小野絢子・福岡雄大インタビュー
~デヴィッド・ビントレーと歩んだ挑戦の歳月

新国立劇場バレエ団のプリンシパル小野絢子と福岡雄大は近年多くの公演で主役を務め才能を開花させている気鋭だ。パートナーを組む機会も多く2011年に芸術監督デヴィッド・ビントレーが振り付けた『パゴダの王子』(ベンジャミン・ブリテン曲)でファースト・キャストに選ばれた。2月下旬~3月上旬にはビントレーのお膝元、英バーミンガム・ロイヤル・バレエ団で上演された同作に客演。バーミンガムからの帰国直後の2人に話を聞いた。

小野絢子 プリンシパル Ono Ayako Principal

福岡雄大 プリンシパル Fukuoka Yudai Principal

小野絢子 プリンシパル Ono Ayako Principal
東京都出身。小林紀子、パトリック・アルモン、牧阿佐美に師事。小林紀子バレエアカデミー、新国立劇場バレエ研修所(第3期修了生)を経て、2007年新国立劇場バレエ団ソリストとして入団。主な受賞歴にアデリン・ジェニー国際バレエコンクール金賞などがある。入団直後に、ビントレー『アラジン』の主役に抜擢され成功を収めた。その後、ほとんどの舞台で主役を務めている。2011年プリンシパルに昇格。2010年スワン新人賞。平成22年度(第61回)芸術選奨文部科学大臣新人賞。第42回舞踊批評家協会新人賞。第30回服部智恵子賞。



福岡雄大 プリンシパル Fukuoka Yudai Principal
大阪府出身。ケイ・バレエスタジオで矢上香織、久留美、恵子に師事。2003年文化庁在外研修員としてチューリッヒジュニアバレエ団に入団、ソリストとして活躍。’05年チューリッヒバレエ団にデミソリストとして入団、同バレエ団にてハインツ・シュペルリ振付作品等様々な作品に出演。受賞歴も数多く、’03年神戸全国洋舞コンクール・バレエ男性シニア部門グランプリ、’08年ヴァルナ国際バレエコンクール・シニア男性部門第3位、’09年ソウル国際舞踊コンクール・ クラシック部門シニア男性の部優勝などがある。2009/2010シーズンより新国立劇場バレエ団に契約ソリストとして入団。数々の作品で主役を務め高い評価を得ている。2011年中川鋭之助賞受賞。2012年プリンシパルに昇格。第44回舞踊批評家協会新人賞受賞。



バーミンガムで踊った『パゴダの王子』

2人がバーミンガム・ロイヤル・バレエ団に招かれるのは昨年の『アラジン』(ビントレー振付)に続き2度目だ。「アットホーム」(小野)「優しくて面白い人が多い」(福岡)と慣れ親しんでいた様子。『パゴダの王子』は主人公・さくら姫が生き別れの兄と力を合わせ魔女である皇后エピーヌから王国を取り戻すファンタジーである。ビントレーが日本の伝統文化を取り入れ創作した。イギリスでの舞台はどのようなものだったのか。

小野:やっぱりカンパニーのカラーが違う。皆が着物を着ているシーンでは予想がつかなかったのですが、オペラの「蝶々夫人」を観ているような感じでした。顔を少し白めに塗ったり侍をイメージしたのか眉毛をキリッと描いてカッコよく決めていましたね。

福岡:どの役も個性やキャラクターを前面に出して「そこまでやるのか!」というくらい表現力豊かに演じている。それはお客さんにも伝わっているんじゃないかな。

小野:雰囲気の違いはありましたけれど違和感はなかったですね。エンターテインメント色が濃かったです。四人の王様(東の王、西の王、南の王、北の王)のヴァリエーションを舞台の袖から観ましたが強烈な個性が感じられ楽しかったです。



バーミンガムでの反応・反響はどうだったのか。

小野:カンパニーの皆さんもビントレー監督もとても喜んでくださいました。客席も応援してくれている雰囲気がありました。反応が近いというか早い。皇后エピーヌの踊りの中に蛸みたいな衣裳を着た深海魚の出る「フィッシュ・キス」という場面があります。衣裳が違って顔が見えることもありますが日本では静かだったのに笑いが起きていましたね。



ビントレー監督のコメントは?

