Ballet Factory

高橋森彦 バレエ&ダンス逍遥

「ダンストリエンナーレトーキョー2012」
~東京・青山発「いま」という時代に息づくダンスの多様性を示した一大フェスティバル

コンテンポラリー・ダンスは1980年代前半にフランスで誕生したとされる。定義や受容はさまざまだが、自由な形式と発想による同時代の身体表現であり、国や地域、さまざまな文化や経済背景と無縁ではない、とはいえるだろう。その魅力を存分に味あわせてくれたのが東京・青山発の「ダンストリエンナーレトーキョー2012」である。同フェスティバルは9月27日から10月14日まで、こどもの城 青山劇場・青山円形劇場、スパイラルホールを中心に催された。ビエンナーレ時代から5回目を数え青山の風物詩として定着している。ベルギー、ブラジル、フランス、ドイツ、インドネシア、イスラエル、韓国、スイス、オランダ、日本の10か国21のカンパニー/アーティストが参加した。質量ともに日本ダンス史上最大のフェスティバルだ。18日間の熱い日々を振りかえりたい。

ナセラ・ベラザ『Le Temps scellé(刻印された時間)』撮影:塚田洋一 伊藤千枝/珍しいキノコ舞踊団『3mmくらいズレてる部屋』撮影:塚田洋一

初日から刺激的だった。ナセラ・ベラザ(フランス/アルジェリア)は『Le Trait(一筋の描線)‒ Solos』(2012)『Le Temps scellé(刻印された時間)』(2010)を上演。旋回運動などミニマルな動きと繊細な照明や音響が溶けあって秘儀めいた小宇宙へと誘われる。伊藤千枝/珍しいキノコ舞踊団(日本) 『3mmくらいズレてる部屋』(2006)はオーストラリアの美術家ジャスティン・カレオとのコラボレーション。一風変わった家具が並ぶ部屋で女の子たちが繰り広げる親密なダンス。終演後のレセプションでフェスティバルの名誉総裁を務める高円宮妃久子殿下が指摘なさったように、その夜上演された対照的な作品・アーティストを鑑みるだけでも、コンテンポラリー・ダンスの多様性を実感できた。

ヤスミン・ゴデール『LOVE FIRE』撮影:塚田洋一

パレスチナ問題を抱え政情が安定しないイスラエルには世界的に名を知られた振付家が少なくない。さまざまな葛藤を抱えつつも同地を拠点としながら創作を続ける彼らの動向は注目される。今回2組のアーティストが参加した。まずはこのフェスティバル3回目の登場となるヤスミン・ゴデール。『LOVE FIRE』(2009)はシュトラウスやショパン、チャイコフスキーらのワルツにのせて男女が激しくも奇態なダンスを続ける。奇態ではあるが、同時に優雅で感傷的でもある。そこへ美術家のヨハイ・マトスがハートの形をした発光するオブジェを手にあらわれる、という予想外の展開に…。愛の深遠を怜悧に見据える快作だった。アルカディ・ザイディス『Quiet』(2009)は男四人が様々な組み合わせで絡み、ぶつかる。モーションで観る側のエモーションに訴えかけるダンス。今日のイスラエル/パレスチナの状況を示唆するもの、と捉えてよいようだ。でも、言葉で具体的なメッセージは発せられていない。ダンスで、身体で、雄弁に「いま」を切り取った骨太な作品である。

アルカディ・ザイディス『Quiet』撮影:塚田洋一

事前から話題だったのがアラン・プラテル/les ballets C de la B(ベルギー)『OUT OF CONTEXT–FOR PINA』(2010)。多くのクリエイターが活躍するベルギー・ダンス界のなかでもプラテルは異能だ。治療教育の専門家であったプラテル作品には「痙攣する身体」が登場することが知られる。敬愛するピナ・バウシュへのオマージュだという本作では、赤い大きなタオルをかぶった男女9名の踊り手が登場した。彼らは、ひたすら踊り、叫び、唄う。それは、もう狂態といってもいいほどに。でも、そこからは人間の深部に潜む獣性とともに互いに肌を温めあうような「優しさ」が伝わってくる。舞台に上げられた少年が「怪獣のバラード」を透明感ある声で唄う姿からは「生きる希望」を感じずにはいられない。ピナへの哀悼の意をこめたオマージュは、限りなく愛おしい「生の賛歌」だった!

