Ballet Factory

高橋森彦 バレエ&ダンス逍遥

池田扶美代INTERVIEW ~初のソロ作品『in pieces』をめぐって 来日公演を前に

ベルギーを拠点に世界のダンスシーンをリードし続けるカンパニー、ローザス。 その代表的ダンサー/振付家の池田扶美代がイギリスのパフォーマンスカンパニー「フォースド・エンターテインメント」の アーティストディレクター、ティム・エッチェルスとコラボレーションしたソロ作品が『in pieces』だ。欧州各地で上演された話題作が、きたる9月、日本に上陸する。 『in pieces』について、そして、これまでの軌跡や今考えること、今後の予定について池田さんに話をうかがった(メールインタビュー)。

10歳でダンスを始められ、16歳でムードラに入学されます。ダンスをはじめたきっかけは?また、どうしてムードラに進まれたのでしょう?

きっかけは母です。残念ながらバレリーナやダンスに憧れたとかではなく、母に「ダンスでも習う?」と聞かれ「ダンス、良いよ」くらいの軽い感じでした。 その後は、すべてを犠牲にするくらい熱中し過ぎてしまい、実家のある福井市を飛び出し東京に転校してダンスをやろうかどうか、 そして、それが最良の選択なのかどうか迷っていた時にムードラのオーディションを知って飛びつきました。すでにどこかで日本にいても先がない事を薄々感じていたのかもしれません。

20歳のときアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルさんらとともにローザスを創設されました。カンパニー誕生の経緯を教えてください。

アンヌ・テレサはムードラの1年先輩でした。当時から一緒に作品を創ったりして、作品が反逆的なため校長先生に呼び出しを食らったりしていました。 彼女は3年生には進まず、ニューヨークのTisch School of the Arts に留学しました。彼女が卒業した年と私がムードラを卒業した年が同じで、私の卒業公演を観に来てくれた後、私と新しい作品を創ろうと言ってくれました。 彼女がニューヨークで何を学んできたかとか全く確認なしでOKしてしまいました。やっぱり彼女の事が好きだったんだと思います。

初期の伝説的作品『Rosas danst Rosas』『Fase』に始まり近年までローザスのほとんどの作品に関わってこられました。池田さんにとって、ローザスとは、ケースマイケルさんとは、どのような存在でしょうか?

アンヌ・テレサは私の一部じゃないけどローザスは私の一部です。ローザスは私のすべてではないけど、これまでのベースを一緒に築き上げた誇りは持っています。 アンヌ・テレサとは33年間以上の付き合いなので、まぁ色々と簡単な関係ではないですよ。 怒られる時のターゲットになるし、鬱憤は容赦なくすべて私のところに来ますからね。 あと、いまだに良く分からない人だし、驚くようなアイデアを出してくるので毎回感心します。 だから彼女とまだ仕事が続けられるのかもしれません。でも、皆の前で私をいじめるのは止めてほしい(笑)。

先年、彩の国さいたま芸術劇場で来日公演が行われた『Nine Finger』が池田さんにとって初めての本格的な創作とのことでした。 アフリカの少年兵の視点から戦争を見つめた小説を題材にしたものでしたが、振付家アラン・プラテルさん、 俳優ベンヤミン・ヴォルドングさんとの共作は、どのように始まったのでしょうか?そして、手応えはいかがでしたか?

7年くらい前からアンヌ・テレサに自分で何か創ってみたらとオファーを貰って、まず何を創りたいかというより、誰と創りたいかと考えた時、ベンヤミンの事を思いました。 でも彼はアイデアも演技方も普通の役者さんとは大変異なり、役者と言うよりアーティスト。 絵も描けば文章も書き、インスタレーションもやればバンドでも歌う等、アイデアや考え方が豊富過ぎるし、とにかくワイルド。 私としてはもう一人、誰かが必要と思い、見守ってくれる人、コーチしてくれる人として、アランにお願いしました。 題材は残酷なものでしたが、クリエーションはもの凄くスムーズに進みました。真っ直ぐなクリエーションでした。

