有馬龍子記念 京都バレエ団公演
“時を超えて”バレエ・コンサート~バレエという芸術における変わるものと変わらぬものとは?

時代とともに変化する様式と時を超えても色あせない本質。変わるものと変わらぬもの。有馬龍子記念 京都バレエ団が長年交流のあるパリ・オペラ座からのゲストを招いて催した「時を超えて“バレエ・コンサート”」を観てバレエという芸術の深い魅力を実感した。
(2014年8月10日 京都府長岡京記念文化会館) 撮影:瀬戸秀美

最初の『レ・シルフィード』(初演1908年)はショパンの名曲にミハイル・フォーキンが振り付けた叙情豊かな佳作である。ロマンティック・バレエへの憧れがこめられており、妖精たちが夜の森をさまよう情景を描く。簡素なステップで組み立てられているけれども優美で洗練されている。再振付・指導は(公社)日本バレエ協会会長の薄井憲二。フォーキンが亡くなる2年前にバレエ・シアター(ABT)に振り付けた版をマイケル・ランドから習っており今回の上演はそれに基づく。パ・ド・ドゥを踊ったのは藤川雅子とパリ・オペラ座バレエきっての実力者ヤン・サイズ。ワルツの光永百花はもとよりアンサンブルの隅々までが品よく優美に上体を動かし顔の付け方やポーズもじつに自然だ。全体に抑制されながらも泰西名画の世界をくっきりと浮かびあがらせる。ピアノ生伴奏(山口佳世子)も趣があった。

『レ・シルフィード』撮影:瀬戸秀美

続いては古典バレエを確立したマリウス・プティパがポンキエッリの歌劇「ジョコンダ」(1876年)の幕間の曲に振付けた『時の踊り』(初演1883年)。ナタリア・ボスクレシェンスカヤと安達哲治の再振付である。夜の女王(小寺彩那子)と三日月(西岡憲吾)を中心に据え、朝・昼・夕・夜それぞれ6人計24人の群舞が踊る。各組ごとに色分けされたクラシック・チュチュ姿のアンサンブルの優美なラインと、きびきびとしたフォーメーションは観ていて心地よい。純粋に動きの妙で魅せる構成は今なお新鮮。まさに時を超えて輝く名作だ。

『時の踊り』撮影:瀬戸秀美

ヤン・サイズが振り付け光永百花と踊った『タイス』はマスネの歌劇「タイス」から「タイスの瞑想曲」にのせてサイズが“ロマン主義が加味された『愛される存在の欠如』を夢想させ、創りあげた作品”。2人の感情の機微が濃密に伝わってくるけれども振付は繊細でのびやか。2人が絡んでもベタベタしない。モダンでセンスの良さを感じる。『レ・シルフィード』でも目を引いた光永は、まだ若いが恵まれた肢体を活かして大人っぽく踊った。

『タイス』撮影:瀬戸秀美

『Lazo~絆~』は異才・矢上恵子が振り付けたコンテンポラリー作品。3年前の東日本大震災の時に創られた。吉岡ちとせ、藤川雅子、杉浦ひとみ、髙橋瑶子、西尾優実花、尾茂弥菜緒が、自らの力では抗し難い力の前で絶望しながらも前に歩もうとする。今を力強く生きる女性たちの姿がヒリヒリするような手触りもって伝わってきた。バレエ・ダンサーならではの鍛えられた身体の強さを活かしつつ矢上独特のリズムとアクセントが脈打っている。ここにはバレリーナのイメージの象徴と言えるポワントとチュチュは存在しない。けれどもバレエの進化形の1つなのは疑いないだろう。主題も振付も清新である。

『Lazo~絆~』 撮影:瀬戸秀美

お終いはダヴィッド・リシーン原振付による『卒業舞踏会』。寄宿制の女学校と陸軍士官学校の生徒たちの舞踏会の模様をユーモアとペーソスをこめて描く舞踊劇である。1940年にバジル大佐のバレエ・リュス・ド・モンテカルロにて初演され以後世界各地で取り上げられている。今回は指導にパリ・オペラ座バレエ学校からエリック・カミーヨを招いた。若い女生徒(前野詩織)、第一士官候補生(吉田旭)、三つ編み女生徒(中西咲歩)の生きいきとした演技や踊り、鼓手(西岡幸輝)の妙技、「ラ・シルフィード」を踊るペア(戸越莉里花)&楊在恒)の情感豊かな踊り、舞台も客席も盛り上がるフェッテ競争(尾茂弥菜緒&小寺彩耶子)……若いダンサーたちのパワーと感性が活きる演目だ。いっぽう将軍(ヤン・サイズ)とお目付け役(福谷葉子)の「老いらくの恋」が印象深く描かれる。若者たちとは対照的な描写が「人生」を感じさせる。背景は黒い幕だけと飾り気のないもの。でも却ってドラマがクリアに浮びあがってくる。上等で品があり、本質のみを抽出する――オペラ座ならではのエスプリが息づいていると感じた。そして「時」を主題としたコンサートの幕切れにふさわしい。

『卒業舞踏会』撮影:瀬戸秀美

京都バレエ団は前身の有馬龍子バレエ団時代から連携する京都バレエ専門学校とともにフランス派メソッドの普及に努めている。私はこのバレエ団の公演では京都バレエ専門学校創立30周年記念公演(2006年)、バレエ団創立60周年記念特別公演II東京公演(2010年)、『ドン・キホーテ』全幕(2012年)を観ている。ベテランに加え京都バレエ専門学校の卒業生・在校生も含めた陣容は年々は厚くなっていると思う。2015年、2016年にはオペラ座から多数のゲストを招きオーケストラ付きの公演を盛大に催す。来年8月の『ロミオとジュリエット』全幕は東京公演も決まっている。伝統を大切にしながら今日におけるバレエの在り様を考えた企画・制作を進めていることは今回のコンサートからしても明らかである。着実に前進するバレエ団の今後も楽しみにしたい。

有馬龍子記念 京都バレエ団特別公演『ロミオとジュリエット』予告

  • 2015年8月2日(日) 東京 五反田・ゆうぽうとホール
  • 2015年8月9日(日) 滋賀 びわ湖ホール大ホール

ファブリス・ブルジョアによる世界初演・新作
パリ・オペラ座バレエ団から豪華キャストが勢揃い

ロミオ:カール・パケット
ジュリエット:エロイーズ・ブルドン
ジュリエットの母:モニク・ルディエール
ジュリエットの父:シリル・アタナソフ
パリス:クリストフ・デュケンヌ
ベンヴォーリオ:ヤニック・ヴィトンクール