アラン・プラテル/les ballets C de la B『OUT OF CONTEXT–FOR PINA』撮影:塚田洋一

ブラジルのリア・ロドリゲス/Lia Rodrigues Companhia de Dan〓as『POROROCA』(2009)も眼目のひとつ。同作はアマゾン川の河口でみられる川の水と海水のぶつかる現象をモチーフにしているという。肌の色や体型さまざまの彼らは、互いに激しく交じりあったかと思うと、離れ、また再び交じりあっていく。連綿とした触れあいや激しい踊りが続き、やがておおきな「うねり」が生まれる。リオデジャネイロの貧民街を拠点に活動するこのカンパニーは、ブラジル社会の「いま」と向き合い創作を続ける。貧富の差や治安の悪さといった社会問題と抜き差しならない関係にあるのは間違いないだろう。

リア・ロドリゲス/Lia Rodrigues Companhia de Danças『POROROCA』撮影:塚田洋一

マルティン・ナッハバー(ドイツ)の『Urheben Aufheben』創造と再創造の試み─ドーレ・ホイヤーの作品を題材に(2008)も興味深い。ナッハバーがドイツ表現主義の代表的な振付家ドーレ・ホイヤーの振付けた『Affectos Humanos』の復元に取り組んだ経験を基にしており、レクチャーと実演から構成されている。舞踊とは一回性の芸術。それを本質的に再現することはできるのか?という命題の追求もさることながら、先人の仕事に向きあうことにより今を知り、自らの位置を知る。生きた舞踊史を立ち上げる構成が巧みだった。

韓国に生まれ、ロンドンでダンスを学び、スイスのローザンヌを拠点に活動しているヨンスン・チョ・ジャケ/Cie Nuna(スイス・韓国)の『CHAMPIGNONS』も忘れ難い印象を残した。舞台上方には蛍光灯を連ねた正方形の大きなオブジェが傾いた状態で吊り下げられている。フロアには冷蔵庫やラジカセ、扇風機などが置かれ三人の出演者は、それらを動かすことで秩序の構築と解体を続ける。やがて蛍光灯の明かりがじょじょに消え、暗闇に…。繊細に計算され尽くした照明の効果もあいまって超現実的な時空間を立ち上げた。

マルティン・ナッハバー『Urheben Aufheben』創造と再創造の試み─ドーレ・ホイヤーの作品を題材に 撮影:塚田洋一 ヨンスン・チョ・ジャケ/Cie Nuna『CHAMPIGNONS』撮影:塚田洋一

掉尾を飾ったのが世界初演となる向井山朋子 + ニコル・ボイトラー + ジャン・カルマン(オランダ・ドイツ・フランス・日本)『SHIROKURO』。オランダのアムステルダムを中心に活躍するピアニスト/ヴィジュアル・アーティスト向井山とミュンヘン生まれでオランダを拠点に活動する異色の振付家ボイトラー、フランス生まれで世界的な舞台照明家のカルマンが組んだコラボレーションである。客席から登場した向井山が舞台奥に置かれたピアノに向かいロシアの現代作曲家ガリーナ・ウストヴォーリスカヤのピアノ・ソナタを弾きはじめる。激しく力強い演奏ながら明晰な音が心地よい。ミッチェル=リーヴァン・ロイのダンスを挟んで後半は、向井山とロイが大きな白布でピアノも含めて舞台全体を覆う。それを何度か繰り返していく。ときに強烈で、ときに幻想的なカルマンの照明も効果的だ。
SHIROKURO=白と黒の世界で行われる、おごそかな儀式に立ち会うことができた。

