今村博明・川口ゆり子(バレエ シャンブルウエスト)インタビュー
~自然な流れで、新しい芽も育てつつ継続を

東京都八王子市を拠点に活動するバレエ シャンブルウエストは、日本を代表するプリンシパル・ダンサーとして活躍してきた今村博明・川口ゆり子夫妻が主宰するバレエ団。古典バレエのほか創作バレエも数多く手がけバレエ界に新風を吹き込み独自の存在感を示している。これまでの軌跡や2015年の初夏~夏にかけて行われる「トリプルビル」「清里フィールドバレエ」への抱負、今後の展望などを伺った。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

今村博明・川口ゆり子

創設の頃

――1989年八王子にユースバレエ シャンブルウエストを設立した経緯は?

川口 バレエを習うにも東京まで遠くて通えない子がいたので川口ゆり子バレエスクールを開きました。橘バレヱ学校で学んだことを八王子の子供たちに伝えたいなと。「100回のレッスンよりも1回の舞台」とよく言われます。卒業した生徒に舞台を経験させてあげたいと思いました。八王子の方たちに本物のバレエをお見せしたいというのもありました。吉本真由美や橋本尚美が高校生くらいで、私と今村が現役でバリバリ踊っていました。私たちが入れば皆のためになるし、お客様も満足してくださるだろうと思って設立しました。
今村 年に1回、12月に『くるみ割り人形』を観てもらいたいなと思って。並行して春に『白鳥の湖』や『ジゼル』をやったりすることが続きました。

――優秀なダンサーを次々に輩出されました。

川口 福井美弥子や宮浦久美子、永井とも子がいて、吉本泰久・真由美兄妹、逸見智彦、橋本、後から松村里沙が後から入ってきました。
今村 よく続きましたね。

――10年後の1999年、「ユース」を取ってバレエ シャンブルウエストに改名します。

川口 ダンサーから「年を取ったので…」という声も出てきたので(笑)。平成9年に文化庁芸術祭大賞を『天上の詩』で頂き、それを機に変えました。

「くるみ割り人形」

創作への取り組み

――創作バレエにも力を入れてこられました。

今村 私たちのバレエ団にしかないものを創りたいと思って最初に羽衣伝説をテーマにした『天上の詩』を創りました。「清里フィールドバレエ」をやっている時に「日本のバレエがほしいね」となって題材を探していると、近くに天女山があったり羽衣の池があったりしたことから考えました。ロシアのボリショイ劇場でも上演しましたが凄く感動的でした。その時には『時雨西行』や太鼓にあわせた『オン・ザ・ロード』も上演しました。

――「日本のバレエ」といえば両先生も踊られた『飛鳥物語』など故・橘秋子先生や牧阿佐美先生の影響があったりもするのでしょうか?

今村 バレエは西洋のものですから、ちょっと背伸びしなければいけない所もあります。日本を題材にしたオリジナルなものをバレエ団の特徴として持ちたいと思った時に、橘先生や他の先生方が創っていらしたことも頭にはありました。
川口 日本のバレエで日本の心を伝えたい。海外に持って行く際に『白鳥の湖』だと難しいというのもあります。

「天上の詩」

――『天上の詩』もそうですし「かぐや姫」を題材にした『LUNA』などもグランド・バレエの形式、古典の技法をベースにしながら創意工夫を加え練り上げていますね。

今村 古典を勉強してきましたから、それを軸に展開するのが私たちにとって自然ですし、それしかできない。自分たちの学んだものを伝えたいというのが大きいです。最高のものを若い時代に教えていただいたから伝えなきゃいけないという使命は感じますね。

――プーシキンの「エフゲニー・オネーギン」が原作の『タチヤーナ』、オリジナルストーリーの『ブランカ』などもドラマ性豊かにしてストーリーも伝わってきます。

今村 お客様に分かってもらわないと。私もバレエを観ていて分かりたい方なので。
川口 一番考えるところです。
今村 子供から大人まで楽しめるように『フェアリーテイルズ』や『おやゆび姫』を創りました。

