ドイツで熱い視線を注がれる森優貴(シアターレーゲンスブルクタンツ芸術監督)
~ディレクター就任2シーズン目を終えて
話題作『春の祭典』から今後の展望まで

森優貴 Yuki Mori
1978年生まれ。神戸の貞松・浜田バレエ団を経て1997年にハンブルク・バレエ・スクール留学。ハンブルク・バレエ団公演に多数出演する。1998年から2001年までニュルンベルク・バレエ に2001年からハノーヴァー・バレエ・トス・タンツカンパニーにソリストとして所属。シュテファン・トス、ウィリアム・フォーサイス、マッツ・エック、テロ・サーリネン、ダニエラ・クルツ等の作品を踊る。2005年にハノーヴァーで開催された第19回国際振付コンクールに出品した『MissingLink』で観客賞と批評家賞を同時受賞。平成19年度(第62回)文化庁芸術祭新人賞受賞。2008年「週刊オン★ステージ新聞」新人ベスト1振付家に選ばれる。2011年貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル23」にて『冬の旅』を再演(文化庁芸術祭大賞)。2012年に11年間在籍したシュテファン・トス・タンツカンパニーを退団しTheater Regensburg Tanz芸術監督に就任する。

森優貴 Yuki Mori

ドイツ、バイエルン州東部のレーゲンスブルクはドナウ川に面する水都である。大聖堂や石橋など歴史的建造物を有する落ち着いた雰囲気の街だ。同市の市立歌劇場の舞踊部門芸術監督を森優貴が務め早くも2シーズンを終えた。日本人として初めて欧州の公立劇場の舞踊部門芸術監督に就いた森は、ハンブルク・バレエ学校を卒業後、ドイツを中心に欧州でダンサーとしてキャリアを積む。2003年からは振付も始め、作品はドイツや日本、フランス、オーストリアで上演されている。振付家としての腕前それに師であるシュテファン・トスのカンパニーで中心として踊ってきたリーダーシップが買われたのだろう。新生シアターレーゲンスブルクタンツは若きディレクターのもと快進撃を続ける。

『Am Rand der Stille』正面:Riccardo Zandonà、後ろ:Alessio BuraniJuliane photo:Juliane Zitzlsperger

昨年(2013年)5月に現地を訪問した際に森が楽劇王リヒャルト・ワーグナーの人生を題材に振り付けた大作『Ich, Wagner. Sehnsucht!(『私はワーグナー。憧れ!)』および団員による創作集「Tanz.Fabrik!」を観ることができた(詳しくは「バレリーナへの道」VOL.95に報告した)。団員10人(+ゲスト)という小規模のカンパニーながら、それを微塵も感じさせない構想豊かで刺激的な舞台であった。森とカンパニーはドイツ内外で評価を高めている。ドイツ全国で読まれる有力紙「南ドイツ新聞」に立て続けに取り上げられ絶賛を博する。きたる9月には、ドイツの舞台芸術を管轄する機関と共同で発行されている舞台芸術専門誌において森が新鋭振付家/芸術監督としてインタビューを受け表紙を飾ることになった。

『Le Sacre du Printemps』Ina Brütting photo:Bettina Stöss

森の作品は音楽性に秀でている。ワーグナーからリヒターらの現代音楽、人気バンド、レディオヘッドの曲まで幅広い音楽を扱うが常に親和性が高い。動きの面ではトスそれに現存する世界最高峰の巨匠マッツ・エクらのヨーロッパ・コンテンポラリーバレエの系譜を継ぐ。そこに日常的な動作を加えたり、ひねりを利かせる。緻密な構成力も忘れてはならない。動きと音楽の一体感あふれる振付の流れを断ち切ることなく多彩なシーンを創り分ける。そしてドラマを感じさせるのが魅力だ。人間感情の機微が音楽と身体の動きの間から立ち上がる。奇を衒ったり、思わせぶりところはなく観る者の心を揺さぶる。 今年4月に現地で観た『Intime Briefe』『Le Sacre du Printemps』のダブルビル(プルミエは2月)でも森の才能とカンパニーの力量を確認することができた。

『Le Sacre du Printemps』Alessio Burani, Ljuba Avvakumova photo:Bettina Stöss

メインとなる『Le Sacre du Printemps』はストラヴィンスキー「春の祭典」に振り付けた意欲作。黒づくめの衣裳に身を包んだ男女が、どこからともなく現れ、無機的な空間で様々に交錯していく。群舞、ソロ、デュオが多彩に入り乱れる。激しく複雑な音楽の響きが続いても、彼らは寄る辺なくさまよっているかのよう。やがて最後は全員でせりから下り消えていく。まるで次の居場所を探しにエスケープするかのように。

ニジンスキー、ベジャール、バウシュをはじめとする数々の振付家が挑んできた難曲である。生(性)と死や暴力、犠牲といった主題が前面に出ることが多い。森はジョン・ノイマイヤーが同曲に振り付けた『祭典』の主役をハンブルク・バレエ学校20周年記念公演で踊った経験もある。しかし、先例にとらわれず、いまを生きる若者の不安をクールに見つめ、エネルギッシュで新しい感覚にみちた『春の祭典』を創りあげた。なお所見日は違ったが音楽部門の総監督を務める阪哲朗がプルミエ以降指揮を担当していたという。

