安達悦子(東京シティ・バレエ団理事長・芸術監督)インタビュー
~皆に愛されるバレエ団、"音楽的なバレエ団"でありたい~

1968年に創設され、古典と創作を幅広く上演し、バレエ界で確固たる実績を積み上げてきた東京シティ・バレエ団。2009年以降は日本を代表するプリマバレリーナとして多彩に活躍してきた安達悦子が理事長・芸術監督に就いた。拠点とする東京・江東区のティアラこうとうでの定期公演に加え自主公演も増やし、海外からの振付家・指導者も招くなど精力的に活動している。安達にバレエ団の現在そして将来のヴィジョンを語ってもらった。

安達悦子 Etsuko Adachi
松山バレエ団にて、松山樹子、森下洋子、清水哲太朗に師事し79年慶應義塾大学在学中に第一回アメリカ・ジャクソン国際バレエコンクールで銅メダル獲得。
同年文化庁芸術家在外研修員として二年間モナコに留学し、マリカ・ベゾブラゾヴァに師事。
86年東京シティ・バレエ団にプリマとして入団し、「ジゼル」「白鳥の湖」など古典から創作バレエまで数多くの作品で主演し、客演も多数務める。
2009年5月より、東京シティ・バレエ団理事長および芸術監督に就任。
国内外のバレエコンクールの審査員も多数務め、献身的なバレエ教育を行っている。

――東京シティ・バレエ団に入団されたのは1986年です。経緯を教えてください。

前年に日生劇場からオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」の振付を頼まれたのです。演出が慶応義塾大学の先輩・鈴木敬介先生、ダンサーは東京シティ・バレエ団で石田種生先生(創設者の一人、2012年没)が選んでくださっていました。また、日本バレエ協会公演で中島伸欣さん(現・理事)と踊る機会があり、シティのクラスを受けたりしていました。種生先生には子供の頃、広島で習っており、初めてパ・ド・ドゥを踊っていただいたのも先生だったり、色々な事がシティと繋がっていました。種生先生がお声掛けして下さった事ももちろんありますが、今思えば自然な流れでした。

――バレエ団の特徴は?

形態は違いますが海外のバレエ団と雰囲気は似ています。合議制という組織のあり方から生まれていると思います。ダンサーと振付家・スタッフが師弟関係ではない。トップダウンがなく、互いがリスペクトし合う。でも自由だけれど責任を求められます。精神的にも自立し、与えられたものをどんどん取っていかないと残っていけない。私は自分の引き出しを増やしつつ踊ってきたという感じです。外でも自由に踊らせていただきました。石井潤さんや横井茂先生の作品を踊り、バレエ協会公演にも出ていました。

「くるみ割り人形」振付:石井清子 上演2014年 撮影:鹿摩隆司 クララ:松本佳織 くるみ割り人形:岸本亜生

――2009年に理事長・芸術監督に就任されました。

前理事長の石井清子先生に事あるごとに勧められていました。でもダンサーとしてしか活動してこなかったので「無理です」とずっとお断りしていたのですが……。就任直前、事務局に勧められ3ヶ月間の在外研修に行きました。それが今の土台になっています。モナコの学生時代からの恩師アレックス・ウルスリャク先生に紹介されベルリン国立バレエ団が研修先になりました。モナコ時代の同級生クリスティーヌ・カミーヨがバレエミストレスでした。クリスティーヌが『白鳥の湖』を初めて踊る中村祥子さんを指導しているのを観たり、弟のエリック・カミーヨが教師を務めるパリ・オペラ座バレエ学校を視察したりしました。ローザンヌ国際バレエコンクールも見学しました。そこで、芸術監督のヴィム・ブルックス、デボラ・ブル、パトリック・アルマンら旧知の人たちにも会いました。それまでダンサーの気持ちしかなかったのに3カ月の間に旧友たちと話すことで指導する側の気持ちを味わうことができました。

「白鳥の湖」振付:石田種生 上演2014年
オデット:志賀育恵
ジークフリート王子:黄凱

「ジゼル」振付:金井利久 上演2013年 撮影:鹿摩隆司
ジゼル:若生加世子
アルブレヒト:キム・セジョン

――就任して最初にされたことは?

