渡辺真弓ようこそ劇場へ

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No.2

新国立劇場開幕公演『パゴダの王子』制作発表と見どころ

 ようやく猛暑もいくらか和らぎ、秋の気配が漂ってきた今日この頃です。秋のシーズンの最初の話題は、新国立劇場バレエ団のシーズン・オープニングに世界初演される、デヴィッド・ビントレー振付『パゴダの王子』でしょう。目下リハーサルも順調に進み、8月31日、制作発表が行われ、リハーサルの一部が公開されました。新国立劇場ホームページ

ABT American Ballet Theater来日記者会見 ABT American Ballet Theater来日記者会見

英国人の私が、日本の文化や歴史を吸収することが大事なのです。
デヴィッド・ビントレー

 制作発表には、芸術監督のビントレーはじめ、舞台美術、衣裳デザイナーのレイ・スミス、照明デザイナーの沢田祐二、そして出演者10名が顔を見せました。『パゴダの王子』は、英国人振付家のジョン・クランコが構想し、作曲家のベンジャミン・ブリテンに音楽を委嘱して生まれたバレエで、1957年に英国ロイヤル・バレエで初演。その後、89年に、ケネス・マクミランが新演出で上演し、生粋の英国バレエとして知られていますが、今回日本で初演されるビントレー版は、日本的文脈の中でとらえた新しい構想の元に制作されたもので、日英の共同プロジェクトとして大きな注目を集めています。そのビントレーの新しい視点とは、初演時の問題点を台本の上でも改めた点にあるようです。(ビントレー版のあらすじは別項の通り)「まずクランコ版が短命に終わったのは、作曲家のブリテンとのコミュニケーションがうまく取れていなかったことにあります。音楽が台本に合っていないし、なぜサラマンダー(とかげ)が出てくるのかも分からない。またロマンスというには、姫と婚約者の王子のパ・ド・ドゥの音楽は攻撃的で、恋愛が結実する要素などありません。ではどこに愛を描くかと言ったら、私の場合は、家族の愛、つまり皇帝の子供であるさくら姫とその兄の兄妹愛に置き換えたのです」とビントレーは語り、さらに上演の意義についてこう語っています。
「私は英国文化を輸出するために来たのではありません。英国人の私が、日本の文化や歴史を吸収することが大事なのです。恩師のニネット・ド・ヴァロワ女史から振付を勧められてから50年来、温めてきたものが、日英共同制作の形で実現するのもわくわくしています。」  次は、美術を手がける英国のデザイナー、レイ・スミス女史の抱負。 「25年前初来日し、これまで歌舞伎や文楽、コンテンポラリーダンスなどを見てエキサイティングな体験をしましたが、特に歌川國芳の浮世絵展で、鮮やかな色彩に惹かれました。今回は、日英スタッフの利点を生かして、鎖国や、未知への旅、外国からの来訪、日本の宮廷の美的世界といった様々なテーマを取り入れてみました。日本の衣裳でどう踊っていただくか、エキサイティングなチャレンジです。」

あっと驚くような舞台効果を楽しみにしていて下さい。
湯川麻美子

ABT American Ballet Theater来日記者会見 ABT American Ballet Theater来日記者会見 ABT American Ballet Theater来日記者会見

ダンサーの方々からも一言ずつコメントを頂きました。いくつかをご紹介しましょう。  

さくら姫の小野絢子 「今、振付が急ピッチで進んでいます。音楽は難しいですが、『アラジン』よりアイディアが豊富で、ステキな作品になりそうです。グランド・バレエの上演は少ないので、沢山の方に見に来ていただきたいです」  

女王エピーヌの湯川麻美子 「エピーヌのような、とても悪い女を演じるのは初挑戦です。七変化するのが見もので、あっと驚くような舞台効果を楽しみにしていて下さい」  

皇帝を演じる能楽師の津村禮次郎 「私は、出演者の中で唯一人バレエを踊れません。平均年齢も引き上げています。最初は、ためらいがありましたが、ビントレー氏から自分がブリッジになるから大丈夫と励まされ、何をすべきか明確になってきました。バレエ・ダンサーのつもりで若い方々と頑張ってやっていきたい。」
 バレエ・ダンサーの方々の間にあって一人静かなオーラを漂わせていますが、振りは、交替のマイレン・トレウバエフと同じものだそうで、それぞれどのような味わいを出してくれるか楽しみです。

そのほかの出演者の皆さんも、体当たりで頑張りたいと強い意気込みを語ってくれました。なお、王子を演ずる予定だった山本隆之は、脚の治療のため残念ながら降板せざるをえなくなりました。代役は追って発表の予定です。  制作発表の後は、リハーサル室に移動し、エピーヌを中心とした振付シーンを見せていただきました。完璧なリフティングを目指して、何度も何度も同じ場面が繰り返しリハーサルされていました。  本番まで二ヶ月足らず。日英の英知を結集した、エキサイティングなファンタジー・バレエが誕生することでしょう。

ビントレー版のあらすじ

ABT American Ballet Theater来日記者会見

プロローグ:「中つ国」の王子が亡くなり、皇帝と王子の妹のさくら姫は、その死を悲しむ。
第1幕:時は流れ、さくら姫に4人の王子が求婚する。宮廷の実力者となったさくら姫の継母である女王エピーヌは、姫の結婚に躍起になるが、姫は、最愛の兄のことが忘れられず、結婚話を拒む。 そこへ5人目の求婚者=サラマンダー(とかげ)が現れ、さくら姫は、サラマンダーに身を任せる。
第2幕:さくら姫は、サラマンダーに連れられて、彼のパゴダの国にたどり着く。姫は目隠しをされ、サラマンダー=王子と踊る。王子は、自分が魔女である継母エピーヌに魔法をかけられて、サラマンダーの姿に変えられた身の上を語る。姫は、それが兄のことだと察し、目隠しを 取るが、その途端、王子は再びサラマンダーの姿に戻ってしまう。兄と父親を魔法から救い出すために、さくら姫は、自分の国に帰る旅に出る。
第3幕:帝国は完全に女王エピーヌに支配されていた。しかし、サラマンダーとさくら姫の兄妹が到着し、父である皇帝に真実を訴えると、エピーヌは追放となり、サラマンダーは元の人間の姿に戻る。父と息子は再会を喜び、帝国には平穏が戻ってくる。

<公演日程>

渡辺真弓

舞踊ジャーナリスト 10歳でバレエを始め、大学で舞踊教育学を専攻。 オン・ステージ新聞社編集部勤務を経てフリー。 1991年〜2006年パリ在住。専門誌紙や公演プログラム等に寄稿。 公式ブログ→balletpromenade

著書