森優貴が芸術監督を務め、
竹内春美、草野洋介が踊るドイツ・シアターレーゲンスブルクタンツ4年目のシーズンが開幕!

 ドイツ、バイエルン州東部レーゲンスブルクの市立歌劇場の舞踊部門芸術監督に森優貴さんが就任し3シーズンを終えました。2012年、日本人として初めて欧州の公立劇場の舞踊部門芸術監督に就いた森さんは、ハンブルク・バレエ学校卒業後、ドイツを中心に欧州でプロフェッショナルダンサーとして活躍してきました。2003年からは振付も開始し評価を高めています。森さんとシアターレーゲンスブルクタンツは有力紙「南ドイツ新聞」やドイツの権威ある舞台芸術誌に取り上げられるなど注目度を増しています。秋の新シーズン開幕にあわせて森さんと日本人団員の竹内春美さん、草野洋介さんに近況を伺いました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

森優貴が語る!
芸術監督/振付家としての現在と今後

森優貴 Yuki Mori 撮影:黒須みゆき

――2014/2015シーズンを振り返っての感想は?

 昨シーズンからカンパニーの半数が新メンバーとなり新たな気持ちでスタートしました。常時制作しながら1~2年先の計画を立て進行させていくことは身についてきました。カンパニーも国内外で注目され、それに応えていけるよう常時クオリティの高い作品を上演できるよう一同努力しています。

――劇場内部や行政との折衝もあり多忙を極める毎日です。

 芸術監督とは本当に孤独な立場だと思います。市の役員や劇場上層部の下での芸術監督としての自分、ダンサーの前での芸術監督&振付家としての自分、そして一人になった時の本来の自分。プロフェッショナルなダンサーが集まっていますが、育ってきた環境、国籍、文化、価値観、性格、すべてがバラバラです。それを一つにまとめるのは物凄く大変なこと。個性と価値観の自己表現が強いですから。しかし確実に成長させることのできたダンサー、これから成長させていきたいダンサーを見出しました。精神的にも身体的にも自分自身に負担が掛かりすぎないように、と思うのですが、やっぱり立場上自分は後回しになってしまうんですよね…。

「Bernarda Alba」 photo:Bettina Stoess

――徹底的に自己管理しストイックにダンスと向き合っています。

 自分自身を深く見つめることができ、時間をかけて丁寧に自分を磨き上げていく。そして身体と向き合い忍耐力を持ち吸収し続けていくことができる。それがプロフェッショナルだと僕は思います。僕は現役時、出来て当たり前と言う立場で終わることのないよう、その上を常に目指し磨いてきたつもりです。観客の前でベストの状況で舞台に立つのは当たり前。日々の訓練を怠らないのも当たり前。当たり前のことを日々積み重ねてやっていくことがプロフェッショナルではないかと。そういった考えを共有し教育していくことは大変難しいことです。でも、やればやるだけ身につく、やっただけのクオリティは観客に伝わる、その答えが出るのが舞台です。

――昨シーズンの開幕作品は『DON QUIJOTE(ドン・キホーテ)』でした。

 初めてのコメディタッチの作品でした。1960年代のアメリカに舞台を移し自分の地位と独身であることへの自由を最優先にしてきた一会社の社長ドン・キホーテが、新人秘書ドルシネアに心を奪われ、彼自身が少しずつ崩壊していく――。新メンバーを迎えての新作だったのでフレッシュでしたしコメディ要素もたっぷり。物凄い人気作品となり毎回ほぼ完売でした。春に上演をする話もできましたが、スケジュール的に難しくなり残念でした。

――2015年冬に幕を開けたオーケストラ生演奏によるダブル・ビルでは師であるシュテファン・トスが新作『Gefangen im tRaum』を提供しました。

 シュテファンが2か月弱レーゲンスブルグに滞在し、僕のダンサーと制作をしたことは、芸術監督である自分にとって凄く意味のあることでした、僕が誰の下で訓練しダンサーとして振付家として育ってきたのかを経験させることができたからです。彼の作品の音楽性、世界観はダンサーにも素晴らしい経験になったと思います。そして、僕とシュテファンは師弟の関係じゃないんだな、同志というか同僚というか対等な立場になれたんだなと感慨深くなりました。彼自身も僕を誇りに思ってくれたと思います。

