大人からのバレエ推進委員会監修

高橋森彦のバレエ&ダンスの逍遥

地主薫バレエ団
「ロシア バレエ トリプル・ビル コンスタンチン・セミョーノフによる」
〜音楽性高くセンスのいいコンテンポラリー作品を鮮やかに踊る

躍進目覚ましいカンパニー

 現在、躍進著しいと目されるカンパニーのひとつが大阪の地主薫バレエ団だ。若手プリマ金子扶生は今春から英国ロイヤル・バレエ団に入団。ノーブル・ダンサーとして貴重な存在の奥村は東京や名古屋にも活躍の場を広げ、今秋、新国立劇場バレエ団に入団した。名門・法村友井バレエ団の名ソリストとして鳴らした地主の指導力には定評があり、奥村、金子のほかボストン・バレエのプリンシパルとして活躍する倉永美沙らを輩出している。バレエ団公演の規模も年々拡大しており、その評判を耳にする機会も少なくなかった。

26歳のロシア人若手振付家に賭ける

 今年の地主バレエ団公演は現代作品のトリプル・ビルだった。振付はすべてロシアの新進振付家コンスタンチン・セミョーノフ。地主が一昨年のモスクワ国際コンクールを訪れた際に彼の振付けた小品に出会ったのがすべての始まりだった。“音楽がまるで見えるように感じる”というセミョーノフの才能に惹かれ、コンクールや発表会向け作品を依頼するプロセスを経て、一晩の公演を委ねることになったという。モスクワ・バレエ・アカデミーで舞踊振付を学び、国際バレエコンクールの振付部門での入賞歴があるとはいえ、弱冠26歳。大人数の踊り手を用いての創作自体ほぼ初めてという。一見無謀とも思える挑戦である。しかし、これがじつに見ごたえ十分で、地主の若い才能を見極める眼の確かさ、芸術性高く公演を仕上げるステージング力を見せつけるものとなった。

新鮮な感覚に富んだ音楽の視覚化

 最初の『カンマームージク』に目を瞠らされる。ドイツ20世紀音楽の巨匠ヒンデミット曲「室内音楽第1番」を、めくるめくような動きの連鎖で色鮮やかに染めあげていく。男女7人による第一楽章からして軽やかできびきびとした踊りが音楽と絶妙に溶けあっている。第二楽章では、男女3人のペアとともに踊った末原雅広の、のびやかなからだ使いと勢いのある踊りに圧倒された。安井瑤子、葭岡未帆、キリイ・ラデブによるスリリングなパ・ド・トロワ(第三楽章)を経て、最後は男女18人による第四楽章へと奔流のようになだれ込む。美しいなかにも不穏さや不思議さを感じさせる曲を全編通して鮮やかに視覚化する。団員・ゲストのダンサーたちの錬度の高さにも感嘆させられた。踊り手一人ひとりが身体から音を奏でるかのように、いきいきと踊っている。〈バランシン以後〉を担うに足る、新鮮な感覚に富んだシンフォニック・バレエの秀作と称するにやぶさかではない。

神秘的な「愛の劇場」

『テアトロ・ダモーレ』はバロック・アンサンブルのラルベジャータが演奏するモンテヴェルディ曲に振付けたもの。聖俗を超越したような神秘的な雰囲気に満ちた音楽にのせ、9つの景わたって、さまざまな愛の形が描かれていく。男女5組による群舞、奥村唯と奥村康祐によるピュアな輝きに満ちたデュオ、碓氷悠太の熱のこもったソロ、ラデフとセミョーノフ自身による男同士の濃密なデュオなどなど。“イタリアルネッサンスの名作彫刻の立体さを生かし”たと、プログラムに記されているが、シンプルなシャツやドレス姿で踊るダンサーたちの動きは陰影に富む。腰を落としたり、上体を大きく反らしたり歪めたりなど欧州コンテンポラリー・バレエに顕著な動きを駆使した彫りの深い作舞だった。

夢のある冒険譚

 最後の『魔法の筥(こばこ)』は20世紀初めバレエ・リュスが初演したマシーン振付『奇妙な店』の曲を用いた物語のあるバレエ(ロッシーニ/レスピーギ曲)。台本はオリジナルだ。小さな女の子(安井瑤子)と隣に住む少年(奥村康祐)が夢のなかで体験する冒険譚に仕上げた。少女役を愛らしく可憐に踊った安井、黒縁のメガネ少年を、くるくる表情を変えながら演じ踊った奥村は微笑ましい。そして、彼らの夢のなかで踊るなんともせつないアダージョを経て、フィナーレはひたすら華やかに盛り上げる。乳母役を闊達に好演した石崎慎をはじめとして、おもちゃ、鳥、花、イモムシなどに扮した出演者たちが心から楽しんで踊っているのが手に取るように伝わってくる。大人にも子どもにも訴求する要素を備えているだけに、再演を重ね練り上げていくと、大切なレパートリーになるのではないだろうか。

音楽こそがすべての源泉

 セミョーノフ作品を観るとバランシンやキリアン、ドゥアトらが音楽と舞踊の関係を突き詰めてきた仕事を引き受けていることがわかる。近現代の巨匠の舞踊スタイルを吸収し、そのうえで独自の舞踊世界を追求している。音楽こそがすべての源泉。現代の一流振付家も当然ながら音楽センスが抜群だ。ひとり名を挙げればセミョーノフと同じロシア人で欧米の大バレエ団から引く手あまたのアレクセイ・ラトマンスキー。舞踊語彙の独自性やアイデアの新奇さも大切だが、それだけではオペラハウスに集う観客に訴求できない。セミョーノフは音楽性の高さとセンスが一層求められる時代に即した才能だ。今回は彼にとって振付家として本格的な出発点となる記念すべき公演になった。地主バレエとの、さらなる協同作業を心待ちにしたい。

(2011年8月24日 大阪NHKホール)
写真撮影:OfficeObana 尾鼻文雄 尾鼻葵