小野:「よかったよ!」と。スパッとそういう感じでした(笑)。

福岡:装置とかステージングに満足できていないのか終演後すぐ舞台裏に行っていました(笑)。とはいえバレエマスターの方にバーミンガムのダンサーと比較して「絢子の振りを観た?凄いでしょ!」などとおっしゃっていました。喜んでいただけたのだと思いました。

「パゴダの王子」第2幕 撮影:瀬戸秀美

ビントレーとの出会い

小野とビントレーの出会いは2008年、『アラジン』を振り付けに来たときのこと。福岡は2010年の『カルミナ・ブラーナ』『ガラントゥリーズ』で初めて作品を踊った。

小野:『アラジン』のときは一番若く経験もなくて先輩たちが作るところに参加する感じでした。思ったよりも喋らない方だなと(笑)。でもヴィジョンははっきりある印象でした。

福岡:熱い情熱的な作品のときでも寡黙。それでいてズバッと言う。音符一つひとつに振りを付けているような人です。音と一緒にならないと伝わらない。何回か作品を踊りお話しする機会が増えると、人とのつながりを大事にする方だと分かりました。お話は上手ですしユーモアのセンスがあって驚かされます。

「カルミナ・ブラーナ」福岡雄大(神学生1) 撮影:瀬戸秀美

『パゴダの王子』クリエーション秘話

『パゴダの王子』は東日本大震災の起こった2011年秋に初演された。家族が離れ離れになってしまった王国に幸せは戻るのか――。ビントレーにとってもダンサーたちにとっても特別な作品となったに違いない。クリエーションは大変ながらも充実していたようだ。

福岡:振りに関しては楽譜を見ながらある程度作ってらっしゃる。「こうやりたい」とおっしゃられて「こう」「こうしてみて」というような細かい作業を行いました。音の取り方が難しく悩みました。ビントレーさんが特別なのはその人自身に役を付けること。「その人がどうするか」を見ています。「どうすればいいですか?」とお聞きすると「君がどうするか教えてくれ」と。自分がこうしたいと言うと「それは駄目」「これはいい」となっていく。

小野:彼は私には聞こえない音も全部聞こえている。一つひとつの音を凄く大事にしているため付いていくのは大変でした。設定を最初あたえられて私に振り付けてくれる。無理して何かを演じようとしなくてもいい。私がどういう感情で動いていくかというのが大切。

福岡:彼女がどうするのかを観ている。彼女が何かをしなくても振付がさくら姫のニュアンスになっているというか表現にもなっている。しかも音と一体化しているので外すと物凄く怒られます(笑)。



福岡の演じた王子は皇后エピーヌによってサラマンダー(とかげ)に姿を変えられている。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』などの古典バレエの王子とは役の入り方が違うという。

福岡:特殊です。『白鳥の湖』のオデット/オディールを1人でやっているような感じ。「君はとかげ!」と言われただけなので自分で解釈したのですがサラマンダーは人間から見て醜い存在。人と妖怪という対比が出ている。呪いが解け王子に戻ったとき、どう映るかを考えて踊るよう心がけました。技術的にもとても難しい。地面を這っているので第三幕のグラン・パ・ド・ドゥを踊る頃には足はパンパンなんです。バレエの体に戻れるのか不安でした(笑)。



兄妹がパ・ド・ドゥを踊って作品を締めるグランド・バレエは珍しい。

福岡:「君たちは兄妹なのだから恋愛をしているように見せてはいけないんだよ」と説明していただきました。でも役作りに関して「これはこういう意味」といった説明はされませんでした。

小野:私は王子をお兄さんと思って踊るので妹そのまま。振りを作るときには「恋人同士に見えやすい」と言われ監督も細心の注意を払っていました。パ・ド・ドゥのアダージョの最後に兄妹愛のポーズがあります。そこは何回も作り直しました。

「パゴダの王子」第3幕 撮影:瀬戸秀美

ダンサーの可能性を見出すビントレー

ビントレーと接してきた歳月は挑戦の連続だったと振り返る。

小野:いろいろな役を貰い人一倍チャンスをいただいた。『アラジン』では急に抜擢していただきました。『カルミナ・ブラーナ』の運命の女神フォルトゥナをやるとは誰も思っていなかったし自分でもびっくり(笑)。可能性を見出してくれる。ターニング・ポイントになりました。バレエ団のレパートリーが増え、彼の作品に限らず今までできなかった役をたくさんやらせていただいた。ダンサーは新たな舞台や作品に出会わないと成長できないと思う。本当に感謝しています。バレエ団としてもいろいろな作品を経験させて貰い視野が広がりました。

福岡:新国立劇場の中のシステムを変えたのが凄いと思います。ダンサーの階級制をより細分化したこともありますが、若手にもいろいろなチャンスをくださった。僕は監督に感謝すると同時に選ばれた意図を考えていました。自分に足りないものがあるから「この役をやらせてみよう」「もっと勉強しなさい」と言われているんじゃないかといつも思っています。何かメッセージがあるんですね。