それまでは任意団体でした。文化庁のお仕事もしていましたが、対外的には個人商店と同じという事を慶應の同窓生に言われて「これは大変」と思いました。ちょうど法人制度が改革されたばかりでしたので、すぐに一般財団法人にしました。

――財団設立2年目にBallet for Everyone(バレエ・フォー・エブリワン)というヴィジョンを掲げられました。

東京シティ・バレエ団の特徴は、江東区との芸術提携があって、区民の方々にバレエを観ていただいていることです。こちらから区民の中に入っていくことをベースにして日本全国、世界へも出ていきたい。江東区内小学校で毎年開催しているアウトリーチ以外にも、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団と協力した企画や幼児向けエクササイズ等が増えました。でも、まだまだ認知度が低い。観客を増やさないと。Everyoneの中には私たちも入っています。ここで学んで自分を高め仕事ができる状況を作る。ダンサーも教師もお互いが成長できる場として高め合っていこうと。それと、私個人の思いが濃いのですが“音楽的なバレエ団”でありたい。私自身、音楽から踊りをキャッチしていたし、舞台を観ても作品やダンサーの音楽性はとても重要です。

「ロミオとジュリエット」振付:中島伸欣、石井清子 上演2014年 撮影:鹿摩隆司 ロミオ:石黒善大 ジュリエット:中森理恵

――創設以来古典と創作を二本柱に活動するスタイルは変わっていません。

過去を未来につなげていかなければならない。先年、石田種生先生が亡くなりましたが過去の作品で良いものはバージョンアップしてつないでいきます。『ジゼル』『白鳥の湖』の衣裳は初演から40年も経つので変えました。専門の指導者をお呼びする機会も増えました。『ロミオとジュリエット』再演(2012年)の時は殺陣の方をお呼びしました。『白鳥の湖』ではラウル・レイモンド・レベックさんらをお呼びして指導していただきました。同時に若手を育てる場合、今海外でやっていることを持ってこなければならない。創設者の石田先生や石井先生も海外に学び、それを膨らませてきました。私自身の体験から思うのですが団の経験だけで作品を創り踊っても広がらない。海外では1つのバレエ団にいても移動しているし交流も多い。劇場の共同制作も増えています。グローバルになってきている。東京シティ・バレエ団でも、そういった状況を鑑みつつ変えていこうと思います。

「挽歌」振付:石田種生 上演2013年 撮影:鹿摩隆司

――キミホ・ハルバートさん、マシモ・アクリさん、レオ・ムジックさんら外部から気鋭の振付家を招きました。クラシックをベースに音楽性も豊かな作家を選んでいる印象です。

最初は誤解されるんですよね。海外のものを持ってくると、そっちばかりだと。コンテンポラリーといっても海外のバレエ団と同じようにクラシック・バレエを分かっている人にお願いしています。

――2013年夏に上演したウヴェ・ショルツ振付『ベートーヴェン 交響曲第7番』を上演しました。その経緯は?

ウヴェ作品上演に至ったのは、アレックスから良い振付家がいると聞いていたのと友人でウヴェの下で踊っていた木村規予香さんの勧めがあったからです。ウヴェの作品をDVDで色々観ました。『ベートーヴェン 交響曲第7番』はウヴェがシュトゥットガルト・バレエのために創った作品です。1975年に文化庁研修員として石井先生が訪れたシュトゥットガルトで、地域密着型のバレエ団を作りたいというヴィジョンが生まれました。踊るのが難しい作品ですが、石井先生のヴィジョンの基となったシュトゥットガルトで生まれた作品という「縁」のようなものを感じ、上演を決定しました。また、音楽は日本でも有名なので、バレエをやっている人だけでなく一般の方々にも楽しんでいただけることも大きかったです。

「ベートーヴェン 交響曲第7番」振付:ウヴェ・ショルツ 上演2013年 撮影:鹿摩隆司

――大反響を呼びメディアでも大きく取り上げられました。バレエ団としての収穫は?

