Ballet Factory

渡辺 真弓 ようこそ劇場へ

至宝ロパートキナの優雅な舞い 新星スコーリクが鮮烈なデビュー
〜マリインスキー・バレエ日本公演『ラ・バヤデール』『白鳥の湖』〜

[写真:瀬戸 秀美]

『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』
『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』

 ロシア・バレエの殿堂マリインスキー・バレエ団が、サンクトペテルブルグから3年ぶりに来日し、11月15日から12月2日まで各地で公演した。プログラムは、『ラ・バヤデール』『白鳥の湖』『アンナ・カレーニナ』『オールスター・ガラ』の4本立てで、いずれも歴史あるマリインスキー・バレエの魅力を堪能させてくれる充実したプログラミングだった。

『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』
『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』
『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』
『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』

 公演は、ミンクス作曲、プティパ原振付の『ラ・バ ヤデール』(11月15日)で開幕。マリインスキーでは、2002年、ヴィハレフが復活させた全4幕版を上演しているが、今回は、『影の王国』で終わる3幕版である。パリ・オペラ座のヌレエフ版は、これに準じたもので、随所にヌレエフ版のルーツを見る思いがする。
 ニキヤにウリヤーナ・ロパートキナ、ソロルにダニーラ・コルスンツェフ、ガムザッティにエカテリーナ・コンダウーロワという長身揃いのキャスティングは、実に舞台映えのする魅惑のトリオ。ロパートキナは、第1幕で寺院から初めて姿を見せた瞬間から、えも言われぬ神秘的なオーラを漂わせ、別格の存在。踊りも演技も決して過剰に陥らず、内面からにじみ出る感情表現で観る者の心をとらえる。とりわけソロルへの愛を込めた花かごの踊りから、幻影となってからの重力を感じさせないたおやかな踊りへの転換が見事だった。
 相手役のコルスンツェフは、ニキヤにひかれながらも、ガムザッティの魅力に抗えない心の葛藤を巧みに表現。テクニックも豪快で安定し、各場で3回にわたって披露したマネージュの雄大さは忘れ難い。

『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』
『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』

 コンダウーロワは、現代的な華やかな美貌の持ち主で、ロパートキナ演じるニキヤに対して、凄まじいライバル意識を燃やして迫る姿が圧巻だった。
  第3幕『影の王国』では、32人のコール・ド・バレエが、まるで一筋の糸でつながれているように登場し、独特の霊気を漂わせているところが、マリインスキー・バレエならではの魅力だろう。  アレクセイ・ティモフェーエフによる金の仏像や、ソリストたちによるインドの民族舞踊も迫力十分で、エキゾティスムとロマンティスムの魅力を余すところなく楽しませてくれた。

『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』
『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』
『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』
『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』

 続く『白鳥の湖』(11月17日)は、ウクライナ出身の新進オクサナ・スコーリクの日本デビューが大きな話題。2007年にペルミ国立舞踊学校を卒業し、マリインスキー・バレエに入団した。手脚がスラリと伸びた抜群のプロポーションの持ち主で、アラベスク・パンシェなどで見せる優雅なラインの美しさは絶品。まるで白鳥を踊るために生まれてきたようなバレリーナである。黒鳥では、一転して大胆かつダイナミックな踊りを披露。ピルエットでさりげなく複数回転をこなすテクニシャンでもある。デビューした頃のザハーロワを思わせる逸材で、今後の成長が楽しみである。
 王子のウラジーミル・シクリャローフは、風格ある佇まいを見せ、第3幕では、宙に放物線を描くような雄大なジャンプを惜しげもなく披露し、客席を沸かせた。ソリストでは、パ・ド・トロワを踊ったティムール・アスケロフが長身のノーブルで有望株。道化のワシーリー・トカチェンコは、勢いのある連続回転で大きな喝采を浴びた。背丈の揃った白鳥のコール・ド・バレエは実に壮観。
 アレクセイ・レプニコフ指揮のマリインスキー劇場管弦楽団は、絶妙なニュアンスに富んだ演奏を繰り広げ、各国の踊りなども何と生き生きと踊られたことだろう!まるで民族舞踊のお手本を見るような素晴らしさだった。(以上、会場は文京シビックホール) [写真:瀬戸 秀美]

『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ』

 

●新劇場落成など記念イベント続々

 芸術総監督ゲルギエフが会見
 なお、公演に先立ち、11月14日、芸術総監督のゲルギエフが都内のホテルで記者会見し、マリインスキー劇場の今後の展望について語った。管弦楽団との全国で10回の演奏会の合間を縫っての会見となった。  ゲルギエフとマリインスキー劇場にとって、2012ー2013のシーズンは、記念すべき特別のシーズン。来年は、ゲルギエフが60歳を迎えるのに加え、マリインスキー劇場の芸術監督に就任して25年、さらに5月には、新マリインスキー劇場の落成を控えている。
 マエストロは、1988年、35歳で、マリインスキー劇場の芸術監督に就任。25年間を「ワインが熟成した感じ」と振り返る。現在、本拠地では、マリインスキー劇場(1860年落成、1,800席)とコンサートホール(2006年落成、1,200席)の2カ所で公演活動を行っているが、来年は新たに新劇場としてマリインスキーⅡ(2,000席)が加わり、3つの活動拠点を持つことになる。新劇場は、デカブリストフ通りに建ち、クリュコフ運河を隔てて、マリインスキー劇場の真向かいに位置し、両劇場は通路によってつながれるという。
 「3つの劇場は、リンカーン・センターを想起させるが、違いは、3劇場全てがマリインスキー劇場の管轄であること」とゲルギエフは誇らしげに語る。とりわけ重視しているのが、教育的機能を高めていくことで、子供たちに向けての公演を積極的に行っていく意向だ。例えば、新劇場では、『くるみ割り人形』を年間50〜70回上演することも計画されている。
 『くるみ割り人形』と言えば、1892年にマリインスキー劇場で初演されて、今年でちょうど120周年。これを記念して、2011年12月に録画された舞台(主演:アリーナ・ソーモワ、ウラジーミル・シクリャローフ)が、『くるみ割り人形・イン・3D』として、12月3日、全米の厳選された映画館で上映された。日本での公開が待ち遠しい。
 新劇場のこけら落としの内容はまだ発表できる段階ではないそうだが、2011年のボリショイ劇場リニューアル・オープンに続いて、新時代を迎えるマリインスキー劇場に世界中から熱い視線が注がれている。

渡辺真弓

舞踊ジャーナリスト 10歳でバレエを始め、大学で舞踊教育学を専攻。 オン・ステージ新聞社編集部勤務を経てフリー。 1991年~2006年パリ在住。専門誌紙や公演プログラム等に寄稿。最新刊『名作バレエ50鑑賞入門』(写真:瀬戸秀美/世界文化社)。
公式ブログ
http://blog.livedoor.jp/balletpromenade/