藤間蘭黄インタビュー
~ファルフ・ルジマトフ&岩田守弘とのバレエ・日本舞踊 夢の響宴「出会い―信長 NOBUNAGA―」を語る

 日本舞踊家・藤間蘭黄さんは江戸時代から続く「代地」藤間家の後継者。自主公演「蘭黄の会」(2014年秋までに20回開催)を続ける傍ら海外公演やテレビ時代劇の所作指導、内外の舞踊コンクールの審査員など多岐にわたってご活躍中です。西川箕乃助さん、花柳寿楽さん、花柳基さん、山村友五郎さんとともに五耀會のメンバーとして日本舞踊の普及にも精力的に取り組まれています。きたる2015年10月、蘭黄さんとバレエ界のカリスマであるファルフ・ルジマトフさん、元ボリショイ・バレエのソリストでウラン・ウデの国立ブリヤート・オペラ劇場バレエ団の芸術監督を務める岩田守弘さんが「出会い―信長 NOBUNAGA―」で共演します。蘭黄さんに抱負を伺いました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

藤間蘭黄 撮影:篠山紀信

――「出会い―信長 NOBUNAGA―」実現に至る経緯を教えてください。

 8年ほど前、国立劇場小劇場での舞台をルジマトフさんに観ていただく機会があり、「ここで踊りたい!」と。ルジマトフさんの舞台を観ていて面識はありましたが私の踊りを観てもらったのはその時が初めてでした。一緒に何かをやる話が実現するのに時間はかかりましたが「ロシア文化フェスティバル2015 IN JAPAN」の目玉として上演の運びとなりました。テーマはすぐに決まりました。『阿修羅』(振付:岩田守弘)で髪をまとめて踊っていたルジマトフさんの風貌・佇まいと、彼の強烈なキャラクターを生かすには信長しかないと思いました。信長には、それまでの伝統的な統治者と全然違う特異で突出したイメージがあり、それがルジマトフさんと重なるんですね。

――ルジマトフさんに接しての印象をもう少し詳しく教えてください。

 一番感じるのは踊りに対する真摯な姿勢です。毎日レッスンは欠かさないし踊るために身体を作っていく。私なんか全然足元にも及びません。彼のストイックさが生まれてくる基は踊りに対する畏敬の念じゃないかと思っています。そういうものを持っている方は意外に少ない。「振付通りに踊れます」というのと、人様の前でお目にかけるようになれるというのは全然違う話です。子供の頃から祖母(故・藤間藤子)や母(故・藤間蘭景)からもそう言われていました。その根底には踊りに対する畏敬の念、踊りの神様に対する畏れがあると思います。ルジマトフさんは、それを体現しているダンサーだと感じます。

藤間蘭黄(下)&ファルフ・ルジマトフ(上)2015年7月ミハイロフスキー劇場リハーサル室にて 撮影:Maxim Krivospitskiy

――『信長 ―NOBUNAGA―』の構想について教えてください。

 最初、私とルジマトフさんの2人でやるつもりでした。一人で何役も演じることができる日本舞踊の特性を活かして私が斉藤道三や足利義昭、豊臣秀吉、徳川家康、明智光秀といった信長の周りの人々を演じ分けることを考えていました。濃姫やお市の方も登場する予定でした。いざ台本を書いてみると、話が込み入って筋を追うばかりで、肝心の踊りが面白くなくなってしまう。踊りをある程度じっくり見せるシーンがほしいし、その方が面白いので人物を絞りました。私は斉藤道三と明智光秀を演じます。日本舞踊でもストーリー自体はシンプルなものが多いです。シンプルな所を複雑に見せるから面白い。シンプルに整理しています。