池田さんにとって2番目の創作となるのが、今回横浜・神戸で上演される『in pieces』(2009年)です。生まれた経緯について教えてください。

これは元ローザスのアーティスティックディレクター、今のカイシアターのディレクターのギイ・ゲイプンス氏のアイデアです。 彼が(演出を担当した)ティム・エッチェルスと私に何か一緒に創らないかと言いました。 そこで、今回はソロにしたいとお願いしました。ローザスの作品の中で踊ったり演じたりした小さなソロはありましたが、それ以外は何も経験がありませんでした。 一つの作品を自分だけでやり抜く一人芝居、ソロ作品に挑戦してみたかったからです。

『in pieces』を映像で拝見しました。ダンスだけでなく言葉や音楽、唄などを通して断片的な記憶が示されていきます。「記憶」が大きなモチーフだと思いますが、どのように作品化していったのでしょうか?

どういう「記憶」かというより、「記憶」という様々な視点からのアプローチです。意識的、無意識的に記憶される事、忘れる事、失われる事、覚えている事、思い出したくない事。 匂い、音、味、感触…どんなに大きい歴史的な記憶でも時間が立つと記録になり、もっと時間が立つと記号になり、それも最終的には塵になってしまう事。 あと本番中わざと演出的に覚えにくい文章を加えたり番号を加えたり障害物的なタスクを入れて私自身の記憶力を邪魔する演出にもなっています。

ティム・エッチェルスさんとの協同作業はどのように行われましたか?

ティムとの共同作業も『Nine Finger』に負けないくらいスムーズでしたね。 始めの頃は週に3日くらい一緒に仕事して、残りはお互いの宿題をやって、次の週に会った時に覚えたもの創ったもの書いたものを見せ合うと言った作業です。 時間の使い方、独りでスタジオに籠る事を学びました。宿題とは、とても短いダンスのセンテンスを見つけたり、手直ししたり、音楽を分析したり、分析した小節に動きを付けたりといった事。 ティムの方は私が書いたり見つけて来た単語やテキストを彼風に直しアレンジして書いてくれました。そして、お互いそれを次の週に見せ合い、作品の題名の様にピースバイピースに継ぎ足していきました。 彼はじっと見ていてくれて感想を言い、その反応を聞いて私がまた試してみる…そんな作業です。確定しない、断言しない、何でもありの融通のきく作業が行われ、その方法が演じ方にも影響しました。

『in pieces』は2009年初演です。「3・11」後に再演されるにあたり進境の変化等変わったところは、おありですか?

私の生涯の関心事は「失う」なので、根本的には影響されません。「3.11」 で想像されるであろう言葉やテーマや思想は「3.11」の前から関心があった事なので特別に変わりません。

「失う」ことについて詳しく語っていただけますか?

「失う」とは、今こうしている瞬間にも時は去り、同じ時は戻って来ず、再生されても同じものではない。 人生のただ一つの真実は「生きているものはいつか必ず死ぬ」という事。失わないものなどあるのだろうか。失うと忘れるはどう違うのだろうか。 「失う」という身近なエピソードから宇宙規模の「失う」まで興味は尽きません。 そういう事を思うと「万物はいつか死す」と言いたかったのに、原発問題等でそのいつかが余りにも遠い遠い「いつか」になってしまいました。それでも、いつかは必ず来て滅びます。失います。

『in piece』のなかにもエピソードが出てきますが、ご主人と娘さんという、ご家族との生活が創作やダンスに影響あたえていますか?

