35周年記念 川口節子バレエ団創作公演
「舞浪漫 -My Roman- 2013」~芸術の秋、創作バレエの第一人者・川口節子が真髄を発揮!

日本には優れたバレエ振付家がいない――そう耳にすることは少なくない。確かに日本人振付家作品が海外はもちろん国内の有名カンパニーで上演されることは少ない。でも、優秀な振付家はいる。たとえば佐多達枝。創作歴50年を超える大ベテランであり、『父への手紙』『庭園』『ヨハネ受難曲』といった代表作は、深い思索と先鋭的な舞踊語彙に裏打ちされている。偉大な才能に思うけれど日本の舞踊界では通り一遍の評価しかされていない。

他にも独創的な創作、才気に富んだ振付を手がける人はいる。注目すべきは川口節子だ。名古屋を拠点にバレエ団を主宰するとともに息長く創作を続ける。豊かな発想と大胆かつ繊細な感性の反映された創作には“川口節子印”が深く刻みこまれ熱い支持を集める。『奇跡の人』(2003年)『HEAVEN』(2006年)『心地よく眠るアリス』(2009年)『初恋』(2011年)などの名作を発表。バレエ団創立35周年記念公演でも卓越した才能を発揮した。

『Yerma(イエルマ)』撮影:杉原一馬(和光写真)

三部構成。第一部が川口の代表作であり私も何度か観ている『Yerma(イエルマ)』(2000年初演)。ガルシア・ロルカ原作の悲劇である。不妊に悩むイエルマ(高木美月)と夫ファン(碓氷悠太)に友人のマリーア(中尾有里)が絡む展開で“一人の女性の本能的生命力に対する賛歌と、社会的因習からの解放を謳うと同時に夫婦間の葛藤を描く”(プログラムより)。

驚くべきはショパンの音楽(フォーキン振付「レ・シルフィード」の曲)を用いたこと!土俗的世界観と叙情豊かな音楽が不思議に調和し、悲劇を色濃くする。洗濯女・洗濯男(あるいは羊の群れ)の群舞も含め腰を落とし身体をたわめた異色のフォルム造形ながら音楽と分かち難く溶けあう。テーマを突きつめ選曲にこだわる。着想の豊かさ・緻密な構成が見事である。人間感情の複雑さ、「出口なし」の悲劇の恐ろしさを雄弁に語る。名作中の名作だ。

『Yerma(イエルマ)』撮影:杉原一馬(和光写真)

『Yerma(イエルマ)』撮影:杉原一馬(和光写真)

第三部は川口の新作『ペトルーシュカ』(使用曲:ストラヴィンスキーほか)。心を持ってしまった人形の悲哀を描く。フォーキンの名作が知られるが川口流に魅せた。フォーキン版と大きく異なるのは舞台設定。謝肉祭の行われている場所をロシアの市場ではなく丘陵と空の広がる地にした。

『ペトルーシュカ』撮影:杉原一馬(和光写真)

ペトルーシュカ役は川口が惚れこむ東京のモダンダンサー木原浩太。バレリーナ人形は日替わりで川本知枝/桑嶋麻帆。ムーア人は古井慎也。人形遣いは碓氷。主要登場人物たちと町の人々を巧みに交差させ滞りなくドラマを進める手際は、さすが。木原のしなやかな踊りと、くるくる変わっていく面差しに惹かれる。しかし、やがて彼は……。

集団・群衆に消費される見世物の悲劇。これは今の世でも変わらない。無名の、実体のないような群衆=世間がときにみせる恐ろしさ……。それはネットによる弱者へのバッシング等からもわかるように醜悪だ。少年のような生きいきとした表情を浮かべる木原のペトルーシュカと不気味な群衆。心を持ってしまった人形と、心を持っているはずなのに失って木偶のように生かされる人間。コントラスト鮮やかだ。

『ペトルーシュカ』撮影:杉原一馬(和光写真)

川口作品の間(第二部)では木原のソロ『白い壁の中のジゼル』(振付:加藤みや子)もあったが主に川口の子女の太田一葉作品を上演。太田は16歳から渡米しニューヨーク州立大学にてバレエ、モダンダンス、創作技術等を学ぶ。2008年にBFAを取得・卒業した。在学中バランシン作品やニジンスカの『結婚』などを踊る。親子二代で振付者として期待される存在だ。

『Blind Tone』撮影:杉原一馬(和光写真)

なかでも11名の男女が踊る『Enchantment』は再演を重ねる佳作。ポップな曲の数々とともに矢継ぎ早に変化に富んだダンスを繰り広げる。細やかでリズミカルなステップをこなし身体を大きく使って躍動感たっぷりに踊った。他にジュニアたちのチャーミングな群舞『ロイヤルストレートフラッシュ』、10人のダンサーが銀色のブラインドを出入りしながら踊るコンテンポラリーダンス風の『Blind Tone』、高橋莉子のソロ『絵空』を上演。

『ロイヤルストレートフラッシュ』撮影:杉原一馬(和光写真)

『Enchantment』撮影:杉原一馬(和光写真)

太田は川口バレエにおいて主任講師を務め若い団員や研究生の踊り手に振り付ける機会が多い。彼女たちの若い魅力を引き出すことに重きを置いていると思われる。舞踊作家として個性を打ち出すのは、まだまだこれから。とはいえアメリカ仕込みのスキルはなかなかのもの。センスにも恵まれている。「やる気」もあるようだ。彼女の成長も楽しみにしたい。

『絵空』撮影:杉原一馬(和光写真)

『白い壁の中のジゼル』撮影:杉原一馬(和光写真)

近年川口バレエでは2年に1度「創作公演」と銘打ち創作バレエに積極的に取り組んできた。川口のドラマティックで奥深い創作に魅了される人々は増えつつある。平成21年度には愛知県芸術文化選奨文化賞を受賞するなど社会的評価も高まりつつある。とはいえ我が国でも指折りの創意に富んだ作品を発表し、個性豊かな作家性を有した得難い振付家である。「創作バレエの第一人者」と称しても贔屓の引き倒しにはあたるまい。知る人ぞ知る存在の域を超え、より広く知られていいと思う。東京での作品上演を望む声も少なくない。なかなか容易ではないけれども遠からず実現することを心から願っている。
(2013年11月10日 名古屋市芸術創造センター)

写真撮影:杉原一馬(和光写真)