小野:できる役をくれるというよりは次のステップ・段階に進めるようにチャンスをあたえてくれます。

「カルミナ・ブラーナ」小野絢子(フォルトゥナ)撮影:瀬戸秀美

「シルヴィア」撮影:鹿摩隆司

2人だからできること

ビントレー作品以外でも共演を重ね2人のパートナーシップは分かち難くなってきた。

福岡:息は合うと思います。組む回数は多いですから「こう来るな」という呼吸がある程度分かり、一緒に踊りやすいです。演劇的な要素のある作品では話し合いができますし、求めているものが違うとぶつかることがありますが、お互いを高めあうことができるので感謝しています。

小野:彼の一番凄いところは作品に対して絶対に妥協しないこと。容赦ない。私がちょっとでも違うと思ったら合わせることは絶対にしない。彼は譲らない所は絶対に譲らない。私も同じなのでぶつかるときもあります。舞台・作品をいいものにしようと考えている。

「テイク・ファイヴ」撮影:鹿摩隆司

ビントレーとのつながりを大切にしたい

2人を、そしてバレエ団をより高い次元へと導いたビントレーだが今シーズンをもって4年間の任期を終える。最後に彼の作品が続く。4月には『ファスター』(日本初演)『カルミナ・ブラーナ』という豪華2本立てを上演。6月が『パゴダの王子』待望の再演である。新制作作品を含む4月公演について福岡が紹介してくれた。

福岡:『ファスター』はロンドン五輪のために作られたアスリートを意識した作品。「より速く、より高く、より強く」という五輪のモットーをイメージして作られた。そのなかの「ファイター」を僕たち2人で踊ります(日替わり出演)。バーミンガムのダンサーに聞いたところ楽しかったと、でも凄く走ると聞いたときには冷汗が出ました(笑)。(マシュー・ハインドソンの)音楽も難しいのが目に見えているので期待と不安が入り混じっています。『カルミナ・ブラーナ』も人気があってお客様からも好評ですし合唱にのせて踊る機会は滅多にないので楽しみですね。



最後に4月、6月公演に向けての抱負を聞いた。

福岡:ビントレーさんに笑顔で帰って貰えたらいいなと思います。泣いてしまいそうですが……。ビントレーさんとのつながりは終わりではないと思うので期待したいです。そして、観に来てくださるお客様にポジティブなものをお届けし喜んで帰っていただきたいです。

小野:彼とのつながりは絶対に最後じゃないと思います。『アラジン』や『パゴダの王子』など新国立劇場バレエ団に振り付けた作品は絶対に戻って来ると信じています。彼があたえてくれたチャンスからたくさんのことを学びました。私だけではなく皆も以前よりも彼の作品を深く理解していると思う。ビントレー作品の良さを今できる最高レベル、いや無理をして、もっともっと高いレベルでお伝えしたい。お客様全員に「またビントレー作品がみたい!」と言っていただけるようにバレエ団一丸となって頑張ります。

INFORMATION

『ファスター』(日本初演)/『カルミナ・ブラーナ』

  • 【日時】平成26年4月19日(土)18:00、20日(日)14:00、25日(金)19:00、26日(土)14:00、27日(日)14:00
  • 【会場】新国立劇場オペラパレス
  • 【料金】 改定後 消費税8%
  •       S:10,800円 
  •       A:8,640円
  •       B:6,480円
  •       C:4,320円
  •       D:3,240円
  •       Z:1,620円
  • 【特設サイト】
  • http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/carmina_faster/

『パゴダの王子』

  • 【日時】6月12日(木)19:00(小野絢子&福岡雄大&湯川麻美子)、13日(金)14:00(米沢唯&菅野英男&本島美和)、14日(土)14:00(奥田花純&奥村康祐&長田佳世)、14日(土) 19:00(米沢唯&菅野英男&本島美和)、15日(日)14:00(小野絢子&福岡雄大&湯川麻美子)
  • 【会場】新国立劇場オペラパレス
  • 【料金】 改定後 消費税8%
  •       S:12,960円 
  •       A:10,800円
  •       B:7,560円
  •       C:4,320円
  •       D:3,240円
  •       Z:1,620円
  • 【特設サイト】
  • http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/pagoda/


  • 【チケット取り扱い】
  • Webボックスオフィス(PC&携帯)
  • http://nntt.pia.jp/
  • 新国立劇場ボックスオフィス(受付時間10:00~18:00)
  • 03-5352-9999
  • チケットぴあ、イープラス、ローソンチケット、CNプレイガイド、東京文化会館TS、JTB・近畿日本ツーリスト・日本旅行・トップツアー ほか