勅使川原三郎&佐東利穂子
ロング・インタビュー
~近年の活動とオーレリー・デュポン共演の話題作『睡眠―Sleep―』を語る

ダンスカンパニーKARAS(カラス)を率い世界的に活躍する勅使川原三郎。そのオリジナリティあふれる創作は内外で絶賛を浴び続け世界各地のカンパニーから作品委嘱が相次ぐ。KARASの中心メンバーであり躍進目覚ましい佐東利穂子とともに近年の活発な活動、この夏、東京、愛知、兵庫で上演される新作『睡眠―Sleep―』について語ってもらった。

勅使川原三郎 ©Rihoko Sato

佐東利穂子 ©Marc Vanappelghem_Rolex_s

創り手が主体性を持ったオープンな空間~KARAS APPARATUS

――2013年7月にKARAS APPARATUS (カラス アパラタス)を東京・荻窪にオープンされて1年が経ちました。劇場、スタジオ、ギャラリーが設備されておりスタジオパフォーマンスにも精力的です。設立の経緯を話していただけますか。

勅使川原: 日本では自分の稽古場・スタジオと劇場との間の敷居が高く公演数も多くはできない。自分の表現空間がほしい、発表ができる場がほしいと長年思っていました。気楽に入ってこられる開かれた場所がほしい。そこにはプロデューサーはいない。いかに自分勝手にやるかということです。プライベートな場所こそパブリックに。それが現実になりました。「アップデイトするダンスシリーズ」を続けていますが、同じタイトルで公演するのだけれどもソロがあったりデュエットがあったりグループがあったりする。日程はすべて我々が決める。創り手が主体性を持った場所であり公共の劇場とは役割が違います。

――「アップデイトするダンスシリーズ」のコンセプトを教えてください。

勅使川原: 舞台装置を置かない、壁の色は自由に塗り替える、完成した作品のみを目指さない。あと季節感がほしい。夏は夏らしく、冬は冬らしく。コンセプトとしては難しくなく、わかりやすくやりたい。ここで数を重ねることによって観客が劇場公演へ移行するプロセスになれば。日本にいるときはなるべく数多く公演したいです。

――佐東さんにお聞きします。KARAS APPARATUSの空間で踊っていかがですか?

佐東:元々勅使川原さんのやっているダンスは毎日のように更新されていくものです。動き自体が更新されていくことを今までの作品のなかでもやっています。同じ作品でも全てがきちっと決まっているわけではなくて、音楽でも変わることがある。ここでは、日々やることによって自分たちが「より良く」と思うことをすぐに実行できるのがいいですね。

アパラタスでの「アップデイトするダンスシリーズ」Vol.8『ヴァイオリン~震える影~』 ©Akihito Abe

人間を動かす危機感を捉えたい――ブルーノ・シュルツ作品をモチーフにした連続上演

――「アップデイトするダンスシリーズ」と並行して両国のシアターXでポーランドのユダヤ系作家・画家のブルーノ・シュルツ作品を扱い連続上演を行っています。

勅使川原: シアターXの空間は面白いことに部屋のように見える。部屋として使えるものの内容で考えたらシュルツがいいと思いました。シュルツは様々な自然を描いていますが、その中で一番描かれているのは匂いだと思う。漂い、匂う、香るような風景とか世界とか時代とか、小さくなってくると身の回りとかが広がって宇宙的になっていく。シュルツの持っている危機感が人間を動かす力になっている。それがシュルツに焦点を当てている理由です。生命の危機感、時代が崩壊する危機感、身体が壊れてしまう危機感……。危機感をとらえる力がないとやっていけない。戦前のユダヤ人でゲシュタポに殺されたシュルツだけれども、いまの日本で生きている人間でもある種共有できる危機感がある気がします。

――佐東さんはいかがですか?他の作品とは違いますか?