併演の『Intime Briefe』は女2人と男1人のトリオ。下手に1本の木のオブジェ。バッハの弦楽四重奏にのせた哀歓こもるダンスが見どころの美しい小品だった。Wキャストが組まれていたが所見日には竹内春美が出演し活躍した。ドイツで大きく羽ばたいた舞踊手だ。

『Le Sacre du Printemps』 アンサンブル photo:Bettina Stöss

2013/2014シーズンは3つのプロダクションで約35回の公演を行った。来シーズンは劇場全体のテーマが「パートナーシップ」であり、それを汲みつつ「夢」に焦点をあてる森ならではの展開が注目される。

10月17日に初日を迎えるのが新作『Don Quijote(ドン・キホーテ)』。舞台は1960年代のオフィス。主人公は「自分の思うままに女も仕事もお酒も楽しんで来た」ドン・キホーテと、その前に突然現れた「ごく普通の新秘書」ドルシネア。衣裳は60年代アメリカをモデルにし、音楽はバレエ版でおなじみミンクスに加えイタリアのピアニスト/作曲家で映画「ブラックスワン」のサントラを作曲したLudovico Einaudi、ギリシャのコンサートピアニスト/作曲家Vassilis Tsabropoulosの曲を加え制作するという。

2015年2月22日にはオーケストラ演奏付で森&トスの新作によるダブルビルが開幕。 森の新作はガルシア・ロルカの「ベルナルダ・アルバの家」に取材し夢や欲望を探る作品となる。そして、師のトスに新作を振り付けて貰うことは念願だったという。

6月には「Tanz.Fabrik!3」を行う。さらに「Junges Theater」という子供たちの教育を目的とし作品を制作・上演する場でダンスと芝居を融合させ3歳からの幼児のための作品を制作するそうだ。

『Le Sacre du Printemps』Ljuba Avvakumova, アンサンブル photo:Bettina Stöss

『Intime Briefe』Ina Brütting, Riccardo Zandonà, 竹内春美 photo:Bettina Stöss

森は創作・指導だけでなく芸術監督として公演計画を立て劇場の各部署との連携や交渉も重ねるなど日々業務に忙殺される。ドイツの劇場では、常にプログラム、公演スケジュール、労働基準法などがシステムとして固定されているという。日々の活動に加え1年先のプログラムを決めるのにリサーチを始め、頭の中で作品をある程度仕上げ、文面にし、 市の評議会に提出する――過去と未来の物事を同時に行わなければならないそうだ。とはいえ3年目のシーズンを控え志気は高い。メンバー10名のうち半分の5名が入れ替わる。オーディションには世界中から約820名の応募があった。トスのカンパニーでソリストとして活躍していたダンサー、ハンブルク・バレエ学校&バレエ団出身でオランダのスカピノ・バレエで踊っていたダンサー、ニュルンベルクの異才ゴヨ・モンテロの下でソリストとして活躍してきたダンサー、故ベジャールの創設したルードラを卒業した気鋭ダンサーなどが加わるという。森はこう語る。「創設時から2年が経過しました。その後カンパニーがどう成長していくか、築きあげた土台を崩さず常に新たなアプロ−チ方法を模索し発信していく事が大切だと思っています。創設時からリーダーシップを取って来たダンサー、昨年に素晴らしい原石として入団し、この1年で着実に輝き始めたダンサー、彼らに加え申し分の無い新メンバーとどこまで突き進めるか楽しみです!」。

『Le Sacre du Printemps』Ina Brütting photo:Bettina Stöss

『Intime Briefe』Ina Brütting photo:Bettina Stöss

日本人の優れたダンサーはたくさんいる。世界各地の劇場付カンパニーやプライベートカンパニーで活躍したりフリーランスで動く人もいる。しかし、振付家としてクリエイティブな才能を発揮して認められ、かつ公立劇場の舞踊部門のトップとしてカンパニー切り盛りする存在は森が初めて。ドイツでもヴィースバーデンのトスのカンパニーやマインツのカンパニーが芸術監督交代により解散となる。森とシアターレーゲンスブルクタンツに注がれる視線は一層熱くなることは想像に難くない。2017/2018シーズンまで契約を延長したという。今後さらなる活躍が楽しみだ。日本公演にも期待したい。

【公演情報】

伝統と創造シリーズvol.7『オセロー&オテロ』

  • 【CAST】
  •   演出・振付:森 優貴
  •      出演:能    津村禮次郎
  •         ピアノ  北川 曉子
  •         テノール 水口 聡
  •         ソプラノ 市原 愛
  •         ダンス  酒井はな
  •              森 優貴
  •      伴奏:大塚めぐみ
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  • 【日時】
  •     2014年 8月 7日(木) 19:00 開演
  •            8日(金) 19:00 開演
  •            9日(土) 17:00 開演
  •           (開場は開演の30分前)
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  • 【料金】A席6500円 / B席5500円 C席4500円 / D席3000円
  •     ※D(座敷)席は能楽堂でのみ取り扱い
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  • 【会場】セルリアンタワー能楽堂(東京・渋谷)
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  • 【お問合せ・チケットご予約】
  •     セルリアンタワー能楽堂
  •     Tel:03-3477-6412(平日 10:00-18:00、土日祝 14:30-17:30)
  •     e-mail:cerulean@a-tanz.com
  •     fax:03-3477-0190
  •     *mail, FAXでお申込みの方は、ご希望公演日、席種、枚数及びお名前、ご住所、お電話番号を明記の上、タイトルを【オセロチケット予約】としお申し込み下さい。
  •     特設ページ:http://www.a-tanz.com/cerulean7.html
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