TRICENTENAIRE
DE L’ECOLE FRANÇAISE
DE DANSE

~盛大に300年祭祝ったパリ・オペラ座バレエ学校

写真ⓒSébastien Mathé ,Francette Levieux ,David Elofer /OnP

 既報の通り、パリ・オペラ座では、4月15日から25日まで、ガルニエ宮とベルサイユ宮殿の王立歌劇場を舞台に、バレエ学校の創立300年周年を祝う記念公演がさまざま開催された。

 プログラムは、<フランス派ダンスの300年祭>と題したパリ・オペラ座後援会(AROP)主催のガラ公演(4/15)に続いて、春季恒例のバレエ学校公演(4/17〜18)、<21世紀のバレエ学校>ガラ(4/20)、ベルサイユ公演(4/25)など盛り沢山で、春のバカンスを前にしたオペラ座界隈は祝祭ムードに包まれていた。

デフィレ© David Elofer

 初日のガラ公演は、観客のほとんどが各界の名士や招待客で占められ、数えきれないほどの芳しいバラの花で埋めつくされたガルニエの大階段はかつてないほど豪華絢爛な装い。ただ、当日券を発売しなかったため特に上層階に空席が目立った。3世紀に一度のお祝いのイベントなのだから、できるだけ多くの観客に開放してほしかったが、そもそもパリ・オペラ座バレエの歴史を振り返ると、バレエは太陽王ルイ14世の下で創始された王侯貴族のための余興から始まっている。初日の舞台の模様は一部編集され、近々日本でも放送されるようなので、ここでは2日目からの公演の様子を中心にお伝えする。

今から © Francette Levieux

<バレエ学校公演(SPECTACLE ÉCOLE DE DANSE)>4月17日

 プログラムは4曲。バロックから古典、コンテンポラリーへとフランス・バレエの発展の流れを網羅した内容はさすがに念入りに考慮されたものと伺えた。幕開きは、今回のお祝いのために創作され、15日のガラ公演で初演された『今から』。ラモーのオペラ・バレエ『優雅なインド』からの舞踊音楽に、バロック・ダンスのスペシャリストであるベアトリス・マッサンと、振付家としても台頭しつつある団員のニコラ・ポールが共同で振付けた小品である。ワインレッドの衣裳をつけた20名ほどの男子生徒が、宮廷舞踊のパで登場。ルイ14世時代の宮廷人の趣を醸し出したかと思うと、床に転がったり、宙を舞うなど自由自在に空間に散らばっていく。ティーンエイジャーならではの瑞々しく溌剌とした舞台。バロックとコンテンポラリーを巧みに融合させることに成功していて、今後もバレエ学校のレパートリーとして再演されるに値する佳作である。

ファウスト© Francette Levieux

 次のグノー作曲『ファウスト』からバレエ場面の『ワルプルギスの夜』は久々の復活上演。レオ・スターツの伝統的な振付を、前校長のクロード・ベッシー自ら監修したもの。とにかく甘美で優雅な音楽を耳にしているだけで心が躍る。振付は、随所にスターツの『祭りの夜』を彷彿とさせるパが見られなつかしい。またオペラ座の進級試験の課題曲に使用されたクレオパトラのヴァリエーションは、技術的に高度だが、この日はソリストたちに、初日のようなアクシデントも見られず、クレオパトラのニヌ・セロピアンは、安定したテクニックで踊りこなし立派。トロイのヘレンのロクサーヌ・ストジャノフは、3月にNHKのEテレで放送されたバレエ学校のドキュメンタリーにも登場した生徒で、進境著しく最上級の中では最も貫禄を感じさせた。

青春の罪© Francette Levieux

 しかし総じて、白いチュチュのコール・ド・バレエには期待が大きかっただけに、もう一つ生彩がほしかった。反面、ヌビアやトロイの娘たちの群舞は音楽に乗って、匂い立つような美しさを発散するなど、オペラ座バレエの真価を発揮していたようにみえた。
 3曲目のガルニエ振付『オーニス』は、初日ガラでは団員たちがそつなく踊ったが、今回初めてバレエ学校生徒が踊ったトリオは、フレッシュな魅力に溢れ、この作品に新風をもたらした点が収穫だった。出演は、マラン・ドゥラヴォ、ジュリアン・ギユマール、パブロ・レガザ。この中から明日のスターが生まれることを予感したのは私だけではないだろう。
 最後は、3年前の日本公演で上演されたジャン=ギヨーム・バール振付『青春の罪(ペシェ・ド・ジュネス)』。男女合同のこの作品では、やはり男子生徒の魅力が圧倒的に光る。パ・ド・ドゥでは、女子よりも男子のマチュー・ルオやアントワーヌ・キルシャーらの闊達な身のこなしに自然に目が行ってしまうほどだった。この男子優勢は世界的傾向でもあるのか、続く20日の世界のバレエ学校を招いての合同ガラでも同じような印象を抱いた。

