「dancetoday2013ダブルビル」
インタビュー特集vol.1

島地保武+酒井はな
ユニット〈アルトノイ〉

きたる10/18(金)~20(日)、彩の国さいたま芸術劇場にて行われる「dancetoday2013ダブルビル」は国内外のダンス界の先端で活躍する若手振付家に焦点を当てた企画の第3弾。登場する2組をご紹介する。第一弾は島地保武+酒井はな。長らく世界のダンス シーンをリードしている巨匠ウィリアム・フォーサイス率いるザ・フォーサイス・カンパニー(本拠:ドイツのフランクフルト)の中心メンバーとして活躍する島地。名実ともにわが国を代表するプリマ・バレリーナである酒井。公私のパートナーがユニットを結成した。8月下旬、ユニット結成のエピソードやクリエーション中の新作について思う存分語ってもらった。

島地保武+酒井はな『PSYCHE』photo:瀬戸秀美

出会いから〈アルトノイ〉結成まで

――初めて共演されたのは?

酒井:YAGP(ユース・アメリカ・グランプリ)ガラ公演のときです(2009年12月文京シビックホールにて島地の振り付けたデュエット『PSYCHE』を上演)。

島地:尊敬しているから一緒にやりたかった。2006年頃にデュエットを発表する企画があって「はなさんとやりたい、やるなら日本一の人と!」――そう思いました。でも「自分はまだまだだな」と。お願いのメールを書いたのに送信しませんでした(笑)。

酒井:結婚後に見て、しみじみしました(笑)。なんで送らなかったの?って。

――島地さんがはなさんが踊るのを初めて観たのはいつですか?

島地:新国立劇場バレエ団が金森穣さんの作品を上演したときです(2002年11月「J‐バレエ」の『String(s) piece』)。一人だけ機動力の違う人がいるなと。

――Noism(りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館の劇場付カンパニー、芸術監督:金森穣)が結成され、入団する前ですね。

島地:はなさんがクラシック・バレエを踊るのは観たことがありませんでした。『眠れる森の美女』フロリナ王女を踊っているのを映像で目にしましたが(新国立劇場開場記念公演)。

酒井:芸術選奨文部科学大臣賞をいただいた『カルメン』の再演(2008年)は観にきてくれました。

――このたび結成した〈アルトノイ〉は、ドイツ語の「アルト=古い」と「ノイ=新しい」からなる造語です。正式にユニットを組んだ動機は?

島地:以前からスタジオを借りて二人で練習していました。はなさんは尊敬するダンサーなので教わりたいというか盗みたい。身体を使って情報交換をしていました。今回、佐藤まいみさん(彩の国さいたま芸術劇場プロデューサー)に声をかけていただき新作を作ることになりました。しかし、タイトルがなかなか出てこなくて……

酒井:まいみさんから「ユニットの名前をつけてみたら?」と提案いただきました。

島地:「ザ・キャマクラス」(酒井は鎌倉在住)とかいろいろ候補があったのですが(笑)。

酒井:思いがけず美しく良いものが出てきました。古典(クラシック・バレエ)とコンテンポラリーの二人が何かを作っていこうというスタイルに合っている。

公私のパートナーによる協同作業の難しさ・おもしろさ

――プライベートでもパートナーです。やり易い点、やり難い点はありますか?

島地:お互いに最もやり難い。(スタイルは)真逆といっていいけれども、はなちゃんと組むと「これはやらないな」みたいな固定観念を破ってくれる。共有・交換できるおもしろさがある。奥さんだからというのはあまり関係ないです。

酒井:私が「こうしたい!」ということに対して彼は「エッ?」「ちょっとそれは……」となるときもある。葛藤のある創作になっています。

島地:彼女は振付をしっかり練習して踊る。僕の場合、振付はインプロヴィゼーションのためのテーマやモチーフになっています。アルトノイのクリエーションでは、きっちり振り付けています。箇所によってはインプロもありますが。

――はなさんは内外の多くの振付家の作品を踊ってこられました。これまでのお仕事と島地さんとの協同作業に大きな違いはありますか?