向井山朋子 + ニコル・ボイトラー + ジャン・カルマン『SHIROKURO』撮影:塚田洋一

日本・アジアに焦点を当てたプログラムも企画された。「JAPAN FOCUS」「ASIA FOCUS」だ。「JAPAN FOCUS」で上演されたのは平敷秀人『KOKUU』(2010)、田畑真希/タバマ企画『メルヘン』(初演)、21世紀ゲバゲバ舞踊団『ワカクマズシクムメイナルモノノスベテ #02』(2011/2012 ver.)、川村美紀子『へびの心臓』(2012)。音楽家との協同作業により独特の「間」の感覚を強調した平敷、懐かしく切ない情景を描き出した田畑、若者たちの今を生きる切実さを訴えた21世紀ゲバゲバ舞踊団、奔放なパワーと個性で惹きつけた川村それぞれにアピールした。「ASIA FOCUS」では、ジェコ・シオンポ(インドネシア) 『Emmo』(2010)『Erectus City』(初演)、チェ・チンハン(韓国) 『I want you to be happy』(2011)、近藤良平(日本)『恋のバカンス』(初演)を上演。シオンポはヒップホップをベースに独特なひねりを聞かせた作風で、チンハンは客席とユーモラスに交流を行い自身の世界へと誘う。近藤は若手の気鋭・中村蓉と組んでの陽気で親密感のある演技をみせた。

田畑真希/タバマ企画『メルヘン』撮影:塚田洋一 21世紀ゲバゲバ舞踊団『ワカクマズシクムメイナルモノノスベテ #02』(20112012 ver.)撮影:塚田洋一

11プログラム26公演行われた劇場公演以外にも多彩なプログラムが組まれた。スパイラル1F、青山通り沿いのスペースで行われた「ダンスショウケース」、こどもの城のピロティ(広場)で展開された「屋外パフォーマンス」、ダンスワークショップやシンポジウム、それにシアターイメージフォーラムにて連日夜21:00より上映された「ダンスフィルム」(今回は「ダンスの空間学」がテーマ)、青山ブックセンターで開催されたダンス関連書籍による「ブックフェア」である。いずれも盛況で文字通り青山の街が「ダンス一色」となった。

ジェコ・シオンポ『Emmo』撮影:塚田洋一

各国から選り抜かれた気鋭アーティストたちのパフォーマンスや関連企画を通してダンスの現在を知り、表現の多彩さ文化背景の違いを受け止めることができた。「JAPAN FOCUS」「ASIA FOCUS」の視察を中心に13か国21人のプロデューサーやフェスティバルディレクターが来日したという。世界的なマーケットとしても魅力あるフェスティバルである証だ。同時期開催の「KYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭)」や韓国の「Seoul Performing Arts Festival」「SIDance」等と協力し(一部同演目上演)、アジアのネットワーク作りを深めた点も評価できる。ここから新しい感性が世界に飛躍することを願いたい。

ダンスショウケース・近藤良平 撮影:MILLA ダンスショウケース・近藤良平 撮影:MILLA

最後に触れておきたいのが、メイン会場のひとつ「こどもの城・青山劇場・青山円形劇場」閉鎖問題である。フェスティバル開幕翌日、耳を疑うようなニュースが報道された。厚生労働省管轄下の国立総合児童センター「こどもの城」が老朽化等を理由に2015年春に閉館されるというのだ。あわせて同施設内の両劇場も閉鎖になるという。ダンス/バレエに限っても「ダンストリエンナーレトーキョー」のほか「青山バレエフェスティバル」「ローザンヌ・ガラ」など国際的視野を備えた企画を連打し日本のダンスシーンを牽引してきた(故・高谷静治氏、小野晋司氏をはじめとするスタッフの尽力が大きい)。演劇やミュージカル等も含めたパフォーミングアーツのメッカとして失いたくない。存続を切に願うばかりだ。
(2012年9月27~10月14日 青山円形劇場、スパイラルホール、東京ドイツ文化センター、シアターイメージフォーラムほか)

撮影:塚田洋一(劇場公演)MILLA(ダンスショウケース&屋外パフォーマンス)

高橋森彦

舞踊専門紙誌、日刊紙、美術誌、芸術批評誌、公演プログラム、公演チラシ、Web媒体等に公演評・解説・紹介記事・インタビュー記事を寄稿。 バレエ、コンテンポラリー・ダンスなどのほか演劇等も含めたパフォーミングアーツ全般に関心。
公式ブログ「ダンスの海へ」
http://d.hatena.ne.jp/dance300

ダンストリエンナーレトーキョー2012 公式サイト

http://datto.jp/

ダンストリエンナーレトーキョー2012ダイジェスト