別格のジェルマン・ルーヴェ
目覚ましい新進たちの活躍
〜パリ・オペラ座バレエ
     <バランシン・プロ>〜

『ブラームス—シェーンベルク・カルテット』ドロテ・ジルベール
Ⓒ Sébastien Mathé/Opéra national de Paris

 パリ・オペラ座バレエ団では、シーズン開幕公演第2弾として、10月22日〜11月15日ガルニエ宮で、<バランシン・プロ>を上演した。曲目は、バレエ団初演となった『モーツァルティアーナ』(1933/81)、先シーズン末にレパートリーに入った『ブラームス–シェーンベルク・カルテット』(1966)、『ヴァイオリン・コンチェルト』(1972)の3演目で、初めの5公演のみ、去る2月に亡くなったヴィオレット・ヴェルディを追悼して、ヴェルディが初演した『ソナチネ』(1975)が上演された。

 残念ながら今回『ソナチネ』は見られなかったが、シリーズ後半で、重厚な3演目をたんのうでき、若い活力溢れたオペラ座バレエ団の現在を確認することができたのは大きな収穫だった。

 私はこれまでオペラ座バレエの踊るバランシン作品は16作品くらいしか見ていない。今回のバランシンの夕べでは、これほど素晴らしい作品がまだあったのかと、未知のバランシン・バレエの魅力に毎晩開眼させられた。これについては、前芸術監督ミルピエに感謝の意を表したい。

 まず、ケヴィン・ローデス指揮するオペラ座管の演奏の透明かつ深遠な響きに耳を奪われた。本公演の成功は、このオーケストラの演奏にかかっていたと言っても過言ではなかろう。バランシンの振付に隠された秘密を垣間見せるような局面には心地よいスリルを覚えたほどだ。後で他の楽団のCDで同じ音楽を繰り返し聞いたのだが、同じ音楽とは思えないほど解釈に違いがある。それほどオペラ座管の演奏は、バレエ演奏として最高級の味わいを出していたと思う。

 幕開きの『モーツァルティアーナ』は、チャイコフスキーが、モーツァルトへのオマージュとして作曲した『管弦楽組曲第4番』に振付けられたもの。オペラ座で踊られたバランシン作品の第31作に当たる(ちなみに30作目は『ブラームス–シェーンベルク・カルテット』)。

 構成は、「祈り」「ジーグ」「メヌエット」「テーマとヴァリエーション」の4部。最初の「祈り」では、女性ソリストに4人のバレエ学校生徒がかしずき、厳粛かつ清らかな祈りのシーンが展開される。ソリストは、ドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオ、ミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマンの2組を鑑賞したが、「テーマとヴァリエーション」におけるソロの掛け合いに見応えがある。シリアスな雰囲気の前者に対し、後者はいかにも楽しげで、同じチャイコフスキーでも全く音色が異なって見えてくるのが不思議だ。

 この作品には、『レ・シルフィード』や『ジゼル』『エメラルド』などを想起させるポーズや動きが隠され、所々で顔を出すのが面白い。「ジーグ」で、狂言回し的に登場するソリスト(アルチュス・ラヴォーとファビアン・レヴィヨンが交替で好演)が、後方で主役ソリストを見つめる視線の奥に何らかのフィーリングを感じてしまうのは私だけではなかろう。

 『ブラームス–シェーンベルク・カルテット』は、ブラームスの『ピアノと弦楽のための四重奏曲』をシェーンベルクがオーケストレーションした50分の大作。まず音楽が豊潤で素晴らしい。毎晩CDを聴いて、素晴らしい舞台の余韻に浸りたくなってしまうほどである。カール・ラガーフェルドのデザインした衣裳が、大変おしゃれで、作品の魅力を倍加させている。

 全体は4楽章。霧の中に幻想的な風景が蘇る第1楽章、サスペンスとロマンスを掛け合わせた第2楽章、ワグナー風の威風堂々とした第3楽章、ボヘミアンの祝祭を思わせる第4楽章と、各楽章異なる色彩で楽しませる。