酒井:あります。こういう役で、この音楽で、こういう振付があってという前提があって私は腕を発揮できる。演出家なり振付家にも「目指すものをこうしたい」っていうのがあるじゃないですか。でも、彼の場合は無限なので……。

島地:何もない(笑)。

酒井:昨日良かったものが「今日は……」となるのがしょっちゅう。毎日が実験です。模索が多い。

島地:そう!

酒井:だけど、そのなかで毎日作っていったものは確実に収穫され舞台に集結する。そういう作り方なんだなあと。大変だけどおもしろいですね。

ダンスで、直球で語りたい

――スタジオアーキタンツのサポートによる試演会を拝見しました。島地さんが振付し、はなさんも出られた『藪の中』(2012年3月、セルリアンタワー能楽堂)は芥川龍之介の原作を壊して遊ぶ変化球尽くし。今回のデュエットにはダンスで語る意志を感じました。

島地:ダンスというものをもう一回考えよう、小難しくするのではなく直球でやろうというのがあります。テーマは愛(笑)。恥ずかしいことをやろうと。それを恥ずかしがらずに直球でやれば伝わるかもしれません。恥ずかしがって横に逸れるんじゃなくて。

酒井:夫婦だからできるもの、夫婦だから醸し出せる情が出たりしていいと思います。人間の動物的な面というか生きとし生けるものというか、そういう原点もあります。

――基本的にかっちりと振りを付けたそうですが、動きが自然につながっている。その場その場で起きているように感じました。

島地:「その場その場で起こっているように踊る」というのは目指していること。フォーサイスの影響でもあるのですが「振付はインプロのように、インプロは振付のように」というのがあります。練習の裏打ちがないとできません。はなさんは本番で力を出してくる人。何が起こっても大丈夫なので信頼しています。

――バレエのステップが嫌味ない程度に強調されたりする箇所もありました。

酒井:あまりクラシカルにならないようにしながら私が作って変形させています。バレエの所作をうまいこと織り込みながら見せたいですね。私のスタイルなので。

――近年はなさんの踊り、ことに現代作品を観て感じることがあります。いい意味で肩の力が抜けてきている。試演の際オブジェを振りまわす場面がありました。男前に振り回すだけでなく途中で疲れたような雰囲気がおのずと醸される(笑)。じつにチャーミングでした。

酒井:クラシック・バレエと違いコンテンポラリー・ダンスでは、いま生きているこの空間で行われていることに対して素の自分で対応する力が必要です。島地と出会って、この空気・この場・この一瞬をどう感じるのかということに直面する機会が多くなりました。

スタッフとの出会い

――スタッフの方とどのように出会ったのですか?

島地:衣裳のさとうみちよさんは、はなちゃんの衣裳を作っている方。

酒井:最近はコンテンポラリー・ダンスの衣裳も作っています。

島地:今回の衣裳はタイツ。タイツとなるとバレエ衣裳を作っている人になるなと。

酒井:「身体のラインをみせるんだ!」っていっています。体から発するもの、身体で表現したいので、しっかりラインの見えるものを。

島地:身体もそうだし動きがきれいに見えるように。

――音楽の蓮沼執太さんとはお知り合いだったのですか?

島地:HPのデザイナーを担当している人が一緒なので彼のHPをみて興味を持ちました。展示会をしていたので行って、インスタレーションで急きょ踊った。その際「この人いいな」と思いました。

酒井:凄く冷静。島地の感性を受け取ろうとするアンテナを持っている。絶対にノーといわない。「じゃあ、これはどうかな?」って提案してくる。

ダンスの醍醐味と想像する余地のある世界観

――本番に向けてどのように過ごされますか?

