮:堤俊作 演奏:関西フィルハーモニー管弦楽団
(2011年6月4日 尼崎アルカイックホール)
撮影:尾鼻文雄 尾鼻葵

  • 高橋森彦
  • 舞踊専門紙誌、美術誌、芸術批評誌、バレエ公演プログラム、公演チラシ、Web媒体等に公演評・解説・紹介記事・インタビュー記事を寄稿する。
  • バレエ、コンテンポラリー・ダンスなど洋舞のほか演劇等も含めたパフォーミングアーツ全般に関心。
  • 公式ブログ「ダンスの海へ」
    http://d.hatena.ne.jp/dance300

法村友井バレエ団 公式ホームページ
http://www.homuratomoi.com/

次回公演

    『バフチサライの泉』全幕

    キャスト

  • ザレマ 法村珠里
  • マリア 阿部悠紀子
  • ヴァツラフ 今村泰典
  • ギレイ汁 アレクセイ・マラーホフ
  • ヌラリ 佐々木大
  • 2011年10月20日18:30開演
  • 尼崎アルカイックホール
  • TEL 06-6771-6475 法村友井バレエ団

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