創作活動の内容に直接的な影響はないですが、私が家族にたくさん迷惑をかけている事はありえます。 子供が病気でも怪我で病院に連れ込まれても舞台に立っているし、家族が亡くなった時も舞台に立ちました。 それにツアーのため年間ほとんど家にいません。今は娘も大きくなりましたが、彼女は私に言ってこなかっただけで、かなり寂しい思いをしたと思います。 娘や家族に感謝です。でも一線でやっていくには、ある程度の犠牲は仕方がない事です。経済的に恵まれていたとしても犠牲を払うと思います。 お金では払い切れない犠牲の方がたくさんあると思います。あとはもう家族の理解しかないですね。

今回、横浜・神戸で公演するほか神戸・名古屋でWSを行い、大学でもWSをされるなど、日本の若いダンサーやダンサー志望者と交流を行われます。日本の後進に伝えていきたいことはありますか?

日本のダンサーの事を良く知りません。私が今、興味のある事を一緒にシェア出来たら良いと思っています。 私が興味を持っている事を押し付ける事は出来ません。ただ普段とは違う習慣から動く事、動き出す事を経験して貰えたら嬉しいです。

最後に今後の活動をお知らせください。

ローザスでは『Rosas danst Rosas』『Mikrokosmos/Bartók』のリハーサルディレクターを任されています。 ダンサーとしては『Elena's Aria』と『Drumming』を踊っています。ローザス以外では『Nine Finger』の再演が来年3月から始まります。そして来年の9月には山田うんさんと新作発表。 2014年には谷崎(潤一郎)の『鍵』を発表します。2015年には『カミーユ・クロデール』を発表の予定です。予定ばかりなので今後どうなるのか分かりませんが、どれも興味深いものばかりです。

写真:『in pieces』 (c) Herman Sorgeloos

池田扶美代×ティム・エッチェルス『in pieces』日本バージョン

  • 【横浜公演】

  • 2012.09.07 (FRI) -09 (SUN)@KAAT神奈川芸術劇場中スタジオ
  • 09.07 (FRI)19:30
    09.08 (SAT)15:00
    09.09 (SUN)15:00
  • ◆チケット料金(全席自由)
  • 前売: 一般 3,000円 学生 2,500円
  • 当日(一般のみ):3,500円
  • ★U24:1,500円 ★高校生以下:1,000円 ★シルバー:2,500円
  • ★KAFE9セット券:7,000円
  • 池田扶美代×ティム・エッチェルス+快快+contact Gonzo+悪魔のしるし(一般券)のセット券(30セット限定)
  • ◆チケット取扱い
  • プリコグ(★印以外)
    チケットかながわ(一般と★印のみ)
  • ■お問合せ 
  • プリコグ:  http://precog-jp.net/
  • Tel 03-3423-8669
  • E-mail info@precog-jp.net
  • KAFE9ホームページ http://www.kafe-kaat.jp
  • 【神戸公演】

  • 2012.09.15(SAT)-16(SUN)@ArtTheater dB神戸
  • 09.15(SAT)19:00
    09.16(SUN)15:00
  • ◆チケット料金(全席自由)
  • 前売3,000円 学生・障がい者・介助者・シルバー2,300円
  • 当日(一般のみ):3,300円
  • ■予約・お問合せ
  • NPO法人DANCE BOX
  • TEL 078-646-7044
  • E-mail info@db-dancebox.org
  • ホームページ http://www.db-dancebox.org/

池田扶美代×山田うん ショーイング

池田扶美代(Fumiyo Ikeda)

1962年大阪生まれ。1979年、モーリス・ベジャールのムードラに入学。 同校でアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルと出会い、1983年共にローザスを結成。以来、08年までほぼ全ての作品の創作に携わり出演する。 ローザスの多くの映画やビデオ作品にも参加し、ジャンルを超えて映画や演劇にも活動を広げる。

http://www.rosas.be/

高橋森彦

舞踊専門紙誌、日刊紙、美術誌、芸術批評誌、公演プログラム、公演チラシ、Web媒体等に公演評・解説・紹介記事・インタビュー記事を寄稿。 バレエ、コンテンポラリー・ダンスなどのほか演劇等も含めたパフォーミングアーツ全般に関心。
公式ブログ「ダンスの海へ」
http://d.hatena.ne.jp/dance300