酒井:試演会を行い、本気でどこまでできるのかを試せたのは有意義でした。島地はドイツに戻り、公演前に戻ってくるので、その前に私がドイツに行けるといいですね。

島地:向こうではフィジカル的に全然違う作品を踊りますが、それも絶対に生かされると思います。

酒井:違う二人になっているかもしれません。おのおの体験することが絶対身になる。

島地:最初は「ズレ」をテーマにしていました。音楽の人とも違う、衣裳の人も遠くにいる。みんながまだ会っていない段階で作品のことを考えているうちに出てきたのが「ズレ」。でも、人って傷ついたら自然に治癒したりズレを修復していく能力が備わっている。ズレなんて一度置いて、みんなで一緒にやることだと。

酒井:そもそもズレていると。

――島地さん、はなさんそれぞれの、これまでとは違った顔が観られそうですね。最後にお客様にメッセージをいただけますか?

島地:お客様の体が反応するような踊りがしたい。かつファンタジーに。いろいろ想像してもらいたいですね。

酒井:島地には島地の世界がある。シュールであったりする。さまざまな見方で見て、想像してほしい。感じてほしい。「想像してみることのできる世界観」っていうのが彼のやりたいことだと思います。

島地:肌で感じてもらいたい。次の日とか帰りの電車のなかで「ああいうシーンもあった」とか「あのようにつながっていくのか」とか。

酒井:島地がいうように身体がテーマ。肉体で表現できれば。ダンスの醍醐味がありますし、心地よく同じ空間にいられるような、楽しめる作品を目指しています。

撮影:Toshi Hirakawa

島地保武 Yasutake Shimaji
日本大学芸術学部演劇学科演技コースに入学、加藤みや子に師事。山崎広太、上島雪夫、能美健志、鈴木稔、カルメン・ワーナー等の作品に参加した後、2004~06年、金森穣率いるNoismに参加、主なパートを踊る。06年、ウィリアム・フォーサイス率いる、ザ・フォーサイス・カンパニー(ドイツ・フランクフルト)に入団。以来、カンパニーの中心的メンバーとして活躍している。また、日本での創作活動やワークショップにも、精力的に取り組んでいる。本プロジェクトより酒井はなとのユニット〈アルトノイ〉を始動、二人での共同創作を本格的に開始する。

撮影:Toshi Hirakawa

酒井はな Hana Sakai
クラシック・バレエを畑佐俊明に師事。14歳で牧阿佐美バレエ団公演でキューピッド役に抜擢され一躍注目を浴びる。18歳で主役デビュー。以後主な作品で主役を務める。新国立劇場バレエ団設立と同時に移籍、柿落とし公演で主役を務める。コンテンポラリー作品やミュージカルにも積極的に挑戦し、クラシックを越えて類稀な存在感を示している。進化し続ける技術、表現力、品格ある舞台で観客を魅了する、日本を代表するバレエダンサーの一人。新国立劇場バレエ団名誉ダンサー。ユニット〈アルトノイ〉として、島地保武との共同創作を本格的に開始する。

【公演情報】

彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

2013 10/18(金)19:30開演 19(土)15:00開演 20(日)15:00開演

全席指定(税込) 一般4,000円 学生2,000円 メンバーズ一般3,600円

  • チケット取扱い・お問合わせ
  • 財団チケットセンター 0570-064-939(休館日を除く10:00~19:00)
  • 財団HP http://saf.or.jp/ 
  • アルトノイ 特設サイト http://www.altneu.jp/

【キャスト・スタッフ】

島地保武+酒井はな ユニット〈アルトノイ〉 新作

  • [演出]島地保武 
  • [振付・出演]島地保武 酒井はな
  • [音楽]蓮沼執太
  • [衣裳]さとうみちよ(Gazaa)

関かおり 新作

  • [振付・演出]関かおり
  • [演出助手]矢吹 唯
  • [出演]荒 悠平 岩渕貞太 後藤ゆう 菅 彩夏 関かおり