佐東:言葉を、具体的なシュルツの作品を題材にしていることが勅使川原さんにとって新しいアプローチだと思います。シュルツの場合、話の筋はあってないようなもの。一つひとつの物語が重要かよりも、そこに隠されているものとか、言葉によってあぶりだされてくるものとか、なんともいえない質感のようなものとかが、勅使川原さんが元々やっているような作品やダンスと呼応し化学反応していると思います。

シアターXでの公演『空時計サナトリウム』©Akihito Abe

――このシリーズを偏愛する観客も少なくないようです。

勅使川原: シュルツにはある種の偏愛があると思います。匂いそれに僕が感じるのは死者。シュルツは死んだ人でしょ。でも、逆に言うと、テクノロジーがどんどん進み、色々な時代があろうが、シュルツの持っている微妙な内的な危機感は有効な気がする。ある種の人の気持ちを揺さぶるような気がします。(稲垣)足穂でいえば薄板界という言葉が出てくるけれども薄い層の間に入っていくような感じ。それも現実感としてある。ファンクショナルな感覚。そして不思議な現実感がある。懐かしいノスタルジーではない。だからやっている。

知らないことが増えてくるのが面白い~勅使川原の創造欲を刺激する佐東利穂子

――近年佐東さんは存在感を増しています。勅使川原さんとデュオ作品を踊られていますし、ソロ作『SHE―彼女―』(2009年)や『ダンサーRの細胞』(2013年)など佐東さんにフィーチャーした作品もあります。役回りは変わってきたのでしょうか?

勅使川原: 過去でなくいまで考えると、この人の持っている潜在的なものが、まだまだほぐされている。作品を創るときにテーマとかアプローチの方法はありますが、結局作品はダンサーによって創られていく。それを僕は欲しています。出演者がどれだけ大切か。佐東利穂子という人は創造性を強く喚起する人。たとえば動きに関しても、我々は彼女の動く身体を信じられる。疑問を持たせないダンサーです。それは稀な資質です。

『SHE―彼女―』©Aya Sakaguchi (AI)

『ダンサーRの細胞』©Akihito Abe

――近年のKARASの活発な活動は佐東さんに支えられている面も大きいと感じます。

勅使川原: 1990年代中頃、200人近いワークショップの参加者のひとりとして、彼女はスタジオにきました。その頃、ワークショップは内容をより深く研究する方向に転換しようとしていた時期です。動きのひとつひとつに丁寧に時間をかけた内容。彼女がその研究対象になったと言ってもいいかもしれません。彼女が突出していたのはダンスへの決められた限界を持たないこと。困難さへの態度が純粋だった。

――佐東さんは勅使川原さんのもとで20年過ごされています。振り返っていかがですか?

佐東:役回りが変わってきたというお話がありましたが、自分としては違う風になったというよりも逆に難しさもあります。でも、やればやるほど面白くなっています。ますます知らないことが増えてくる。最初の頃もダンスを大人になってから始めたので、決まった形やこうあらねばならないということを知らなかった。その当時、勅使川原さんは「知らないことはいいことだね」とおっしゃいましたが、それが強みだったのかもしれません。

『第2の秋』©Akihito Abe

ダンスへの関わり方を見出せるように、そしてメソッドは明確に~ワークショップの意義

――2008年に発表された10代の少年少女による『空気のダンス』の出演者や勅使川原さんが昨年まで教鞭をとられた立教大学の教え子がKARASメンバーとして活動しています。東京芸術劇場では「U18ダンスワークショップ」を行っています。ワークショップを行っていることやカンパニーの後進を指導していくことについてお聞かせください。

佐東:勅使川原さんのダンスは形があってそれをどれだけ完璧にできるかを目指すのではなく、どうやって踊りを生み出していくかを自分自身の体で探ることです。ワークショップでも体の意識の仕方とか感じ方の基礎になるメソッドを行っている。私にとってそのことは続いていて未だに探究している感覚です。若い子や年代の違う人が増えても、同じメソッドを通して物を見る共通の意識を持った同志として学びあえる。