 第1楽章は、清新なレオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェ組と円熟のジルベールとガニオ組、いずれも音楽に乗って好調の滑り出し。これにブロンドの美女イダ・ヴィイキンコスキ(又はセヴリーヌ・ウェステルマン)が登場すると、何やら謎めいた雰囲気で、ほんのりとドラマを浮かび上がらせるのがバランシンらしく興味深い。

 ジルベールとガニオ組の日は、進級試験でプルミエに昇進したばかりのルーヴェや新コリフェのフランチェスコ・ミュラ、ジェレミー=ルー・ケール、レヴィヨンの4名が競い合うように脇を固めるという豪華さだった。しかし、何と言ってもルーヴェは別格で、進級試験で『眠れる森の美女』からのデジレ王子の長大なヴァリエーションを踊り、出場者の中でただ一人物語の情景を浮かび上がらせたのは大器の証拠である。

 第2楽章は、やはり神秘的な旋律に乗って、3人の女性が登場。ソリストは、レティシア・ピュジョルとステファン・ビュリヨン組がエトワール・カップルの余裕を見せた。

 第3楽章は、ウルド=ブラームとエイマンのペアが圧倒的によい。これにマリー=ソレーヌ・ブレが独特の存在感を示しながら介入してくるのが見もの。
エイマンの颯爽と宙に躍るジャンプは、ぴたっと静止するので本当に見事。ウルド=ブラームの可憐ながら強靭なテクニックも素晴らしい。

 第4楽章は、ヴァランティーヌ・コラサントとカール・パケット(又はアレクサンドル・ガス)はじめ、ボヘミアンの衣裳のコール・ド・バレエが闊達なアンサンブルを繰り広げ、踊りの賑わいのうちに幕を降ろす。

 そういえば、新プルミエールのセ・ウン・パクも随所に登場していたようだが、地味なせいかほとんど印象にない。進級試験では、お得意の『パキータ』のヴァリエーションを踊って成功したが、バレエは跳んだり回ったりだけでは務まらないことを改めて教えられた。

 ストラヴィンスキー曲『ヴァイオリン・コンチェルト』は、緊張感溢れるひと時を生み出す。アリア1:アマンディーヌ・アルビッソン、ユーゴ・マルシャン、アリア2:エレオノラ・アッバニャート、オードリック・ベザールの組み合わせは、それぞれ男性二人がリードする形で、それなりにバランスがよい。

 一方、アリア1:オニール八菜、ケール、アリア2:ミュリエル・ジュスペレギー、パケットの組は、アリア1の二人の輝きがアリア2を圧倒していたことは否めない。

 コール・ド・バレエは、新スジェのアリス・カトネとポール・マルクをはじめ、エロイーズ・ブルドン、アントワーヌ・キルシェール、チュン・ウィン・ラムなど若手の台頭が目立ち、潜在的に非常にレベルが高いことを実感。エトワールからコール・ド・バレエに至るまで主要メンバーの活躍を一通り確認することができ、オーレリ・デュポン新体制での今後に期待が膨らんだ。

『モーツァルティアーナ』エケとバレエ学校生徒たち
Ⓒ Sébastien Mathé/Opéra national de Paris

『モーツァルティアーナ』マチアス・エイマン
Ⓒ Sébastien Mathé/Opéra national de Paris

『ブラームス—シェーンベルク・カルテット』ジルベールとガニオ
Ⓒ Sébastien Mathé/Opéra national de Paris

『ブラームス—シェーンベルク・カルテット』ボラックとルーヴェ
Ⓒ Sébastien Mathé/Opéra national de Paris

『ブラームス—シェーンベルク・カルテット』中央ヴィイキンコスキ、左端ルーヴェ
Ⓒ Sébastien Mathé/Opéra national de Paris

『ヴァイオリン・コンチェルト』オニール八菜
Ⓒ Sébastien Mathé/Opéra