ウィールドン、リャンなど多彩な作品が活気を呼ぶサンフランシスコ・バレエのパリ・シャトレ座公演
<ダンスの夏—LES ÉTÉ DE LA DANSE>
SAN FRANCISCO BALLET  

2005年から開始されたパリの<ダンスの夏>フェスティヴァルが10周年を迎えた。第1回に来演したサンフランシスコ・バレエ(SFB)を再び招いて、7月10日〜26日パリのシャトレ座で公演。初日のガラ公演を皮切りに18回の公演が行われた。

  今回10年ぶりにSFBの舞台を見たが、ヘルギ・トマッソンに率いられたカンパニーが著しい変貌を遂げているのに目を見張らされた。まずそのレパートリーの豊かさ、そしてヤンヤン・タンを筆頭にしたソリスト陣の充実ぶり。今回上演されたプログラムは、ガラ公演の小品も含め20曲余りに上るが、毎日異なった組み合わせが楽しめるのも売り物の一つだった。さすがに全作品を鑑賞することはかなわず、7月11、12日の2日間3公演を取材。それでもバランシンやロビンズといったアメリカ・バレエの源流からトマッソン、ウィールドン、ポソホフ、リャン等の現代作品まで、現在のSFBの活況を展望できる多彩な10演目をじっくり味わうことができた。

サンフランシスコバレエ、ポスター

【7月11日(金)20時】

『カプリス』(2014年)音楽サン=サーンス、振付ヘルギ・トマッソン
『ゴースト』(2010年)音楽C.F.キプ・ウィンガー(Gosts-2009) 振付クリストファー・ウィールドン
『4つの気質』(1948年)音楽ヒンデミット、振付バランシン

 開幕2日目のプログラムは上記3作品。トマッソンの『カプリス』は、サン=サーンスの交響曲第2番と第3番に振り付けられた全4楽章仕立て。マリア・コチェトコワとダヴィット・カラペティアン、ヤンヤン・タンとルーク・インガムのソリストを中心にコール・ド・バレエを配したバランシン風の作品で、ソリスト2組がそれぞれアレグロとアダージョといった対照を成すのが効果的。最後の第4楽章で交響曲第3番のアダージョ(プティの『プルースト』より「囚われの女」の曲と言った方が分かりやすいか)を2組が踊り分けるのがポイントである。

トマッソン振付『カプリス』ⒸErik Tomasson

 2曲目のウィールドンによる『ゴースト』は、キプ・ウィンガーの同名の曲に振り付けられたもの。二人の女性ソリストにヤンヤン・タンとソフィアーヌ・シルヴが登場したが、とりわけヤンヤン・タンが一頭地を抜いている。リフトされれば宙に浮かぶようだし、デュエットでは見事な一体感を見せ、健在ぶりを印象づけた。ミステリアスでスピードが魅力のこの作品。麗しきゴーストたちの舞いの競演というにふさわしかった。

ウィールドン振付『ゴースト』 ⒸErik Tomasson

 3曲目はバランシンの『4つの気質』。メランコリックのタラス・ドミトロ、サンギニックのフランセス・チャンとジョセフ・ウォルシュ、フレグマティックのダヴィト・カラペティアン、コレリックのソフィアーヌ・シルヴ、いずれのパートも明晰な動きで、各々の性格をくっきり描き分けたのが心地よい。



【7月12日(土)15時】

『アレグロ・ブリランテ』(1958年)音楽チャイコフスキー、振付バランシン
『ソロ』(1997年)音楽J・S・バッハ、振付ハンス・ファン・マーネン
『イン・ザ・ナイト』(1970年) 音楽ショパン、振付ジェローム・ロビンズ
『グラス・ピーシズ』(1983年) 音楽フィリップ・グラス、振付ジェローム・ロビンズ