勅使川原: ワークショップはダンサー育成と意味が違う気がします。育成には学校を作ればいい。ワークショップではダンスへの関わり方によって何かを見出していく。ダンスというものは色々なことを考える力を養い社会と関わる方法にもなっている。ただメソッドは明確にしなければなりません。教育法や方法論、技術的なものは明確に。我々はニジンスキーやイサドラ・ダンカンの時代から100年しか経っていない。創作として考えるダンスの歴史は浅い。身体を使うので人間の進化のようにしか発展しない。そう考えると現代のダンス・メソッドは相当手抜きだと思います。作品創作に関与しすぎですしビジュアルアートなどに影響されすぎている。身体の研究が随分幼い。いい・悪い、面白い・つまらないじゃなくて時間のかかることをやりたい。ダンスを始めて40年でこれしかできない……ようやくこんなことしかできないわけですよ。あっという間に50年経つじゃないですか。次の世代の人でようやく100年になるわけでしょ。200年、300年と考えても誇大妄想じゃない。それくらい考えないと。現代舞踊なり創作ダンスがあまりにも刹那的というか瞬間芸みたいになりすぎている。連なっていくものだと考えると意味が変わるはずです。科学って昔から綿々と引き継がれ、それが最先端になっているわけでしょ?でも形は変わっていますよね。ダンスは作品発表に魅力を感じ過ぎちゃっている。

『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH』©Jun Ishikawa

エトワールたちのダンスに向きあう素晴しい姿勢~『闇は黒い馬を隠す』について

――2013年秋、パリ・オペラ座バレエ団に新作『闇は黒い馬を隠す』を振り付けました。同バレエ団には『AIR』(2003年)に続く登場です。エトワール3人によるシングル・キャストです。ニコラ・ル・リッシュ、オーレリー・デュポン、ジェレミー・ベランガールが出演しました。エトワールたちとの協同作業はどう進めましたか?

勅使川原: 余分な力を抜いて体をどうやって移動させるかということから稽古に入りました。ワークショップ的なものから振付して場面作りに入っていくやり方をしています。基本的に振付がいかに無いようにするかという方向で創っている。いかに振りつけないか。自分自身の身体がどのような状態かを自覚できるように自問自答しなければいけない。日々その意味がわかってくる。期間は1ヶ月くらい。3人なので時間はたっぷりありました。

――クリエーションが進んでから、それに本番はいかがでしたか?

勅使川原: 素晴らしかったです。ニコラはオペラ座のあらゆる役を踊って色々な経験をしているじゃないですか。だけど彼は僕の作品に100%全て、いや、それ以上じゃないかと思うくらい献身的でした。自分の身体との格闘や課題のとらえ方がとても深かったですね。ジェレミーは『AIR』のときに組んでいるので比較的すぐに理解できた。ニコラとオーレリーとは初めてでしたが向き合い方が素晴らしい。献身的に身体を捧げるように稽古します。ダンスに向き合う姿勢が全然違う。

――佐東さんも補佐として協同作業に参加されました。感じられたことは?

佐東:3人とも何か新しいことをやろうとするときに時間がかかるのを分かっている。すぐに「分からない」「出来ない」という感覚を持たない。形のある振付を教えることも他のカンパニーでしていますし、『AIR』のときはそういった要素が多かった。でも今回みたいな場合、私は何も言わないほうがいいと思っていました。彼らが経験するべきだと思うのです。ワークショップのなかの葛藤とか彼らにとって身体が不自然になってしまうこととか日々様々なことに出会うのが振付ではないけれどもプロセスなので。

パリ・オペラ座バレエ団『闇は黒い馬を隠す』 ©Agathe Poupeney

パリ・オペラ座の大スター、オーレリー・デュポンを招聘!~新作『睡眠―Sleep―』

――8月14~17日に東京、21日に愛知、23日に兵庫で新作『睡眠―Sleep―』を上演し、オーレリー・デュポンさんを招きます。先日KARAS APPARATUS公演のアフタートークの際に勅使川原さんが「オーレリーをカンパニーの一員として迎える」と誇らしくおっしゃっていました。経緯を教えてください。

勅使川原: 彼女ともう一度創作をしたいと思いました。ガラ・コンサート的なゲストで呼ぶのではなくてカンパニーのメンバーとして出てほしい。彼女も「ぜひやりたい!」と。先日パリで稽古をしてきました。彼女には、か弱さ繊細さと強さの両方がある。スピードもあるし身体のセンターのラインを取るのも強い。それを溶かすような身体の使い方を稽古しています。

――今までに見たことのないデュポンさんが観られそうですね。

勅使川原: オーレリーには、まだまだ隠れている良さ、潜在していてまだ出していないものがあると思う。本人もわからないこと、気づいていないことがあるはず。それが稽古によって現れる。それが溶けてくると、また凄いことになる。