「Bernarda Alba」 photo:Bettina Stoess

――森さんは『Bernarda Alba(ベルナルダ・アルバ)』を発表しました。

 スペインの作家ロルカの『ベルナルダ・アルバの家』を題材にフィリップ・グラスの曲を使いました。欲望、タブー、忍耐、団結、夢、自由、犠牲と勝利をテーマにし、力強く感情的に創りあげました。舞台美術、回転舞台、照明などすべてにおいてコーディネートを緻密にできた作品。オーケストラとの音楽とも一体した強さが出ていたと思います。

――今シーズンの目標についてお聞かせください。

 カンパニーの基盤を作る3年は終わりです。僕自身の考えや方向性を突き通します。一度提示したものは何があっても突き通し、結果に変える。何年も先を見て仕事をしています。あと2年の契約が残っていますが、その先どうしていきたいのかを近々はっきりさせなければいけません。ただ思うのは、この仕事は健康に良くないということですね(笑)。

――開幕を飾る『The House』について教えてください。

 以前からやってみたかったダンスサスペンス、ダンスクライムで2幕物です。ちょうど初日(10月31日)がハロウィン。19世紀を時代背景に一つの屋敷内で起こる事件を描きます。今回も脚本、構成、演出全てオリジナルの新作です。伯爵とメイド、伯爵夫人と執事の秘密な関係、使用人たち、そして正体不明の子供。誰が殺され、誰が犯人?誰が黒幕?色々な疑惑にあふれ、フィルムノワールにある緊張感、推理小説を読む感覚を味わっていただきたい。今回は芝居に型をつけるように、映画撮影する様に、自分の目がカメラとなりクローズアップさせたり引いてみたり、色んな角度から目線一つ、指の動き一つにまで細かく演出しました。ダンサーが、舞台上で起こる事件を演じるので無く、実際に事件を起こし現実として舞台上で生きることを目標に創りました。舞台美術的にはティム・バートンの映画を見る様な感覚。緊張感にあふれ、ダークでシュール、そして詩情的でもある。今回は数多くのクラシック音楽、映画音楽を使います。ラフマニノフ、モーツァルト、ショパン、サティ、映画音楽からはニーノ・ロータなどです。

「Bernarda Alba」 photo:Bettina Stoess

――年が明けて2月12日初日を迎えるプロダクションにはオーケストラも入ります。

 ゲストに世界各地で期待され注目を浴びているイギリス人振付家Ihsan Rustemを迎えてのダブル・ビルになります。ラヴェル作曲の『ボレロ』を新作として発表します。僕の願いが通り生演奏になりました。ただ『ボレロ』自体曲としては短いので、ジョン・アダムスの曲でスタートし、そこから『ボレロ』につなげていきます。舞台美術デザイナー、衣装デザイナー、そしてIhsan Rustemと僕、4人でコンセプトを打ち合わせ中ですが今から凄く楽しみにしています。『La Sacre du Printemps』もそうでしたが『ボレロ』でも音楽をそのまま身体で表現できるので、やりたいことをやりたい様に集中してできると思います。

――今後の展望をお話しください。

 ヨーロッパ各地からゲスト・コレオグラファーとして新作を発表してもらいたいという話が多々来ています。なかなか劇場から離れられないのと、新作は創れても1年に4~5作品なので、バランスを考えて外部からの招待をお引き受けできるか考えなければなりませんが、これからはやっていきたいですね。もちろん日本での活動も並行して広げていきたい。ドイツ国内のツアーもシュテファン・トス作品と『Bernarda Alba』で予定されています。昨シーズンよりもスケジュールが詰まっているので正直不安もありますが、とにかく自分を削りすぎない、消耗しすぎない、つぶれない、燃え尽きない。どうにかしていくしかないから、どうにかする。そんな気持ちでいます。