 バランシンとロビンズの名作を核に据え、ファン・マーネン作品の新鮮味を際立たせた絶妙のプログラミング。  『アレグロ・ブリランテ』は、何と言ってもマリア・コチェトコワがスピーディーなピルエットなど目の覚めるようなテクニックを誇示し見応え十分。アンサンブルも軽快で躍動感溢れ心地よい幕開きだった。

 ファン・マーネン振付『ソロ』は、山本帆介、ジョセフ・ウォルシュ、ゲンナディ・ネドヴィジンの3人が登場し、各自がソロを踊って、最後に再び一緒になる、ユーモアを利かせた小品。山本が緩急自在の踊りで気を吐いた。

 3曲目の『イン・ザ・ナイト』は、昨年パリ・オペラ座から移籍して話題を振りまいたマチルド・フルステーが登場するというので、ファンの注目の的となった。ルーベン・マルティン・シンタスと最初のデュエットは繊細そのもので、続くシルヴとヘリメツ、サラ・ヴァン・パッテンとルーク・インガムの2組とのコントラストが鮮やかに浮き出た感。

 最後は『グラス・ピーシズ』で、ここでもヤンヤン・タン がファサードで活躍。リフトをはじめ一つ一つのポーズがまさに自由自在。ソリストのみならず、時に黙々と時に颯爽と舞台を駆け抜けるコール・ド・バレエは爽快そのもの、ラストを盛り上げるのに十分だった。

ロビンズ振付『グラス・ピーシズ』 ⒸErik Tomasson



7月12日(土)20時

『ゴースト』
『ピアノと二人のダンサーのためのシャコンヌ』(1999年) 音楽ヘンデル、振付トマッソン
『古典交響曲』(2010年)音楽プロコフィエフ、振付ユーリ・ポソホフ
『交響的舞曲』(2012年)音楽ラフマニノフ、振付エドワード・リャン

 マチネの公演に感動して、迷っていたソワレも梯子して鑑賞することになったものだが、3公演の中ではこれが一番充実。まずトップの『ゴースト』は、前日とはソリストが入れ替わり、ヤンヤン・タンとダミアン・スミスで、タンが踊ると全く別の作品のように見える。緩急自在の振付が、この人の存在で、さらに繊細でしなやかな様相を帯びてくるのは奇跡のようだった。

 休憩の後は、トマッソンの『シャコンヌ』をチャンとカラペティアンが踊ったのに続いて、ポソホフの『古典交響曲』。おなじみのプロコフィエフの音楽で、古典の技法をベースにヴィルトゥオーゾ的テクニックを発揮させた痛快な作品。ソリストのコチェトコワの妙技に加え、山本の確実で端正なテクニックが光った。


ポソホフ振付『古典交響曲』より中央=山本帆介 ⒸErik Tomasson

 プログラム最後を飾ったリャン振付『交響的舞曲』は、ラフマニノフの同名の音楽に振り付けられた実に壮大なバレエ。40分ほどの長大なシンフォニック・バレエだが、全く弛緩なく、燃える炎のようなエネルギーを発する作品。高い水準のダンサーあっての成果だが、振付家の傑出した才能をあますところなく証明している。ここでは、3つのメインのパ・ド・ドゥにヤンヤン・タン&ルーク・インガム、ソフィアーヌ・シルヴ&ティート・ヘリメツ、マリア・コチェトコワ&ヴィクトール・ルイズとSFBの誇る3人のプリマ・バレリーナをキャスティングしたのも大きな効果を上げた。


リャン振付『交響的舞曲』ⒸErik Tomasson

 音楽も熱情を煽るが、振付は、アクロバット風のリフトやダイナミックな動き、さらに陶酔的な美しさで常に意表を突く。

 SFBは、NYCBと共通するバランシンやロビンズを基本としながら、レパートリーを拡大し、ソリストたちの個性を生かしているところが魅力的に映る。バレエ団の進化とともに、新世代の才能豊かな振付家の作品に出会えたのは嬉しい限りだった。