――「蘭黄の会」で上演する創作の場合、ご自身で台本を書き下ろされ、音楽もオリジナルや邦楽にアレンジしたものですね。

 今回もオリジナルです。が、三味線音楽ではありません。三味線という楽器は信長の時代にはなかったし、日本舞踊寄りになってしまってコラボレーションとして面白くない。そこで四拍子(しびょうし=小鼓・大鼓・太鼓・笛)だけにしようと。ただそれだとメロディラインに厚みが出ないので十三弦に加え低音が鳴る十七弦を含めお琴を入れました。私が台本を書いて「ここに、こんな曲が何分」みたいな形で21曲くらい創ってもらいました。最後、信長が昇天していく所は、更に工夫されています。それと踊り手は全員男なので女性の彩りがほしい(笑)。そこで演奏陣を全員女性にしました。彼女たちに囲まれて男3人が踊ります。

左から 岩田守弘、ファルフ・ルジマトフ、藤間蘭黄 2015年7月ミハイロフスキー劇場リハーサル室にて

――岩田さんが出演される経緯は?

 台本を書き、音楽がほぼ出来上がって、踊りをどうしようかとなった時、私はバレエの振付はできないし、ルジマトフさんも自分で振付はしないだろうと。そこで、「日本舞踊からバレエへの動きの翻訳」を岩田さんにお願いしました。『阿修羅』の振付者でもある岩田さんは、私の稽古場にも来てくれたこともあり親しくさせていただいていました。「翻訳」を快諾していただき、踊りの構想を組み立てていく中で、秀吉のイメージが岩田さんと重なってきたのです。岩田さんは秀吉にぴったり。信長の草履を温める所から最後に偉くなる所まで木下藤吉郎という感じがする。凄く真面目で踊りに真摯に向き合っている所がルジマトフさんと共通します。そして、なんといっても日本人なんですよ。ロシアでの生活が長いのですが、やはり日本人。礼儀正しい方で、非常に気持ちがいい。お扇子を使って踊る『侍』(振付:ラヴロフスキー)は日本の侍がテーマでそれも秀吉のイメージにあっています。

――リハーサルに入っていかがですか?

 コラボレーションの醍醐味をあらためて感じています。岩田さんとは1月と3月にリハーサルしました。「ルジマトフさんの踊るパートでこういう動きが欲しい」と岩田さんに話すと、ご自分のパートとルジマトフさんのパートを理解してくれて振り付ける。「翻訳」ではなく振付者。全く座礁することがなく、振りが出てこないことがない。基本の部分はスッとできました。7月のサンクトペテルブルグでの3人のリハーサルは更にスムーズに行われました。バレエダンサーにとっては、複雑とも思われる邦楽独特のリズムを、カウントするわけでなく有機的に捉えて振り付ける岩田さん。それを美しく体現していくルジマトフさん。そこには「信長」と「秀吉」がいました。

藤間蘭黄、ファルフ・ルジマトフ、岩田守弘 2015年7月ミハイロフスキー劇場リハーサル室にて 撮影:Maxim Krivospitskiy

――蘭黄さんは創作に意欲的に挑むと同時に「代地」藤間の芸を継承され古典にもじっくり取り組まれています。

 古典作品には現代まで残ってきた経緯があります。最初に演じた方や色々な方がやってきた積み重ね。その一番先の所を上演させて頂く、という意識がないと駄目だと思います。「古典は面白くない」と言われるのは上っ面だけしか出せないから。新しいものを創るのは大変ですが、やりたいように創りたいようにできる。自分一人の思いでできる。でも古典はそうじゃない。先人がつないできてくれたものを全部背負ったうえで新しく提示できないとペラペラなものしか上演できません。基本でもあるし課題でもあります。

――創作においても日本舞踊の技法をベースに創られていますね。

「新しいものを創る」といっても急に私がバレエダンサーになれる筈もありません(笑)。すべての基本は古典にあるし、古典をある程度マスターしないと新しいものは創れないなと常々思ってきました。まだまだですが、ある程度は自分の中で許せるかな、という所まできたので、新しいものを創り始めたというのが現状です。
 創作に際し、日本舞踊に無い新しい動きを付け加えようという考え方は良いと思います。でも、それは日本舞踊という言葉ができた頃、いやそれ以前から先人がやってきている。悲しいかな新しい振りは思いつきではできないんですよ。上手くバレエの動きを取り入れたものもありますがスタンダードにはなり得ていない。私はそのように創るのは無理ではないかと…。
 であるならば、ゆるやかに変わっていくしかない。古典を踊っても祖母とも母とも違う。そういう意味で踊りは変容していく。変容の気持ちを持って新しく振りを付ければ新しくなるんじゃないかと私は思っています。自分が持っている引き出しの中に詰まっているもので、というスタンスで振付をしています。

『禍神』撮影:岡村昌夫(テス大阪)

――着想・発想はどこから出てくるのでしょうか?