竹内春美 インタビュー

 竹内春美さんは東京を拠点とするダンスカンパニー、ラ ダンス コントラステのメンバーとして活動。その後、平成22年度文化庁新進芸術家海外研修制度を利用しドイツのヴィースバーデン州立歌劇場バレエにて1年間研修されました。シアターレーゲンスブルクタンツには2012年のカンパニー立ち上げから参加されています。

竹内春美 Harumi Takeuchi photo:Jochen Quast

――3年目のシーズンを終えての感想をお聞かせください。

 1、2シーズンを含め3シーズンを終えて「やっと、ちょっとわかってきたかもしれない」「やっと、ここから」「やっと、先が楽しみ」というのが感想です。

――森さんとのクリエーションを重ねてこられ感じていることは?

 思い返してわかることですが、今までのクリエーション全てが違ったアプローチだったり狙いを持って向き合っていただいていたりだったと感じます。ディレクター自身が毎度新しい大きな試みを作品自体に含んでいます。それに加えてダンサー個々のその先の成長につながるように、それぞれ違ったアプローチまで考えられているのが凄い。
 個人的には、3年目になったら、慣れて余裕が出てくるかなぁと思いきや、そういうことはなかったです。常に新しい壁や挑戦があるような作品が続いています。でもダンサーが熱く向き合えば向き合っただけ、一緒に熱く戦ってくださる。3年を経て、そこは確信になってきました。

――新シーズンの抱負をお願いします。

 ハングリー精神を持ち続けて自分の引き出しを増やし、自分でも知らない自分の新しい面を掘り出して見せて行くぞ、くらいの気持ちを目標に持ちたいです。そして技術的にも精神的にもまだまだだと思うので、それらの向上も合わせて、甘えることなく新シーズンに挑みたいです。

――日本の仲間等に伝えたいことがございましたらお願いします。

 インターナショナルなダンサーたちと日々ディレクターの作品に関わっていますが、時々ふと特別な熱さをもった日本のダンサー仲間のことを思い出すことがあります。熱い日本人ダンサーさんたちとディレクターの作品で一緒に踊ってみたい。いつかそんなことが実現したらいいなと。1つの夢です。


草野洋介 インタビュー

 草野洋介さんはハンブルク・バレエ学校を経てジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエに入団し日本公演でも踊られました。その後、ノルウェー国立バレエ、スカピノ・バレエで活動され昨シーズンからカンパニーに加わりました。

草野洋介 Yosuke Kusano photo:Bryndis Brynjolfsdottir

――シアターレーゲンスブルクタンツに入ろうと思われた経緯をお知らせください。

 同じ日本人としてドイツの劇場で監督されている優貴さんのもとで働くことで、ダンサーとして学べること以外にも、学べることが多くあるのではないかと思ったからです。

――カンパニーの様子や芸術監督・森さんとのクリエーションで感じたことを教えていただけますか?

 時間をしっかり活用して働くカンパニーだなと感じています。優貴さんとの仕事で感じることとして自分のなかで興味深いことなのですが、日本人ってどうしても、あえて言わないでおくことがあると思うんです。けれど、西洋人と仕事をする上で相手にもしくは皆に自分の思っていることを伝えるということはとても大切なのかなと感じています。日々学ばせてもらっています。

――昨シーズンを終えての感想と今季の抱負をお聞かせください。

 シーズンが終わり振り返ってみると、僕らの仕事は日々身体も言葉も触れあって、ときにはぶつかりあって仕事をしているんだなと。人とふれあって、自分と向き合って仕事ができるんだなという喜びが実感として見つかりはじめたのかと感じています。今季も含めて、これから仕事をしていくうえで、仕事という責任を持ちながら、人と時間と空間を共有して、そこでなにができるのか見つめ、見つけられるのか感じて学んで実践していきたいと思っています。

――日本の仲間等に伝えたいことがございましたらお願いします。

 踊りましょう。