「時雨西行」

地元・八王子での活動

――東京の中心部の劇場での公演も行ってきましたが八王子での活動が中心です。

今村 川口が生まれた土地だからという特別な思いもあります。近所に住んでいらっしゃる方に気軽にバレエを観にきていただいてバレエのファンを増やしていきたい。そのためには良いものをきちんとやらないと。そうじゃないと1回観て「次は行かない」となる。
川口 最初に発表会をご覧になって「バレエはもういい!」とおっしゃった方にお願いして「清里フィールドバレエ」に来ていただくと感動されました。良いものを観ていただきたい。
今村 草の根運動ではないですけれど良い公演を提供しないと。東京にはたくさんバレエ団がありますし、海外からもよく来ますが、うちのカラーとしては地域の方に愛されているというのがあります。

「タチヤーナ」

――地域に根付いているという具体的な手ごたえは?

今村 市や教育委員会も応援してくださり広報で取り上げて「八王子の誇りだ」と言っていただいています。唯一のバレエ団なので皆で応援しようよと。一番うれしいですね。長い時間かけてやってきて良かったなと。目に見えない信頼や信用、シャンブルウエストを観にいけば間違いなく良い公演をやっているという期待があるのではないかと思います。

――2011年、八王子駅南口にオリンパスホール八王子がオープンしました。

今村 こけら落としの依頼(『白鳥の湖』全幕)を受けてうれしかった。あれだけの設備の整った大きな劇場でオーケストラを入れて本格的なバレエをお見せできるのは最高ですね。
川口 タッパもあるし綺麗に見える。コンクールも始めました。あの劇場がなければ始めていません。

――今年(2015年)春に3回目を終えた「全国バレエコンクールin八王子」ですね。

川口 バレリーナの一日を体験できます。楽屋が広いので鏡の前でちゃんとお化粧したりできる環境を作っています。舞台上でのウォーミングアップ・クラスを1日3回各45分間行っており私も教えます。今年も良いコンクールになりました。
今村 シャンブルウエストのダンサーが参加者をケアします。楽屋へ案内したりバーを出したり。八王子をアピールできればと思って始めると、東北や京都、九州、台湾からも応募が来るようになりました。今年のプログラムにはバレエの歴史を記しました。これまでの歴史があって今があるということを知らない子もいます。参加者にも先生方にも理解していただきたい。責任や誇りを持ってバレエをやってくださいという気持ちを込めました。

「おやゆび姫」

「清里フィールドバレエ」そして「ポールラッシュ ドリーム プロジェクト」

――山梨県・清里で続ける「清里フィールドバレエ」のお話を伺います。

今村 ユースバレエ シャンブルウエスト創立の翌年から始めました。牧阿佐美バレヱ団にいた頃、フランスで野外の公演に出ていて、日本でもそういうことをしてみたいという気持ちがあったんですよ。清里に遊びに行った時に自然があまりにもきれいだったので、ここでできればと。舩木上次さん(萌木の村(株)代表取締役社長)にお願いすると二つ返事で決まりました。夏でも冷房がいらないくらいの避暑地でバレエを観るには最高の場所です。

清里フィールドバレエ「ジゼル」

――先生方や団員にとって「清里フィールドバレエ」とはどのようなものですか?