作品を創る時の綿密さ・ディティールが凄い。その前のレオ・ムジックの時からそうでしたが、ダンサーをあきらめさせない。「そこまでやらせるのか」と。でも大丈夫だった。意欲的に新作を発表している小林洋壱くんも「そこまでやっていいんだ」と思ったそうで良い刺激になりました。以後、他の作品でもダンサーの意識が変わりました。

――若い世代のダンサーと日々接していて感じることは?

技術的にも体型的にも昔よりずっとレベルは上がっています。今はネットで動画もどんどん見られるし情報力が上がっている。海外経験のある子が多いので、シティのカラーも踏まえつつ、より充実した形できちんと教えないといけない。『ベートーヴェン 交響曲第7番』は「NHKバレエの饗宴」で上演され、昨年の『白鳥の湖』も間をおかず日生劇場で再演できました。恵まれていますが、うちのダンサーは、まだまだ磨けるダイヤモンドだと思います。バレエ団に合う作品を上演し、もっともっと磨いてあげたいです。

「Crash the lily」振付:レオ・ムジック 上演2013年 撮影:鹿摩隆司

――昨年、日本人の国際バレエコンクール受賞ラッシュに沸きました。いっぽう、すぐれた人材が日本ではプロとして活躍できないことが“才能流出”として指摘され、日本のバレエ界の実態が広く一般にも報道されるようになりました。現状をどう思われますか?

私が子供の頃、日本にはプロのバレエ団ができるだろうと思っていましたが、やがてとても難しいと思い始めました。日本は安全で豊かだから子供をお稽古ごとに通わさせる層がある。バレエもお稽古文化として育ってきました。その歴史をひっくり返すこと、社会のシステムをひっくり返すことはできない。人材流出といっても就職できないのだから止めることはできません。ただクラシックの作品を絶対に踊りたいと考えると、海外でも選択肢は限られてきます。日本でクラシックを踊りたい人が出てきますし、海外が合わない人もいます。ジレンマもありますが、日本で踊りたいという人たちのためにも良いバレエ団を作っていかなければならなりません。

「くるみ割り人形」振付:石井清子 上演2014年 撮影:鹿摩隆司 金平糖の女王:清水愛恵 コクリューシュ王子:黄凱

――昨年9月、一般社団法人日本バレエ団連盟が創設され、東京シティ・バレエ団も正会員団体として入られています。日本バレエ団連盟を通して実現させたいことは?

日本バレエ団連盟ができたのは、バレエ芸術の振興と普及はもちろんですが、オペラや演劇というバレエ以外の舞台芸術と並ぶためです。例えばサッカーではジュニアリーグとプロリーグは明確に違います。でも日本のバレエ界はプロという明確な定義がないので社会からスルーされてきました。日本のバレエ団が団結して社会に現状を訴える事で、公演環境が整備され、バレエがより発展する事を目指しています。

――日本バレエ団連盟では、東京都内におけるバレエ上演に適した会場の不足を受け新劇場建設を訴えていくと報道されました。その点、東京シティ・バレエ団は準フランチャイズのティアラこうとうがあり年間通しての定期公演が約束されています。

ティアラの職員の中にはバレエを知らない方もいらっしゃいます。そういう人たちとお話しする事でバレエを好きになってもらう。そうすると一生懸命にやってくださって、今度は職員の方たちがお客様によりバレエの魅力が伝わるようなアイデアを出してくれるのです。バレエダンサーは小さな時からバレエばかりなので一般的な感覚があまりありません。勉強することはたくさんあります。

「ボレロ」振付:石井清子 上演2013年 撮影:鹿摩隆司

――2015年2月14(土)、15(日)に行われる「TOKYO CITY BALLET LIVE 2015」は団員の創作集です。作品の紹介・みどころをお願いします。

