今村博明・川口ゆり子(バレエシャンブルウエスト)インタビュー ~心で踊り、情熱で魅せるバレエを続けたい

 バレエシャンブルウエストは1989年、日本バレエ界のトップスターである今村博明&川口ゆり子夫妻によって設立されました。古典バレエの継承と独自の創作バレエの創造に力を入れ、同時に多くの優秀な踊り手を世に送り出しています。拠点とする東京・八王子や都内の劇場で公演を行い、山梨県の清里の夏の風物詩「清里フィールドバレエ」は今年(2016年)で27回目を迎えました。本年度の公演活動を中心に近況を伺いました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

今村博明・川口ゆり子

創作レパートリー、新作、古典名作による「トリプルビル」

 2014年からオリンパスホール八王子で行う「トリプルビル」は古典から創作まで豊富なレパートリーを披露し注目されている。「お客様にいろいろなジャンルの踊りを見ていただきたい」と今村は公演の趣旨を話す。
 今年は創作バレエ『時雨西行』を久々に再演する。若くして出家し諸国を行脚する西行法師と一夜の宿の主である江口の君の交流を描く一幕物で宗次郎のオカリナ曲が神秘的な趣を高める。歌舞伎俳優の中村梅玉の演出・出演(邦舞振付:藤間蘭黄)により98年の「清里フィールドバレエ」で初演されボリショイ劇場ほか海外でも上演され好評を博した。
 バレエと日本舞踊のコラボレーションだが「踊る心、踊りという表現であるのは同じです」と今村。川口は初演以来の持ち役である江口の君を踊り西行役の梅玉と共演する。「最初は間(ま)がバレエと日本舞踊では違うので呼吸をあわせるのはきつかった。お辞儀するだけでも違う。ある種日本舞踊とバレエの戦いです」。

『時雨西行』川口ゆり子&中村梅玉

 新作『あやとり』の振付は牧阿佐美バレヱ団で主役を踊ってきた田中祐子。これまでにいくつかの小品を発表しておりジュニア時代にローザンヌ国際バレエコンクールで振付奨励賞を受けている。牧バレヱ団時代の後輩にあたる田中を今村&川口は温かく見守ってきた。「小さなときから感性豊か」(今村)「自分の感性を出して踊っていた」(川口)と才能を認める。「祐子さんの良さを私たちは理解していました。彼女にとって振付家としての本格デビューですが全てを任せ賭けました」と今村は信頼を寄せる。

「トリプルビル」2015年『Tale』振付:舩木城

 『あやとり』は「認知症になった母親の面倒をみる娘たちの話で人間の綾取りのイメージを表現したいようです」(今村)「親と娘の葛藤。姉はお母さんの介護のため好きな人がいるのだけれど一緒になれない。でも妹は好きな人と結婚してしまう…」(川口)といったように現代社会の問題を扱いドラマ性の高い作品になりそうだ。「舞台というものは何かしらメッセージを伝えることが大事。『何かを伝えたい』という気持ちがいつもあります。何もないところから生み出すには情熱が必要だと思います」と今村は熱をこめて話す。踊る心と情熱を大切にする今村・川口イズムを昨年と一昨年に「トリプルビル」で作品発表した愛弟子の舩木城からも感じたが、それは田中にも流れているに違いない。

「トリプルビル」2015年『海賊』より花園

 最後を締める『ライモンダ』第3幕はマリウス・プティパ最後の傑作といわれる大作のハイライトで古典バレエの様式美の極み。ライモンダ役を松村里沙、婚約者ジャン・ド・ブリエンヌ役を橋本直樹が踊る。今村によると重要なのは「動きの格調」だという。「たとえば手を出すだけでも『白鳥の湖』とかとは違うんですよ」。今村&川口は79年の全幕日本初演(テリー・ウエストモーランド版)の初演者であり思い入れは深い。「教わったことは私たちの中に入っている。それを伝えることができるし自分たちにとってもいい機会」(今村)「自信をもって教えられる」(川口)と自負するだけに伝承の成果が楽しみだ。


ニーナ・アナニアシヴィリも出演する「清里フィールドバレエ」

 今年で27回目を迎える「清里フィールドバレエ」は山梨県清里の「萌木の村」の野外ステージを舞台に繰り広げられる。今年は3つのプログラムを披露。当初『シンデレラ』一本の予定だったが『白鳥の湖』の評判が良く今年も上演が決まった。それに加え大スター、ニーナ・アナニアシヴィリを招く「スペシャルガラ」を2日間開催する。「ニーナさんとは第1回ロシア公演(00年)のときにボリショイ劇場でお会いして交流が始まりました。『タチヤーナ』を上演する時にロシアが舞台の作品なのでアドバイスをもらったり、ローザンヌ国際バレエコンクールに行ったときに彼女も見に来ていてお話したりといった長いお付き合いがあり今回ジョイントが実現しました」と今村は実現への軌跡を語った。