今村 一緒にレッスンして、ご飯を食べて、宿舎で寝てという時間を長い間過ごします。その時に自分たちがやらなければいけないこととか通じあう時間とかがいっぱいあった。それに劇場と違いスタッフの仕事が直に見えます。スタッフとダンサーがともに力を出し合って舞台を創るんだという意識がとても強くなる。
お客様も雨が降ると祈るんですね。祈りのある舞台というのは劇場ではないでしょう?終演後もお客様と言葉をかけあう時間を持てる。客席と舞台の交流がある感じがとてもしますね。緞帳のない世界には不思議なつながりがあると思います。
長年やっているとノウハウも蓄積されます。雨が降らなくても夜露で床が滑る。吹いたり風で飛ばしたりしましたが上手くいかず、床下からボイラーで温めるようになりました。
川口 屋根を付けたら…という話もありますが上次さんは「それは違う!」と。踊っているとスタッフが見守ってくれているという感じが劇場で踊る時よりも強い。安心感がある。
今村 何が起こるかわからない。晴れていても1分後に雨が降るかもしれない…。
川口 あれだけの多くの方が私たちのために準備してくださるのだから、きちんと踊らなければならない。感謝の気持ちを持つだけでも人間として成長する。団員には皆さんの力で踊れているということを学んでほしい。感じない方がおかしいですよね(笑)。

――「清里フィールドバレエ」を観てバレエに対するイメージが変わったお客さん、プロのダンサーを志した方も少なくないようですね。

今村 そういうことを伝えられる仕事ができているならば幸せなことです。いい人生を生きてきたなと。今年も開催しますし来年以降も継続していきます。

清里フィールドバレエ「白鳥の湖」

――「清里フィールドバレエ」から派生した「ポールラッシュ ドリーム プロジェクト」についても伺います。東日本大震災の被災地を慰問しました。

今村 舩木さんから震災発生直後に電話があり「被災地はグレーです。色彩をあたえたい。バレエとオルゴールを持って行きましょう!」と。舩木さんを全面的に信用しているので、すぐに決めました。岩手の宮古から南下して福島まで23、24か所を回りました。
被災地に立ってショックでした。「初めて生徒を亡くしました…」とおっしゃるバレエの先生もいました。悲惨な状況で人々が前を向いて生きている姿を目にしました。バレエを観て心が少し元気になったと言っていただいたり、大変なのにこちらに気を使って励ましていただいたりしました。宿舎は自衛隊と警察官しかいないような所で給食のようなご飯を食べました。迷惑はかけられないので寝袋や簡易トイレを持っていきました。
川口 行っていいのか悩んだりもしました。大勢お越しになった所もありましたが20人もいない、出てこられない所もありました。
今村 ダンサーそれぞれに感じたことがあると思います。被災した方のために踊る、人のために踊るということを感じたことが収穫でした。自分が賞賛されるためとか、自分の芸術を観てもらうために踊るのではなく、被災者の方の心を慰めるために踊る。エネルギーが違う。
川口 行った子は、そう初めて思ったと言いました。私たちも同じです。「どうにか頑張ってください」という気持ちで踊りました。
今村 自分にできることで気持ちを伝える。舞台に立つ人にとって最終的に大事なことです。でも、ついつい忘れちゃうんだよね。恵まれているので。
川口 人間はそういうものなのかもしれませんが…。
今村 被災地の巡回公演は3年間続け、昨年は被災者の方を「清里フィールドバレエ」に招待しました。5年計画なので今年もお呼びします。

清里フィールドバレエ「白鳥の湖」

舩木城作品を2作上演「トリプルビル」

――6月20日(土)にオリンパスホール八王子で第74回定期公演「トリプルビル」を行います。海賊より『花園』に加えロイヤル・ニュージーランド・バレエ等で活躍し新進気鋭の振付家として注目される舩木城さんの作品を2作(『Thousand Knives』『Tale』)上演します。

今村  古典とは違った作品もやっていこうと。舩木が昨年の「トリプルビル」で発表した『counterheartbeats』は賛否両論でしたが経験を積んでほしい。振付師を育てることも大事です。うちで育ててきた子ですし世に出てほしいというのが私たちの希望です。今も『Thousand Knives』のリハーサルをしていますが、若い人はパワーがある。やりたいイメージがいっぱい頭にあるらしく、早くリハーサルをしたくてしょうがないみたいです。
川口 3本とも舩木作品にしようかという話もあったくらいです(笑)。
今村 『Thousand Knives』の音楽は坂本龍一。舩木はネオクラシックだと言っていますが、動きはクラシックをかなり崩しています。
川口 女性6人、男性3人が出ます。
今村 新作の『Tale』は舩木が「ゆり子先生をテーマに創りたい」と言っています。
川口 女性4人と男性8人が出ます。まだリハーサルは始まっていませんが(注:4月上旬)、「10分間淡々とした音の中で踊ってください」とだけは言われています。
今村 音楽と動きが融合するのが舩木作品の良さ。音を身体で表現する手法に独特なものがある。
川口 基本はバレエで「バレエをやっていればできる!」と言っています。私たちも応援したいしシャンブルウエストを使って少しでも作品を発表させてあげたい。