『死と乙女』を振り付けるレオ・ムジックはヨーロッパで活躍しています。今回も指導で来るイリヤ・ロウエンに紹介され、2013年の「ラフィネ・バレエコンサート」でパ・ド・ドゥ(『Crash the lily』)を創ってもらいました。リハーサルの時から大きな刺激でした。私は『ラ・バヤデール』影の王国の場面を担当していたのですが、そちらも時々見てくれたのです。クラシック・バレエにも造詣の深い人が、コンテンポラリーを創る――当たり前のヨーロッパのバレエ団の状況に浸れました。『Crash the lily』は素晴らしく、お客様にも好評でしたので、今回も是非と依頼しました。レオの作品は男女10組が踊る予定で音楽はシューベルトやヴィターリを使います。バレエ団には振付をしているダンサーもいますが、音楽の選び方や思想、ダンサーとの接し方などを学んでほしい。中島伸欣の『鏡の中で』は志賀育恵と黄凱が魅せるパ・ド・ドゥ。小林洋壱の『Without Words』は待望の再演で今回は佐々晴香とチョ・ミンヨンが踊ります。石井清子の『ボレロ』は音楽的で明るい石井風な味わい。全体としてはシックな感じの中にシャープなものが入ってくればと思います。

――最後に今後のバレエ運営の方針をお聞かせください。

来年『ベートーヴェン 交響曲第7番』を再演します。それから古典の全幕ものも創りたい。今年の秋に豊洲に新しい中ホールができるので、そこで「BALLET LIVE」を発展させていきたいです。今、バレエ団は過渡期なんですよ。今までのやり方を踏襲しつつレベルアップしていきたい。理事長就任5年目で、やっと具体的な目標を設定できるようになりました。2018年の創立50周年に向けてダンサーたちと一緒に学んで成長していきたいです。

TOKYO CITY BALLET LIVE 2015

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  • 日時:  2月14日(土)17:00開演
  •      2月15日(日)14:00開演
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  • 会場:  ティアラこうとう大ホール
  •      S席:5,000円
  •      A席:4,000円
  •      学生席:1,500円
  •      (高校生以上25歳以下の学生対象/要学生証提示)
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  • 上演作品:上演順および出演者は変更となる場合がございます。
  •      音楽は録音したものを使用します。
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  • 一部
  • 石井清子振付「ボレロ」
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  • 【音楽】    J.M. Ravel
  • 【出演】    若林美和 土肥靖子 友利知可子 草間華奈
  •         尾之内亜紀 坂本麻実 扇春佳 岩渕美希
  •         宇野澤寛子 渡邉優 森絵里 河野麻子
  •         中村緋女 石井杏奈 岡陽子 宮井茉名
  •         (14日)石井初美 榎本文 庄田絢香 山﨑茉穂
  •         (15日)海老名照美 木暮絵梨子 朝見未來 小林諒子
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  • 二部
  • 小林洋壱振付「Without Words」
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  • 【音楽】    G. Mahler
  • 【出演】    佐々晴香 チョ・ミンヨン
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  • 中島伸欣振付「鏡の中で」
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  • 【音楽】    A.Part
  • 【出演】    志賀育恵 黄凱
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  • 三部
  • レオ・ムジック振付「死と乙女」
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  • 【音楽】    T. A. Vital / F.P. Schubertほか
  • 【出演】    大石恵子 佐々晴香 キム・セジョン 髙井将伍 玉浦誠
  •         岡博美 中森理恵 名越真夕 岸本亜生 内村和真 石黒善大
  •         清水愛恵 平田沙織 松本佳織 飯塚絵莉 薄井友姫
  •         浅井永希 上村浩一 二上史生 福田建太
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  • 【芸術監督】  安達悦子  
  • 【振付助手】  イリア・ロウレン(「死と乙女」) 
  • 【美術】    江頭良年(「鏡の中で」)
  • 【照明】    足立恒
  • 【編曲】    Stage Box(「Without Words」)
  • 【衣裳デザイン】レオ・ムジック(「死と乙女」) 櫻井久美(「鏡の中で」)
  • 【大道具制作】 (有)ユニ・ワークショップ 
  • 【衣裳製作】  アトリエ・ヒノデ(「鏡の中で」)
  •         コスチュミエール(「死と乙女」) 
  •         Stage Box(「Without Words」)
  •         TCB企画(「ボレロ」)
  • 【舞台監督】  橋本洋 淺田光久
  • 【制作・主催】 一般財団法人東京シティ・バレエ団
  • 【共催】    公益財団法人江東区文化コミュニティ財団 ティアラこうとう
  • 【助成】    文化庁文化芸術振興会助成金(トップレベルの舞台芸術創造事業)