平山素子 フランス印象派ダンス
『Trip Triptych』

(主催・制作:新国立劇場)

~ダンサーの個性を活かし、観るものを豊饒なる「旅」へと誘う

いま、もっとも注目される振付家/舞踊家は誰か?そう問われて平山素子の名を挙げる人は少なくないだろう。シンクロナイズドスイミング日本代表デュエットに振付協力した際には2008年の北京オリンピック銅メダル獲得に貢献。昨年末にはテレビのドキュメンタリー番組に大々的に取り上げられ反響を呼んだ。時代の寵児といっていい。

舞踊界での評価を決定づけたのが新国立劇場主催公演で発表した作品群だ。『シャコンヌ』(2003年)、『Butterfly』(2005年)という、それぞれ能美健志、中川賢と踊ったデュオを経てフル・イブニング作品『Life Casting-型取られる生命-』(2007年)、柳本雅寛とのデュオ『春の祭典』(2008年)と話題作を連発した。それらの舞台成果において権威ある賞を総なめ。2010年には『春の祭典』に続くストラヴィンスキーもの『兵士の物語』を発表した。

平山素子 フランス印象派ダンス『Trip Triptych』撮影:鹿摩隆司

『シャコンヌ』『Butterfly』は研ぎ澄まされた肉体の交感によって濃密かつスリリングなデュオに仕上がり大好評を博す。『Life Casting』『春の祭典』では、美術家や衣装デザイナー、音楽家との緻密な協同作業が進化し、劇的な興奮を観るものにもたらした。『Life Casting』における3Dデジタイザを用いた裸体像オブジェのインパクトある用い方、『春の祭典』における連弾ピアノ生演奏との共演という意表を突く構成など鮮烈な印象を残した。

新国立劇場で発表された平山作品で特筆すべきは、まだ見ぬ世界をみせてくれる斬新さと圧倒的な完成度の高さである。創意あふれる演出を肝に、モチーフや主題を的確に浮かばせる構造を緻密に仕組む。結果、イマジネーション豊かに観るものに迫ってくる。

平山素子 フランス印象派ダンス『Trip Triptych』撮影:鹿摩隆司

平山と新国立劇場の協力関係は深まりをみせる。昨年度はダンス部門の「DANCE to the Future」に新国立劇場バレエ団が出演し平山作品を踊った。同バレエ団がコンテポラリー作品に一層深く挑戦していく好機となったのは記憶に新しい。新国立劇場の企画に登用されるたびに成果を挙げ、わが国のダンス・バレエの水準向上に大きく寄与している。

平山の新国立劇場における最新作がフランス印象派ダンス『Trip Triptych』だった。Triptych とは、3枚続きの絵画といった意。ラヴェル、ドビュッシー、サティという印象主義音楽の作曲家たちの音楽を用いている。“過去と現在、東洋と西洋を交錯させながら、私たちの身体に色彩豊かな音色を投影させ、誰もが惹きつけられる柔らかな水にたどりつく「旅」をしたい”という試みだった(公演プログラムによる平山のメッセージより)。

平山素子 フランス印象派ダンス『Trip Triptych』撮影:鹿摩隆司

二部構成。第一部はサティのシンプルで美しい「サラバンド」第1番で幕をあける。アレッシオ・シルヴェストリンによるシャープでありながら独特な粘りのあるソロで切りこんでくる。ドビュッシー「弦楽四重奏曲ト単調」に移り、暖色系の衣裳に身を包んだダンサーたちが軽妙に絡む。その後も青木尚哉と平原慎太郎が楽しげな駆け引きを展開する「ジュ・トゥ・ヴ(「喫茶店の音楽」より)」(サティ)、にぎやかな群舞による「5つのギリシャの民謡」(ラヴェル)、平山と野郎どもがタバコとライター片手に珍妙なやりとり繰り広げる「犬のためのぷよぷよとした前奏曲」(サティ)と続く。最後は「県知事の私室の壁紙(「家具の音楽」より)」(サティ)。おもちゃの犬を連れたシルヴェストリンがあらわれる。コミカルな場面も多く、軽やかな音楽の調べと溶けあっている。躍動感豊かな舞台が心地よい。

平山素子 フランス印象派ダンス『Trip Triptych』撮影:鹿摩隆司

第二部は7つのパートから成る。まず印象深いのが「牧神の午後」(ドビュッシー)。踊ったのは小尻健太(尻の正確な表記は「尸に丸」)。ダイナミックかつしなやかなソロはニジンスキー版やロビンズ版など同曲によって踊られるダンスとは趣を異にして新鮮だ。そして、ハイライトが平山の踊る「ボレロ」(ラヴェル)。腰を落とし、静止や後ろを向いたりといったアクセントを付け、ゆったりと曲調を捉えて踊る。「ボレロ」で踊るダンスといえば、力強くステップを踏み高揚感をもたらすベジャール版が、あまりにも有名だ。平山の踊る「ボレロ」は、純粋に音楽と向きあい、おのずと生起する身体のリズムの発露だろう。怜悧な感性によって難曲を気張らずものにしてみせた。おしまいは「ノクターン(夜想曲)」(サティ)。平山とシルヴェストリンのデュエットである。長身で手足長く独特な存在感あるシルヴェストリンと平山の繊細で磁力あるダンスが響きあい、溶けあう——。

平山素子 フランス印象派ダンス『Trip Triptych』撮影:鹿摩隆司

これまで同様すぐれたスタッフとの協働である。加えて今回はバレエ/コンテンポラリー・ダンス界の俊英ダンサーを贅沢に配した(新潟・りゅーとぴあ専属ダンスカンパニーNoism出身者が5人)。シルヴェストリン、青木、平原、小尻のほか高原伸子、福谷葉子、西山友貴、原田みのる、鈴木竜、宝満直也(新国立劇場バレエ団)。ダンサーの個性を存分に活かしたのが新機軸だ。彼らが時空を超えて観るものを豊饒なる「旅」へと誘う——。コミカルな要素も織り交ぜ、洗練された大人のダンス作品に仕上がった。つねに観るものを驚かせ、想像の翼を大きく広げてくれる平山。彼女の舞踊宇宙は一段と幅広さと奥行きを増した。次は我々を、どこへ、どのようにTripさせてくれるのだろう?楽しみでならない。

(2013年6月7〜9日 9日所見 新国立劇場中劇場)
撮影:鹿摩 隆司

INFORMATION 新国立劇場ダンス 2013/2014ラインアップ

2013年10/4(金)-10(木)

中村恩恵×首藤康之

  • Aプログラム「小さな家 UNE PETITE MAISON」
  • Bプログラム「Shakespeare THE SONNETS」
  • (中劇場)

2013年12月7(土)-8(日)

新国立劇場バレエ団

  • 「DANCE to the Future〜Second Steps〜NBJ Choreographic Group」
  • (小劇場)

2014年1/23(木)-26(日)

小野寺修二 カンパニーデラシネラ「ある女の家」

  • (中劇場)

2014年6/7(土)-8(日)

「ダンス・アーカイヴ in JAPAN─未来への扉─ a Door to the Future」

  • (中劇場)
  • ※平山素子作品『春の祭典』(2008年)を再演