「counterheartbeats」

今年の「清里フィールドバレエ」

――「清里フィールドバレエ」は今年で26回目。このところ「the フィールドバレエ」として2年前は『ジゼル』、昨年は『白鳥の湖』と1本に絞っての上演が続きます。

今村 今年も『白鳥の湖』です。「theフィールドバレエ」の「the」とは、「究極の」「最高の」という意味です。それに賭けた情熱を一本でお見せしたい。昨年装置を新調しました。でも最後の日は台風が来たので装置なしで上演しました。森も揺れてきれいでした。日によって、気象条件によって違う。見ごたえのあるものにします。
今年は新国立劇場から小野絢子さん、本島美和さんという2人のプリマをお招きします。小野さんは菅野英男さんと組みます。松村と若手の藤吉千草も主演します。8月5、6日には「全国バレエコンクールin八王子」の上位入賞者によるコンサートも行います。
川口 それからアメリカン・バレエ・シアターの相原舞さんにも出ていただきます。
今村 山梨出身です。パ・ド・トロワを踊っていただきます。

「タチヤーナ」

今後を見据えて

――今後の展望をお聞かせください。

川口 世代交代も考えています。作品の役柄によっては急には難しいものもありますが。
今村 朝のバレエ団のクラスを以前は私と川口が交代で教えていましたが佐々木想美や吉本泰久が教えたりするようにもなりました。リハーサルの指導でも皆感性が違うから色々な目で見た方がいい。
川口 最後は私たちがチェックしていますが。
今村 時間がかかることです。継続していかなければいけないし、やり続けることでしか生まれないものがある。奇を衒うではなく地道にやっていると、とても自然につながって残っていくのではないかと。舩木にしても子供の時分から知っていて今がある。自然な流れが好きですね。
川口 自然に。
今村 新しい芽も育てつつ継続を。
川口 今年は『くるみ割り人形』をオリンパスホール八王子で上演します。大きなクリスマスツリーの装置を八王子では初めて全部見ることができます。
今村 古典のレパートリーも自主公演でお見せしていきたい。
川口 新しいものも。
今村 『ブランカ』とかも再演したいですね。やらない限りは残せないですから。

公演情報

  • バレエシャンブルウエスト第74回定期公演『トリプルビル』
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  • 日時:    2015年6月20日16:30開演
  • 会場:    オリンパスホール八王子
  • 料金:    全席指定 SS席7,500円
  •             S席6,500円
  •             A席4,500円
  • お問合せ:  バレエ シャンブルウエスト事務局
  •        042-624-4037
  •        http://www.chambreouest.com/
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  • 第26回 The清里フィールドバレエ『白鳥の湖』
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  • 日時:    2015年7月30日(木)~8月11日(火)
  •        (8月3日、8月6日休演)
  • 開演:    20:00
  • 会場:    清里高原 萌木の村 特設野外劇場
  • 料金:    【指定席】
  •         エメラルドシート(特別指定席) 11,000円
  •         クローバーシート(指定席)5,500円(大人)、3,000円(小人)
  •        【自由席】
  •         フリーシート(自由席)当日券 5,500円(大人)、3,000円(小人)
  •         前売券 5,000円(大人)、2,500円(小人)
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  • ご予約:   0551-48-2907(萌木の村公演事務局)
  •        http://www.moeginomura.co.jp/FB/