――『睡眠』というタイトルに妄想をかき立てられます。

勅使川原: 夢ではなく睡眠。人が寝るとはどういうことか考えると、諦めるように寝るとか、うとうとして寝るとか、とろけるようにして眠るとかある。しがみつくように眠ることもある。睡眠には終りがないのかもしれないし入口かもしれない。朝目覚めると睡眠から現実に戻るかもしれない。生きるうえで睡眠によって随分違う体験をしている。寝ることを拒絶しようと思っても拒絶しきれない。寝ないと死んでしまう。細胞の新陳代謝は寝ているときに行われる。死んで行く細胞がなければ生まれ変わらない。毎日入れ替わっているけれども新しい血液ができるのは夜中。寝ることによって初めて生きながらえることができる。ある意味死んでいくのが睡眠でもあるし、生まれかわっていくのも睡眠中。死なないと生きられない。睡眠はある種の仮死状態から生まれ変わる状態。どのよう眠るのか、眠っている状態はどう状態なのか、目覚めるときがあるのか。それが僕には興味深い。

『睡眠―Sleep―』

――リハーサルはいかがですか?これまでの作品と違ったものになりそうですか?

佐東:一番違うのは新しい人と関わること。オーレリーと一緒に作品を創り踊るのは新しいなと思います。先日もパリで2日間リハーサルを行ってきました。やはりやればやるほど彼女が変わっていくし、こちらも影響される。

勅使川原: 佐東がその場その場で創っていく振りをオーレリーが受けて場面を作る練習をした。佐東がやったことをオーレリーがシンクロしながらやる。凄く良かった。

佐東:自分の動きを彼女がやることによって、また違った感じがあったりします。それに影響されながら動きを新たに見直したり創ったりしていく作業が凄く面白かったですね。

――『睡眠』への抱負をお聞かせください。

勅使川原: いつも新作のときは今までに無かったダンスの踊り方、方法論を創りたいと思っています。作品だけを創るのではなくて踊り方を新たに創る。それによって作品が別の価値を持つ。今回はオーレリーが入ることによって彼女が新しいものを僕らにあたえてくれるだろうし、あたえることもある。佐東も他のダンサーも自分も全員が最高度のものを出す。テーマに沿って完結するのではなく、テーマの意味がどんなものか分からなくなるくらいダンスとして広げてみたい。意味がわかったようなダンスはしたくない。一日一日、初日から二日目へと向かってまた新たになっていくものになる気がします。

佐東:オーレリーとの共演もありますが睡眠というテーマにとても興味があります。ダンスではテーマそのものを直接的に表現するわけではないので、そのテーマを基に身体から導き出される動きを探っていくのがとても楽しみです。そこから勅使川原さんもおっしゃっていたように、毎作品ごとに新しいダンスの技術も生み出されていくので。

勅使川原三郎 新作世界初演『睡眠―Sleep―』公演情報


  • 東京公演
  • 8月14日(木)開演19:00(開場18:30)
  • 8月15日(金)開演16:00(開場15:30)
  • 8月16日(土)開演15:00(開場14:30)/ 開演19:00(開場18:30)
  • 8月17日(日)開演16:00(開場15:30)
  • 会場:東京芸術劇場プレイハウス http://www.geigeki.jp/
  • 料金:S席7000円 / A席5500円
  •    高校生割引1000円 / 25歳以下4000円 / 65歳以上6000円
  • お問い合わせ:東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296
  •       (休館日を除く10:00-19:00)
  •  
  •  
  • 愛知公演
  • 8月21日 (木) 開演19:00(開場18:30)
  • 会場:愛知県芸術劇場大ホール http://www.aac.pref.aichi.jp/
  • 料金:S席6000円 / A席5000円 / B席4000円 (学生B席3000円、25歳以下)
  • お問い合わせ:公益財団法人愛知県文化振興事業団 052-971-5609
  •        (平日10:00-18:00)
  •  
  • 兵庫公演
  • 8月23日 (土) 開演18:00(開場17:15)
  • 会場:兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール http://www.gcenter-hyogo.jp/
  • 料金:A席6000円 / B席5000円 / C席4000円
  • お問い合わせ:芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255
  • (10:00-17:00*月曜休)