清里フィールドバレエ『白鳥の湖』

 「スペシャルガラ」は2部構成。第1部では『シンデレラ』の「四季の精の踊り」や『ジゼル』のパ・ド・ドゥ、『白鳥の湖』の抜粋などを上演し最後にアナニアシヴィリの『瀕死の白鳥』。第2部は『ディヴェルティメント』や『天上の詩』より、舩木の創作『TOBILA』を披露しアナニアシヴィリは民族舞踊的な創作『レクリ』を踊る。「古典バレエと近代・現代に生まれた作品を集めたい。フィナーレも豪華にできれば」と今村。

清里フィールドバレエ『白鳥の湖』佐々木万璃子

 今村・川口の下から巣立ち英国ロイヤル・バレエ団で活躍する佐々木万璃子が帰国し『白鳥の湖』全幕を踊る(共演:菅野英男)のも話題だ。さらに新国立劇場バレエ団のプリンシパル小野絢子&福岡雄大も2日間『白鳥の湖』に出演する。
 なお初の試みとして一部日程で新宿発・八王子発の日帰りバスも運行される。


 輝いているカンパニーでありたい

 近年経験豊富なベテランに加えて傘下の川口ゆり子バレエスクール出身者を中心に若いダンサーが育ってきた。「バレエ団のために若手の育成は当然必要ですが日本のバレエのため、世界のバレエ界のためダンサーを輩出するのが私たちの役目。いろいろな機会を作ってあげたい。シャンブルウエストが輝いていればいいのかなと。『そこで私も踊りたい』と思ってくれるような団体になりたい」と今村。むろん「海外に行きたかったり、新しいことに挑戦したかったりする子は止めません」と川口が語るようにダンサーの意志が尊重される。

『タチヤーナ』川口ゆり子&逸見智彦

 今年は秋以降も活動が活発だ。10月上旬、岩手県の宮古市と久慈市で『白鳥の湖』を上演。11年の東日本大震災発生以後、被災地で慰問公演を行った地へと再び戻る。直後に地元・八王子で『コッペリア』を上演し12月は恒例の『くるみ割り人形』。今後の活動について今村は「春夏秋冬の定期的な公演を継続したい。『ブランカ』『天上の詩』『LUNA』といった創作のレパートリーを見直して上演したいし日本のレパートリーを持つということを誇りにしたい。当然古典も上演し新しい作家との出会いも大切にしたい。欲はたくさんあります」と意欲を述べた。

清里フィールドバレエ『白鳥の湖』松村里沙&江本拓

 今村&川口を団員とスタッフがしっかりと支える。「私たちのやりたい心は通じているはず。皆で盛り上げてくれている」と今村が語れば「今年は今村が「清里フィールドバレエ」の少し前から審査員としてヴァルナ国際バレエコンクールに行きますが皆が代わりにフォローしてくれたりする」と川口も頼もしそうに話す。今村&川口を中心に一丸となって心で踊り、情熱で魅せるバレエを披露するバレエシャンブルウエストから目が離せない。


【2016年度バレエシャンブルウエスト公演予定】


第75回定期公演「トリプルビル」
日時:6月19日(日)17:00
会場:オリンパスホール八王子

第27回清里フィールドバレエ『シンデレラ』『白鳥の湖』『ニーナ・アナニアシヴィリ スペシャルガラ』
日時:7月28日(木)~8月10日(日)19:00 (8月1日、8日休演)
会場:清里高原 萌木の村 特設野外劇場
清里フィールドバレエ公式Webサイトhttp://www.moeginomura.co.jp/FB/

地方公演『白鳥の湖』
日時:9月30日(金)18:30
会場:久慈市文化会館アンバーホール
日時:10月2日(日)13:00
会場:宮古市民文化会館大ホール

第76回定期公演『コッペリア』
日時:10月8日(土)17:00
会場:オリンパスホール八王子

第77回定期公演『くるみ割り人形』
日時:12月16日(土)~17日(日)
会場:オリンパスホール八王子

お問合せ:バレエシャンブルウエスト事務局 042(624)4037

バレエシャンブルウエスト公式Webサイトhttp://www.chambreouest.com/