八幡顕光(新国立劇場バレエ団プリンシパル)インタビュー ~ジャンルを問わず色々な自分を発揮できるダンサーでありたい

 新国立劇場バレエ団プリンシパルとして『アラジン』、ローラン・プティの『コッペリア』の主演をはじめとして古典から現代作品まで多彩な作品/役柄を踊り活躍する八幡顕光さん。近況やバレエ団の現在、これまでに仕事した振付家とのクリエイション、2016年夏~秋に出演する注目のダンス公演であるJAPON dance project 2016『Move/Still』と「DANCE to the Future 2016 Autumn」に向けての抱負を伺いました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

八幡顕光 Yahata Akimitsu

――2016年6月、デヴィッド・ビントレー振付『アラジン』全3幕のタイトル・ロールを2008年の世界初演、2011年の再演に続いて踊られた感想をお話しください。

 主役デビューとなった大事な作品です。1幕は出だしですし舞台上にずっといるので緊張するのですが、2幕、3幕と進むにつれてプリンセスの(奥田)花純ちゃんも力が抜けてきて、尻上がりに盛りあげることができました。今回は今までなんとなくやっていた部分にこだわりました。たとえば芝居のニュアンス。お客様にどう伝わるか、どう見えるかを掘り下げました。プリンセスに対する気持ちが自然だけれど浮き出て見えるようなればいいなと。

『アラジン』アラジン(撮影:鹿摩隆司)

――アラジン役を同世代の福岡雄大さん、奥村康祐さんと競演されましたね。

 普段の朝のクラスの時から「あいつが2回やったら自分は3回やる!」みたいなスタイルがバレエ団に自然と確立されています。リハーサルでもお互いが向上心を持っているから「ここはこうだよね」と自然に言いあったりします。仲はいいですが仕事ですしライバルというか、いい意味での緊張感があって皆に助けられています。

『アラジン』アラジン(撮影:鹿摩隆司)

――新国立劇場バレエ研修所を2期生として修了後、2005年に新国立劇場バレエ団に入団されました。直後にビントレー前舞踊芸術監督に見出され『カルミナ・ブラーナ』の神学生2を踊る大抜擢を受けました。ビントレーさんとの思い出をお聞かせください。

 カンパニーで仕事するのは初めてだったので、とにかく必死でした。全部のパートを覚えて空きが出たらどこにでも入れるようにしていました。それをデヴィッドは見ていて抜擢してくれた。デヴィッドのためにも自分のプライドのためにもチャンスをものにしてステップアップしたいと思いました。僕が今あるのはデヴィッドのおかげといって過言ではありません。作品も、求められることも難しかったですが精神的に強くなれたと思います。

『カルミナ・ブラーナ』神学生2(撮影:瀬戸秀美)

――2015/2016シーズンから大原永子先生が舞踊芸術監督に就かれました。大原体制は2シーズンを終えましたがバレエ団の雰囲気はいかがですか?

 ダンサー個々のクオリティはかなり上がっていると思います。「作品をよくしたい」という意識を一人ひとりが強く持っている。気になることがあったら「こうじゃないかな」とアドヴァイスしあえる環境にあります。モチベーションは以前よりも上がったと感じます。

『白鳥の湖』道化(撮影:瀬戸秀美)

――入団から10年以上経ちました。後輩たちに接して感じることは?

 「知らない」ということが一番かわいそうです。キャラクター役のちょっとした手の使い方とかを知っていてやらないのと、知らなくてできないのとでは違います。バレエマスター、バレエミストレスの手の届かない部分を僕がフォローすることもありますが皆聞いてくれるし、逆に「もっと何かありませんか?」と言ってくる子もいる。そういったところでコミュニケーションはとれているし、作品を創る一丸となった姿勢はよいと思います。

『兵士の物語』(撮影:鹿摩隆司)

――古典やビントレー作品だけでなく幅広い作品で活躍されています。特に2013年のニムラ舞踊賞受賞時に授賞理由の第一に挙げられた平山素子振付『兵士の物語』のタイトル・ロール(「DANCE to the Future 2012」で上演)は評判になりました。

