至高のエトワール〜パリ・オペラ座に生きて〜
Agnès Letestu – L’apogée d’une Étoile
2014年11月8日(土)BUNKAMURAル・シネマほか全国順次公開

 2013年10月10日に、ノイマイヤーの『椿姫』を踊ってパリ・オペラ座のエトワールの座を退いたアニエス・ルテステュの引退までの2年間の足跡を追ったドキュメンタリー映画『至高のエトワール〜パリ・オペラ座に生きて〜』(2013年、93分)がいよいよ公開される。日本では、オペラ座バレエ団との来日で、2013年5月の『天井桟敷の人々』(振付マルティネズ)や、この3月の『椿姫』(振付ノイマイヤー)の名演が記憶に新しいが、とりわけ『椿姫』の「さよなら公演」は多くのアニエス・ファンの心に深い感銘を与えた。

『椿姫』でマルグリットを演じる。

 映像は、『天井桟敷の人々』に始まり、『白鳥の湖』、『シンデレラ』、『放蕩息子』、『ワウンドワーク1』(振付フォーサイス)、『輝夜姫』(振付キリアン)、『シーニュ』(振付カールソン)など引退を目前にしたこのエトワールが一つ一つの作品に精魂込めて取り組んでいく姿をとらえ、キャリアの頂点を極めたアデュー公演『椿姫』で締めくくられる。公演やリハーサルのショットの合間に、ルテステュ自身やジョゼ・マルティネズ、ステファン・ビュリョン、エマニュエル・ティボーといったパートナーたち、そして名教師ギレーヌ・テスマーらのインタビューを交えた映像は、オペラ座で一時代を築いたエトワールのバレエに捧げた人生を生き生きと伝えて実に感動的だ。

2013年10月10日、アデュー公演『椿姫』でマルグリットを踊り終え、万雷の拍手に応えるルテステュ。

 監督はマレーネ・イヨネスコ。ルテステュのドキュメンタリーは、『アニエス・ルテステュ/美のエトワール』(2005年)に次いで2作目。ほかに、ドミニク・カルフーニとマチュー・ガニオ親子のドキュメンタリー『マチュー・ガニオ&カルフーニ〜二人のエトワール〜』(2008年)やピエール・ラコットとギレーヌ・テスマーの『バレエに生きる〜パリ・オペラ座のふたり』(2011年)の制作で知られている。

 ルテステュのデビュー当時を振り返ってみると、身長175cmのスレンダーなプロポーションに正確無比の水際立ったテクニックで、“シルヴィ・ギエムの再来”と言われていたのを思い出す。90年8月に、ヴァルナ国際バレエ・コンクールで金賞を受賞した直後に青山バレエ・フェスティバルに招かれて来日、『グラン・パ・クラシック』のヴァリエーションを見事に踊った頃からその傑出した才能に魅せられた私は、その後15年間にパリに在住し、ルテステュの舞台を可能な限り追い続けることができた。その最初が90年12月のヌレエフ版『ドン・キホーテ』の森の女王で、最後が2006年7月のノイマイヤー振付『椿姫』だった。向かうところ敵なしといった洗練されたテクニックで数々の古典バレエを制覇してきたルテステュが、『椿姫』ではドラマティックなヒロインに挑戦し、新境地に到達したかに見えた。

『天井桟敷の人々』でガランス役を演じ、バティスト役のジョゼ・マルティネズと息の合った共演。

 ルテステュの魅力を語る上で欠かせないのが、デビュー当時からパートナーを組んでいたジョゼ・マルティネズの存在である。ジョゼは「私のバレエの分身」であり、「真のパートナー」だとルテステュは告白する。二人がまだプルミエ時代の94年12月に初めて全幕の主役で共演した『白鳥の湖』の鮮烈なデビューは今でも忘れ難い。ルテステュがエトワールに昇進したのは入団10年後の97年10月、『白鳥の湖』を踊った時のことだった(相手役はローラン・イレール)。“アニエスとジョゼ”は、十八番の『白鳥の湖』をはじめ『ライモンダ』『ドン・キホーテ』『ラ・バヤデール』『眠れる森の美女』『シンデレラ』『ジゼル』『パキータ』といったグランド・バレエで次々と成功を収め、名パートナーシップを築いていったのである。

 この映像の中では、『白鳥の湖』や『天井桟敷の人々』で、二人の息の合ったパートナーシップを見ることができる。とりわけマルティネズの引退公演となった2011年7月15日の『天井桟敷の人々』におけるただ一度のガランスとバティストの共演は、成熟した二人のパートナーシップの頂点を見るようで感動的だった。「ジョゼの引退は、私にとっても何かを失うようだった。私たちは練習してなくても分かり合える間柄だった」と回想するルテステュの言葉が心に響く。

『シーニュ』の振付家カロリン・カールソンと。

 マルティネズ引退後は、新たなパートナー、ステファン・ビュリョンと組み、キリアンの『輝夜姫』やカールソンの『シーニュ』など新しいレパートリーに果敢に挑戦していく姿がまばゆい。「アニエスは古典を知り尽くした人」とビュリョンは絶賛の言葉を贈る。

 遂に迎えたアデュー公演の『椿姫』。「生涯の持ち役」と愛おしむマルグリットの役をルテステュは万感の思いを抱いて踊った。カーテンコールでは、終始気高く、万雷の拍手ににこやかに応える。朋友マルティネズが登場すると、舞台は特別の空気に包まれた。「オペラ座にアニエスとジョゼあり」と謳われた伝説のカップルが蘇った瞬間だった。

 バレエを愛する多くのファンにお勧めしたい珠玉のバレエ・ドキュメンタリーである。

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【INFORMATION】
『至高のエトワール〜パリ・オペラ座に生きて〜』
■ 配給・宣伝:アルシネテラン
■ 公開:11月8日から、Bunkamuraル・シネマほか、全国順次ロードショー!