「これを踊りにしたら面白いだろうな」というものに出会うんですね。『沖の太夫』の時はアホウドリの話をニュースで知って、鳥を擬人化したいと思い、『展覧会の絵』は音楽を聴いて日舞にしました。『禍神』は、ゲーテの「ファウスト」を読む機会があり、全編を舞踊化できるのではないかと思いました。いつも「こんなシーンがあったら面白いだろうな」と思って台本を書き、それに即した音楽を創ってもらいます。そこから踊りを考えるのですが、振りが出てこないと「誰がこんな台本を書いたんだ!」と(笑)。

――「蘭黄の会」を拝見していると、照明の足立恒さん、舞台美術の河内連太さんらと協同し「総合芸術」として厚みのある舞台を創られている印象を受けます。

 近年、バレエやオペラを色々観る機会に恵まれていますが、踊りを引き立たせるための美術や照明が有効に使われている舞台は面白い。そういう舞台を観ていらっしゃるお客さんに、照明の変化もなく、ただ屏風だけ飾って「踊りを見て!」と言っても無理があるように思うのです。古典の素晴らしさを伝えたいという気持ちが根底にあるので、戦略的に手を変え品を変えて創っています。
 今回は衣裳にも力を入れています。ルジマトフさんと岩田さんの衣裳を最初、着物風にと思ったのですが、それでは動きを制約して駄目だなと。洋装にすると違和感があるので新たに創ります。自分は紋付き袴で。岩田さんは着物に寄った形、ルジマトフさんの衣裳は誰も見たことの無いものになるように、デザイナーの方に入ってもらいます。

――最後に『信長―NOBUNAGA―』の見どころを教えていただけますか。

 新たな「出会い」ですね。公演名の「出会い」というのは、バレエと日本舞踊の出会い。そして、私とルジマトフさんと岩田さんとの出会いであり、ルジマトフさんと劇場との出会い、日本の音楽との出会い、音楽の方とダンサーとの出会い、スタッフとの出会い、お客様との出会い…すべてが新しい「出会い」によって生まれる公演だと思うので、象徴的に付けました。お客さまに新たな舞台芸術に出会っていただきたいですね。3人が作品に向き合って真摯に創っていく。それぞれが得意技を持って勝負する姿をお目にかけたいと思います。

公演情報

  • 「出会い―信長 NOBUNAGA―」
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  • プログラム
  • ◆『信長―NOBUNAGA―』
  • 日本史上特異な統治者、英雄として知られる織田信長の一生を、
    斎藤道三や豊臣秀吉、そして明智光秀を通して描く。
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  • 作・演出:  藤間蘭黄 振付:藤間蘭黄、岩田守弘
  • 作曲・作調: 梅屋 巴、中川敏裕
  • 照明:    足立 恒
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  • 同時上演(予定)
  • ◆ルジマトフ 『ボレロ』(ニコライ・アンドローソフ振付)
  • ◆藤間蘭黄 古典作品
  • ◆岩田守弘 ソロ作品
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  • 日時:    2015年10月11日(日)18:00 12日(月・祝)14:00&19:00
  • 会場:    国立劇場小劇場(東京・半蔵門)
  • チケット料金(全席指定):S席12,000円 A席8,000円
  • お申込み・お問合せ: ☎03-5919-1051 (ロシアンアーツ 平日10:00-17:00)
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  • 公演HP:http://www.russian-arts.co.jp/k01.pdf
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