 平山さんの作品を踊るのは物凄く難しく、踊りきれるかどうか不安でしたが、ひたすら練習して体に入れこんでいきました。兵士の心情まではなかなか追いつかなかったのですが、舞台に上がる直前くらいから役柄に入ることができ、振りもクリアになりました。がむしゃら、必死でしたね。同じ時に踊った平山作品『Ag+G』は、平山さんの考えるテーマとイメージはあるものの抽象的で動きで見せる感じです。その点、『兵士の物語』はストーリーもあるので大変でした。でも、もう一度やりたい。今やると解釈も違うと思います。

『solo for 2』(撮影:鹿摩隆司)

――「DANCE to the Future 2013」では金森穣振付『solo for 2』、中村恩恵(めぐみ)振付『Who is “Us” ?』(新作)を踊られました。平山さんに続いて現代日本を代表する振付家とのお仕事でした。金森さん、中村さんの作品を踊られた印象は?

 穣さんに憧れていたので『solo for 2』を凄く踊りたかった。かなり踊るパートでしたがバレエ的要素が強かったです。穣さんのニュアンスがあるのとパートナーリングに「ひねり」がありました。普段使わないところまで体を使うので、バレエをやると調子が良くなったりする(笑)。今まで使っていなかった細い筋肉が目覚めて刺激的でした。
 恩恵さんは独特なイメージでお話しになるので、それをキャッチするまでに時間がかかりましたが面白い方です。「海水の上にぽんと、波もない湖の上に足をそっとのせて、それがじわじわと広がった感じ」みたいにおっしゃられ、それをイメージしてやってみると「ちょっと違う…」(笑)。恩恵さんのニュアンスをつかみ最終的なこだわりに近づけるかどうかです。

『Who is“ Us”?』(撮影:鹿摩隆司)

――2014年8月、JAPON dance project 2014『CLOUD/CROWD』に出演されました。JAPON dance projectは国内外で活躍するダンサー/振付家の遠藤康行さん、小池ミモザさん、柳本雅寛さん、青木尚哉さん、児玉北斗さんがスタートさせたプロジェクトです。小野絢子さん、米沢唯さんとともにゲスト参加されましたがいかがでしたか?

 ジャンルもスタイルも違うダンサーが集まるのですが5人のメンバーが1つのコンセプトに対する思いを基に創るので一体感がある。クリエイションの時に「顕光くん、どうする?」と聞かれるので引出しが求められる。柔軟性とかイマジネーションがどれだけ膨らむかなどが人として試される。ムーブメントで足りないところがあったりすると悔しいので、その時は「教えてください」と食らいつきます。刺激になりますね。

『CLOUD/CROWD』(撮影:鹿摩隆司)

――2016年8月、JAPON dance project 2016『Move/Still』に前回に続いて小野さん、米沢さんとともに出られます。リハーサルに入っての様子を教えてください。

 僕たちに対して前回よりも過保護じゃないと思います。「自分の居場所は自分で見つけてね」と最初に言われました。信頼してくれているんだなと。もしかしたら前よりも自分のアイディアが反映されるかもしれません。同じくゲストとして島地保武さんと大宮大奨さんが入ります。元フォーサイス・カンパニーの島地さんは凄いダンサーです。体は大きいけれどしなやか。「体が利く」というのはこういうことなんだなと。島地さんから必死で盗んでいます。クリエイションに関して現時点では未知数ですがベースとなるイメージがあって、それに連なっていく。色々な人が動いているけれど、こっちでは止まってなにかをやっている。それが歩いている人とリンクしていって、また別れて…といったようなイメージです。

『Side Effect』(撮影:鹿摩隆司)

――2016年11月に団員による振付作品を発表する「DANCE to the Future 2016 Autumn」(アドヴァイザー:中村恩恵)が行われ、宝満直也さんの作品『3匹の子ぶた』に出演されます。ビントレー監督時代に始まった人気企画ですね。

 振付をしたい人が創りたいイメージに合ったダンサーに声をかけています。以前、福田圭吾の作品(『Side Effect』2013年)に出たのは(福田の師である)矢上恵子先生のような作風だったら好きだし踊ってみたいと思ったのと、圭吾が創るということに興味があったからです。圭吾のなかで「動きの質としてはこうあるべき」とはっきりとしていたので、彼のイメージに合うようについていきました。現場の雰囲気も作品も良かったと思います。
 宝満のことをある意味天才だと思っています。いつか作品に出たいと彼に伝えていたら今回声を掛けてくれました。アイディア、目のつけどころが鋭い。たとえば「子豚が走っているイメージ」というところから考えてもみないような振りを思いつく。真面目な作品ですが、コミカルな部分もあり、ダンサーの質をみせるところもあります。

――ご自身の振付作品を世に出してみようと思われないのですか?