ミラノ・スカラ座バレエ学校『ジムノペディ』© David Elofer

カナダ国立バレエ学校『ジャックの部屋』© David Elofer

<21世紀のバレエ学校(GALA DES ÉCOLES DE DANSE DU XXIE SIÈCLE)>4月20日

 オペラ座バレエ学校300年のお祝いに、世界から7つのバレエ学校が駆けつけた合同ガラ。最初と最後をオペラ座バレエ学校が『ワルプルギスの夜』と『青春の罪』で飾り、その間に7校が出演、クライマックスは、全員によるデフィレで、これは恐らく世紀の歴史的イベントの一つに数えられるであろう。各学校の校長先生たちも舞台に誇らしげに上がり、オペラ座バレエ学校のみならず、各国がバレエの未来のために協力していこうという前向きの姿勢が伝わってくるようだった。

デンマーク王立バレエ学校『王の志願兵』© David Elofer

ボリショイ・バレエ学校『百万長者のアルルカン』© David Elofer

 前半は、オペラ座バレエ学校の『ワルプルギスの夜』に続いて、ミラノ・スカラ座バレエ学校が、プティの『ジムノペディ』を披露(出演:パオラ・ジョヴェンツァナ、アンジェロ・グレコ、エドアルド・カポラレッティ)。最初に登場した男子生徒はプティの粋な世界にはまっていて逸材。女性も既にプロ並みの踊り。次は、デンマーク王立バレエ学校によるブルノンヴィルの『王の志願兵』よりパ・ド・トロワ。セバスチアン・ハイネスが冴えた踊りで、両脇の女性二人の影が若干薄かった。カナダ国立バレエ学校は、アジュール・バートン振付『ジャックの部屋』より。この部分だけでは振付の意図は伝わりにくいが、生徒たち(パトリック・フォスター、ハイレー・ハンブリン、スー・ア・カン、リアム・レドヘッド、マーティン・コートナール)が体当たりで、エネルギーを発散させていたのが印象的。
 前半最後に登場したボリショイ・バレエ学校の『百万長者のアルルカン(アルレキナーダ)』は、ソリストのクセニヤ・リジュコワとアルトゥール・ムクルチャンが胸のすくような技巧を次々に繰り広げ、客席は沸きに沸いた。
 後半は、クランコ・スクールのローランド・ダレシオ振付『太陽に降り注ぐ雪のように』をはじめ、英国ロイヤル・バレエ学校のアシュトンの名作『ラプソディー』、ハンブルク・バレエ学校のノイマイヤー振付『スプリング・アンド・フォール』と見応えのある作品が続いた。中でも、英国ロイヤルのアネット・ブヴォリとエヴァン・ルードンは、成熟したプロの演技で大器の可能性を感じさせた。
 最後にオペラ座バレエ学校が『青春の罪』で登場。ボリショイ・バレエ学校が、純然たるクラシックの強みで圧倒し、それに奮起させられたのか、今回三回見た中で最も完成度の高い舞台を披露し目を見張らせた。このような香り高いネオ・クラシックのバレエで本領を発揮する生徒たちには、無尽蔵の可能性が秘められているようである。

英国ロイヤル・バレエ学校『ラプソディ』© David Elofer

ジョン・クランコ・スクール『太陽に降り注ぐ雪のように』© David Elofer

 出演者全員が行進するデフィレでは、とりわけ最年少と思われる小さな男子生徒たちの、あどけなさを残しながらも凛とした貴族的な表情で行進する姿に深い感銘を受けた。生徒たちの間に入って、エリザベト・プラテル校長と並んで中央に立ったのはノイマイヤー。オペラ座のマーラー・プロでも感じたことだが、その貫禄ある笑顔に、すでに世界バレエ界のリーダー的存在であることを再認識させられた。そして、立ち上がった観客が次に拍手を送ったのは、バルコン席に姿を見せたクロード・ベッシー前校長に対してである。この人物こそ、現在のオペラ座バレエ学校の礎を築いた最大の功労者。かつてと変わらぬにこやかな笑顔は、オペラ座バレエの繁栄の象徴であるかのように思えた。

ハンブルク・バレエ学校『スプリング・アンド・フォール』© David Elofer

『オーニス』© Sébastien Mathé

 こうして、記念行事の主要な催しはつつがなく終了し、新たな100年に向けて、今後の世界のバレエ界の流れを展望させる契機となった。この後は、ガルニエ宮内の博物館で、オペラ座バレエ学校の歴史をテーマにした特別展覧会(6/5〜9/1)が開催される予定である。
[写真ⓒSébastien Mathé ,Francette Levieux ,David Elofer /OnP]