 外のお仕事で作品を発表する機会はありますが、もう少しひらめきがないと…。将来的にはやってみたい。「これを伝えたい!」という強い思いが目覚めるのを待っています。せっかくデヴィッドとの創作の場にも立ち会えたし、さまざまな振付家の作品にも出していただいたので、それが整理できて純化されればと思います。

『コッペリア』フランツ(撮影:瀬戸秀美)

――今後の目標や展望についてお話しください。

 僕は毎回主役を踊れるキャラクターではないのにプリンシパルにしていただいたからにはリハーサルの時などに今までの経験を伝えていくことが必要とされていると思います。バレエマスターなどではないのですが、アドヴァイスは普通にしていきたいし、自分のこともバレエ団のことも客観的にみられる冷静な部分が必要だと考えています。
 ダンサーとしては今後もジャンルを問わず色々な自分を発揮できるダンサーでありたい。たとえば酒井はなさんはクラシックも丁寧に踊られるけれどコンテンポラリーダンスもできる。そういうふうになりたい。
 指導者の勉強もしていきたいです。メソッドを知らないよりは知っていたほうがいい。そういうことを活かせる職に就くかどうかは分からないですが、新国立劇場バレエ団のプリンシパルという立場で踊らせていただいている以上そういうことを知っておく義務といいますか、必要性が見えてきた気もしています。


【公演情報】

ジャポン・ダンス・プロジェクト 2016 ムーヴ/スティル
【振付・出演】   遠藤康行、小池ミモザ、柳本雅寛、青木尚哉、児玉北斗
【特別出演】    小野絢子、八幡顕光、米沢唯(以上、新国立劇場バレエ団)、
          島地保武、大宮大奨
【照明】      櫛田晃代
【音響】      上田好生
【美術・衣裳】   針生 康
【会場】      新国立劇場 中劇場 
【公演日程】    2016年  8月27日(土) 14:00
                28日(日) 14:00
【料金】      S席:6,480円 A席:4,320円 B席:3,240円
【チケットのお求め・お問い合わせ】
          新国立劇場ボックスオフィス TEL:03-5352-9999
          新国立劇場Webボックスオフィス http://pia.jp/nntt

DANCE to the Future 2016 Autumn
【振付・出演】   新国立劇場バレエ団 
【アドヴァイザー】 中村恩恵
【照明】      鈴木武人
【音響】      福澤裕之
【会場】      新国立劇場 小劇場
【公演日程】    2016年 11月18日(金) 19:00
                 19日(土) 14:00
                 20日(日) 14:00
【料金】      A席:5,400円 B席:3,240円
【チケットのお求め・お問い合わせ】
          新国立劇場ボックスオフィス TEL:03-5352-9999
          新国立劇場Webボックスオフィス http://pia.jp/nntt

第一部
「ロマンス」
振付:貝川鐵夫
音楽:F.ショパン
出演:小野絢子 玉井るい 益田裕子 木村優子 中沢 恵理子

「angel passes」
振付:貝川鐵夫
音楽:G.F.ヘンデル
出演:井澤 駿(18・20日)/ 小野寺 雄(19日)

「ブリッツェン」
振付:木下嘉人
音楽:M.リヒター
出演:米沢 唯 池田武志 宇賀大将

第二部
「Disconnect」
振付:宝満直也(DANCE to the Future 2016 上演作品)
音楽:M.リヒター
出演:五月女 遥 宝満直也 

「福田紘也」
振付:福田紘也
音楽:Alva Notoほか
出演:福田紘也

「3匹の子ぶた」
振付:宝満直也
音楽:D.ショスタコーヴィチ
出演:小野絢子 八幡顕光 福田圭吾 池田武志

第三部
生演奏によるImprovisation即興
音楽監修:笠松泰洋
出演予定(全日):米沢 唯 貝川鐵夫 福田圭吾 木下嘉人 福田紘也 宝満直也